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32、剥がれ落ちる聖性と、ひび割れた祈り
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討論会から三日。
王都の空は澄みわたり、まるで何事もなかったかのように人々は行き交っていた。
だが――変わったのは空気ではない。目だった。
リリアーヌ・グランディールに向けられる目。
“神の娘”ではなく、“理の語り手”として。
そして――フェルミナに向けられる目もまた、変わっていた。
かつては敬意と崇拝の入り混じった“畏れ”だった。
今はそこに、疑いと距離があった。
「……聖女様って、ちょっと……怖いよな」
「この前の演説、なんか呪いみたいで……」
「俺、読み書き講座に移ったわ……あっちのが未来あるし」
それはまだ囁きにすぎなかった。
だが、信仰はさざ波から崩れるものだ。
※
王宮・聖女庁奥、禁足の間。
「……違う……これは、違うのよ……ッ」
フェルミナはひとり、薄暗い祭壇の前で膝をついていた。
だが、その姿はもう“祈り”ではない。
それは――呪詛にも似た、問いの連なりだった。
「なぜ……なぜあの女が……!」
涙で化粧が崩れ、紅が頬を濡らしていく。
それでも、彼女は顔を上げたまま、天井を睨んでいた。
「私はここまで、……全部、神に捧げてきたのよ!!」
近くに控えていた侍女が怯えて下がる。
それに気づくでもなく、フェルミナはなおも言葉を紡ぐ。
「“奇跡”を乞う民に銀貨を配り、“神の声”を背負って生きてきた。誰にも弱音を吐かず、ただ……ただ“聖女”として生きてきたのに――」
声が震え、髪が乱れ、袖が擦れた祭壇にひっかかる。
「どうして、リリアーヌには、“選ばれる”道があるの……?あの女は、神託なんてなくても……人を動かせる?そんなの、ズルいじゃない……ッ!」
その瞬間、彼女の背後にあった祈祷の灯が、一つ、音もなく消えた。
フェルミナは気づかなかった。
いや、気づいていて――見ないようにしていた。
「……ならば、もういいわ」
立ち上がった彼女の顔から、“神の慈愛”と呼ばれた笑みは消えていた。
代わりにあったのは――決意に似た、執着の色だった。
「神の声が届かぬというなら、私自身が“神”になる。それが、私の存在意義なら……リリアーヌを潰してでも……奪い返す」
聖女の衣の裾が翻る。
それはかつて、祈りの証だったもの。
だが今は――復讐の旗だった。
※
同刻、グランディール邸。
リリアーヌはロイエンと向き合いながら、冷静に言った。
「もう、フェルミナ様は“聖女”ではいられなくなるわ。理を持たぬ信仰は、やがて“呪い”に堕ちる」
ロイエンは深く頷いた。
「ならば、我々の道はひとつ。“理を紡ぎ、選ばせる”ことだ」
「そのためにも、次の布石を――」
リリアーヌは文書を開く。
《王都における信仰行政の見直しに関する公聴会開催の申請》
「“神の名”ではなく、“民の声”で制度を問いましょう。聖女ではなく、制度そのものを“祓う”ときが来たのです」
ロイエンの眼差しに、わずかな哂みが浮かぶ。
「それこそ、神が見たら驚く改革だ」
「……神が驚くくらいで、ちょうどいいんじゃなくて?あなたの神様はいかがでいらっしゃいますの?」
そして――リリアーヌは窓の外に目を向ける。
(フェルミナ様、わたくしが奪ったのは、あなたの信者ではありません。
あなたが自分で“神を疑ってしまった”のです――)
聖女の仮面が剥がれ落ち、
その奥にいた“ただの一人の女”が、狂気と共に歩き出す。
信仰の戦いは、もはや理の次元から――個の崩壊へと移っていく。
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王都の空は澄みわたり、まるで何事もなかったかのように人々は行き交っていた。
だが――変わったのは空気ではない。目だった。
リリアーヌ・グランディールに向けられる目。
“神の娘”ではなく、“理の語り手”として。
そして――フェルミナに向けられる目もまた、変わっていた。
かつては敬意と崇拝の入り混じった“畏れ”だった。
今はそこに、疑いと距離があった。
「……聖女様って、ちょっと……怖いよな」
「この前の演説、なんか呪いみたいで……」
「俺、読み書き講座に移ったわ……あっちのが未来あるし」
それはまだ囁きにすぎなかった。
だが、信仰はさざ波から崩れるものだ。
※
王宮・聖女庁奥、禁足の間。
「……違う……これは、違うのよ……ッ」
フェルミナはひとり、薄暗い祭壇の前で膝をついていた。
だが、その姿はもう“祈り”ではない。
それは――呪詛にも似た、問いの連なりだった。
「なぜ……なぜあの女が……!」
涙で化粧が崩れ、紅が頬を濡らしていく。
それでも、彼女は顔を上げたまま、天井を睨んでいた。
「私はここまで、……全部、神に捧げてきたのよ!!」
近くに控えていた侍女が怯えて下がる。
それに気づくでもなく、フェルミナはなおも言葉を紡ぐ。
「“奇跡”を乞う民に銀貨を配り、“神の声”を背負って生きてきた。誰にも弱音を吐かず、ただ……ただ“聖女”として生きてきたのに――」
声が震え、髪が乱れ、袖が擦れた祭壇にひっかかる。
「どうして、リリアーヌには、“選ばれる”道があるの……?あの女は、神託なんてなくても……人を動かせる?そんなの、ズルいじゃない……ッ!」
その瞬間、彼女の背後にあった祈祷の灯が、一つ、音もなく消えた。
フェルミナは気づかなかった。
いや、気づいていて――見ないようにしていた。
「……ならば、もういいわ」
立ち上がった彼女の顔から、“神の慈愛”と呼ばれた笑みは消えていた。
代わりにあったのは――決意に似た、執着の色だった。
「神の声が届かぬというなら、私自身が“神”になる。それが、私の存在意義なら……リリアーヌを潰してでも……奪い返す」
聖女の衣の裾が翻る。
それはかつて、祈りの証だったもの。
だが今は――復讐の旗だった。
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同刻、グランディール邸。
リリアーヌはロイエンと向き合いながら、冷静に言った。
「もう、フェルミナ様は“聖女”ではいられなくなるわ。理を持たぬ信仰は、やがて“呪い”に堕ちる」
ロイエンは深く頷いた。
「ならば、我々の道はひとつ。“理を紡ぎ、選ばせる”ことだ」
「そのためにも、次の布石を――」
リリアーヌは文書を開く。
《王都における信仰行政の見直しに関する公聴会開催の申請》
「“神の名”ではなく、“民の声”で制度を問いましょう。聖女ではなく、制度そのものを“祓う”ときが来たのです」
ロイエンの眼差しに、わずかな哂みが浮かぶ。
「それこそ、神が見たら驚く改革だ」
「……神が驚くくらいで、ちょうどいいんじゃなくて?あなたの神様はいかがでいらっしゃいますの?」
そして――リリアーヌは窓の外に目を向ける。
(フェルミナ様、わたくしが奪ったのは、あなたの信者ではありません。
あなたが自分で“神を疑ってしまった”のです――)
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その奥にいた“ただの一人の女”が、狂気と共に歩き出す。
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あらかじめ予想してたことに、聖女の行動予想通りに進んでますね。
リリアーヌは阻止すべく対抗する予定のはず…。
だけど阻止できず成果もイマイチで、対抗しきれずに聖女の躍進に負けてるよ。
覆すワクワクする展開が見たい!!次回以降期待してます。
お読みいただきありがとうございます😊
お返事が遅くなり申し訳ないです💦
リリアーヌさんが頑張る前に私が頑張らねばという……!
巻き返しはがーーーーっといってもらいたいところです。
今後ともよろしくお願いします🙇♀️
めっちゃ面白いです😊💕
続きが楽しみな作品です🎶
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応援してます😊
お読みいただきありがとうございます😊
更新がちょっと停止していて申し訳ないです。
またお返事も遅くなりまして、申し訳ありません😭
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今後ともよろしくお願いします🙇♀️
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お読みいただきありがとうございます😊
お返事が遅くなり申し訳ないです。
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