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二人のセイル
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夜は、長い。
月の形が、窓辺をひとつずつなぞっては離れていく。
その間、寝台の上にあるひとつの体温だけが、何度も波を打つように震えた。
細い指が、喉元をなぞる。
熱を測るように、または、音の震えを確かめるように。
そこから胸元、腹部、そして脚の間へと指が流れていくたび、セイルの眉が、微かに寄った。
夜着の布地が撫でられ、緩んでいき、落とされる。
無防備に晒された肌はうっすら汗ばんでいて、熱を持ったまま指先を吸い込んでくる。
「こんなに……柔らかくなって。僕らしか知らない場所だよ」
耳元で、かすかに震える吐息。
うなじにかかる髪をかきあげると、そこにはまだ薄く残る痕。
ほんのさっき、二人でつけた噛み痕──番の印。
「ねえ、アルセイン。ここ、またつけてもいい?」
「……ああ。私が最初だったしね」
彼らの会話は、まるで誰かの手紙でも選んでいるかのように穏やかだ。
けれどその手は、まさに熱を分け合うために、眠る体を愛撫している。
指が、唇の端に触れる。
軽くなぞるだけで、薄く色づいたそこがぴくりと震える。
「反応するね」
「眠ってても、僕らだってわかるんだ」
シリオンの声は愛しさと狂気をひと匙ずつ混ぜたようだった。
そのまま頬へ、首へ、そして胸元へ。
唇で触れて、指でなぞって、
眠るセイルの身体に、新しい記憶を重ねていく。
「……ずっと夢見ていたからね、セイルがこうなる未来を」
アルセインが、静かに囁く。
「君がまだ、僕の膝の上に座ってお菓子を欲しがっていた頃から──」
「その口で、違うものを咥えるなんて思いもしなかっただろうけど」
シリオンが笑う。小さく、楽しそうに。
アルセインがそれを効いて眉をごく僅かに顰める。
「どうにもお前は下品なところが否めないな」
「ご容赦を。王太子殿下」
セイルの手が、無意識にシーツを掴んだ。
意識はまだ戻らない。
けれど、身体は反応していた。
触れられるたび、呼ばれるたび、愛された記憶を思い出すように。
「肌が熱くなってきた……」
指が、腿の内側を撫でる。
キスが、腹部をなぞる。
声を出さずに震えるその体を、
まるで繭のように二人が包み込んでいた。
「まだ眠ってる」
「このまま、目を覚まさないでくれたら楽なんだけど」
「でも……目を覚まして、私らを見てくれるのも楽しいかもね」
「はは!悪趣味だ……でもそれはそれで確かに」
唇が、白い肩に触れる。
舌先が水面をすくうように、肌の塩をひとつひとつ舐めとっていく。
喉の奥で、小さな音が鳴った。
思わず反応したのか、足先がシーツを引き寄せる。
「ほら……気持ちいいんだね、セイル」
「身体は覚えてる。僕たちのこと、忘れられないんだ」
「そうしてきたのは、間違いなく私たちだ」
薄くひらいた唇を交互に男たちが吸った。
ちゅっ、くちゅっ、と水を含んだような湿った音が、夜を撫でていく。
指が、彼の中をなぞる。
優しく、けれど容赦なく。
沈んでいたものが揺さぶられ、奥から熱があふれ出す。
「緩くなってきた」
「交代、する?」
シリオンが笑い、手を離す。
代わりにアルセインがその場所に膝を置き、静かに、重なる。
まるで春を迎えに来た雪のように、冷たさと熱がゆっくりと混ざっていく。
「……ん、ふ……っ」
声にならない息が漏れる。
掠れた吐息のなかに、名を呼ぶような音が混じった。
誰の名前かは、もうわからない。
腰が動くたびに、ぐちゅ、ちゅっ、と水音が弾ける。
静かな部屋の中で、愛しさの音だけが響いている。
「こんなに感じてるのに……目は覚めないんだ」
「可哀想なふりして、ほんとはずるいんだよ。この子は……こんなふうにしてても、明日には何も覚えてない」
「それでも、ちゃんと僕たちを欲しがってる」
「私たち二人に飼われているのに気付かず、どちらも選べないと悩んでいる可愛い子」
「……ねえ、兄上。この子に小さな命が芽生えたら、どんな顔すると思う?」
「さあな。私の子かお前の子かと悩みながらも可愛い顔を見せてくれるさ……とりあえず婚礼衣装は、仕立て直さないとだな」
痕を重ねるように、首筋に口づけが落とされる。
数えてはいけない数の跡が、そこに咲いていた。
目元を撫でる指が、濡れている。
涙か、それとも流れ出た何かの残りか。
ふたりの兄弟は、代わる代わるセイルを包み込みながら、何度も、同じ場所に記憶を刻んだ。
「大丈夫、セイル」
「明日になったら、また君は僕たちに笑ってくれる」
「何も知らずに、何も疑わずに」
唇が髪に触れる。
名を囁くように。
何度も、何度でも。
愛している、と。
二人は交互に囁いた。
唇で、指で、身体で。
「君は、僕らのものだよ」
「私たちの番になったのだからね」
──セイルは知らない。
番。それがどちらでもなく、両方であることを。
そして夜は、また深く沈んでいった。
月の形が、窓辺をひとつずつなぞっては離れていく。
その間、寝台の上にあるひとつの体温だけが、何度も波を打つように震えた。
細い指が、喉元をなぞる。
熱を測るように、または、音の震えを確かめるように。
そこから胸元、腹部、そして脚の間へと指が流れていくたび、セイルの眉が、微かに寄った。
夜着の布地が撫でられ、緩んでいき、落とされる。
無防備に晒された肌はうっすら汗ばんでいて、熱を持ったまま指先を吸い込んでくる。
「こんなに……柔らかくなって。僕らしか知らない場所だよ」
耳元で、かすかに震える吐息。
うなじにかかる髪をかきあげると、そこにはまだ薄く残る痕。
ほんのさっき、二人でつけた噛み痕──番の印。
「ねえ、アルセイン。ここ、またつけてもいい?」
「……ああ。私が最初だったしね」
彼らの会話は、まるで誰かの手紙でも選んでいるかのように穏やかだ。
けれどその手は、まさに熱を分け合うために、眠る体を愛撫している。
指が、唇の端に触れる。
軽くなぞるだけで、薄く色づいたそこがぴくりと震える。
「反応するね」
「眠ってても、僕らだってわかるんだ」
シリオンの声は愛しさと狂気をひと匙ずつ混ぜたようだった。
そのまま頬へ、首へ、そして胸元へ。
唇で触れて、指でなぞって、
眠るセイルの身体に、新しい記憶を重ねていく。
「……ずっと夢見ていたからね、セイルがこうなる未来を」
アルセインが、静かに囁く。
「君がまだ、僕の膝の上に座ってお菓子を欲しがっていた頃から──」
「その口で、違うものを咥えるなんて思いもしなかっただろうけど」
シリオンが笑う。小さく、楽しそうに。
アルセインがそれを効いて眉をごく僅かに顰める。
「どうにもお前は下品なところが否めないな」
「ご容赦を。王太子殿下」
セイルの手が、無意識にシーツを掴んだ。
意識はまだ戻らない。
けれど、身体は反応していた。
触れられるたび、呼ばれるたび、愛された記憶を思い出すように。
「肌が熱くなってきた……」
指が、腿の内側を撫でる。
キスが、腹部をなぞる。
声を出さずに震えるその体を、
まるで繭のように二人が包み込んでいた。
「まだ眠ってる」
「このまま、目を覚まさないでくれたら楽なんだけど」
「でも……目を覚まして、私らを見てくれるのも楽しいかもね」
「はは!悪趣味だ……でもそれはそれで確かに」
唇が、白い肩に触れる。
舌先が水面をすくうように、肌の塩をひとつひとつ舐めとっていく。
喉の奥で、小さな音が鳴った。
思わず反応したのか、足先がシーツを引き寄せる。
「ほら……気持ちいいんだね、セイル」
「身体は覚えてる。僕たちのこと、忘れられないんだ」
「そうしてきたのは、間違いなく私たちだ」
薄くひらいた唇を交互に男たちが吸った。
ちゅっ、くちゅっ、と水を含んだような湿った音が、夜を撫でていく。
指が、彼の中をなぞる。
優しく、けれど容赦なく。
沈んでいたものが揺さぶられ、奥から熱があふれ出す。
「緩くなってきた」
「交代、する?」
シリオンが笑い、手を離す。
代わりにアルセインがその場所に膝を置き、静かに、重なる。
まるで春を迎えに来た雪のように、冷たさと熱がゆっくりと混ざっていく。
「……ん、ふ……っ」
声にならない息が漏れる。
掠れた吐息のなかに、名を呼ぶような音が混じった。
誰の名前かは、もうわからない。
腰が動くたびに、ぐちゅ、ちゅっ、と水音が弾ける。
静かな部屋の中で、愛しさの音だけが響いている。
「こんなに感じてるのに……目は覚めないんだ」
「可哀想なふりして、ほんとはずるいんだよ。この子は……こんなふうにしてても、明日には何も覚えてない」
「それでも、ちゃんと僕たちを欲しがってる」
「私たち二人に飼われているのに気付かず、どちらも選べないと悩んでいる可愛い子」
「……ねえ、兄上。この子に小さな命が芽生えたら、どんな顔すると思う?」
「さあな。私の子かお前の子かと悩みながらも可愛い顔を見せてくれるさ……とりあえず婚礼衣装は、仕立て直さないとだな」
痕を重ねるように、首筋に口づけが落とされる。
数えてはいけない数の跡が、そこに咲いていた。
目元を撫でる指が、濡れている。
涙か、それとも流れ出た何かの残りか。
ふたりの兄弟は、代わる代わるセイルを包み込みながら、何度も、同じ場所に記憶を刻んだ。
「大丈夫、セイル」
「明日になったら、また君は僕たちに笑ってくれる」
「何も知らずに、何も疑わずに」
唇が髪に触れる。
名を囁くように。
何度も、何度でも。
愛している、と。
二人は交互に囁いた。
唇で、指で、身体で。
「君は、僕らのものだよ」
「私たちの番になったのだからね」
──セイルは知らない。
番。それがどちらでもなく、両方であることを。
そして夜は、また深く沈んでいった。
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