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感じた熱
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王太子殿下との昼食を終え、朝に出た王弟殿下の研究室へ戻る。
そこは、いつものように静かだった。
王弟殿下は人懐こい性格ながらも、私的空間に人を入れるのは酷く嫌う。
だからこの研究室に入れる人間は極々少ない。
兄である王太子殿下と、僕ぐらいなもの。
研究室の奥には一時的に仮眠が取れる場所があり、王弟殿下は自室よりもここに入り浸っていた。
何にでも興味を示す王弟殿下だが、とりわけ薬学に研究熱心であり、放っておくとずっとそればかりに齧り付いて昼夜さえ曖昧だ。
だから僕は研究のお手伝いをしつつ、部屋の清掃や王弟殿下の食事など、諸々のお世話をしていた。
「セイル様がおられると、本当に助かります」
そう、皆が感謝をしてくれた。
だからこそ、その部屋の奥での蜜事など誰も想像しないし、疑いもしない。
たとえ僕がこの部屋から出てこなくても、王弟殿下の研究に付き合われる優しいセイル様、だった。
窓から射し込む光が薬棚を照らして、ガラス瓶の中の液体を淡く煌めかせている。
僕は助手の白衣に袖を通しながら、整えた書類を片手に机へ近づいた。
「こちら、まとめてきました。薬草の選定表と、管理記録……」
言いながらふと、視界が揺れた気がした。
ほんの少し、足元がふらつく。
……なんだろう。変な感じ。
(……さっきまで、アルセイン殿下に触れられてたから……?)
思い出しそうになって、首を振る。
気を取り直すように僕は小さく息を吐く。
「朝ぶりだね、セイル。いつも助かるよ」
部屋の奥から現れたシリオン殿下は、いつもと変わらない笑顔だった。
白衣のまま、僕に近づく。
「……あれ?セイル……」
「はい?」
「もしかして……発情期が、近い?」
その言葉に、思わず呼吸が止まった。
「……え? でも……今朝、渡された薬、ちゃんと……」
僕の飲む薬は、王弟殿下がすべて調合している。
王太子殿下さえ、その内容までは恐らく知らない。
情事のあとに飲まされる避妊薬も、毎朝の体調を整えるハーブティーも。
彼の手の中で、僕の身体は律されていた。
シリオンは僕の額に手を当てて、ゆっくりと熱を測るように撫でる。
その指先が、少しだけ長く触れた気がした。
「念のため、今日はもう一度抑制剤を飲んでおこう。ほら、これ」
渡されたのは、いつものものと少しだけ色の違う琥珀色の液体。
でも、そんな違いを気にする余裕なんてなかった。
「……わかりました」
ためらいなく口に含み、流し込む。
ほんの数秒後、胃の底が、絞られたように痛んだ。
「っ、あ……、なに……?」
「セイル?」
椅子に座ろうとした足が、うまく動かない。
視界がぼやけて、頭がうまく働かない。
「おかしい……薬……」
「大丈夫、大丈夫。……すぐ、楽になるよ」
微笑んだシリオンの声は、優しくて、甘かった。
違和感を覚えた時には──もう、遅かった。
身体の奥が熱を帯びて、皮膚の内側から煮え立つように疼いてくる。
脳が、身体が、何かを求めて焦がれていく。
(こんな、こと……今までなかった……なんで……?)
「し、りお……ん、だめ……ぼく、ちょっと……」
目の前の視界が、ぐにゃり、と揺れる。
誰かに支えられて倒れこむ直前、耳元で、囁きが落ちてきた。
「ああ、効いたね。……今夜は三人で、か」
──何を、言って……?
その意味を考えるより早く、意識は、黒に落ちた。
そこは、いつものように静かだった。
王弟殿下は人懐こい性格ながらも、私的空間に人を入れるのは酷く嫌う。
だからこの研究室に入れる人間は極々少ない。
兄である王太子殿下と、僕ぐらいなもの。
研究室の奥には一時的に仮眠が取れる場所があり、王弟殿下は自室よりもここに入り浸っていた。
何にでも興味を示す王弟殿下だが、とりわけ薬学に研究熱心であり、放っておくとずっとそればかりに齧り付いて昼夜さえ曖昧だ。
だから僕は研究のお手伝いをしつつ、部屋の清掃や王弟殿下の食事など、諸々のお世話をしていた。
「セイル様がおられると、本当に助かります」
そう、皆が感謝をしてくれた。
だからこそ、その部屋の奥での蜜事など誰も想像しないし、疑いもしない。
たとえ僕がこの部屋から出てこなくても、王弟殿下の研究に付き合われる優しいセイル様、だった。
窓から射し込む光が薬棚を照らして、ガラス瓶の中の液体を淡く煌めかせている。
僕は助手の白衣に袖を通しながら、整えた書類を片手に机へ近づいた。
「こちら、まとめてきました。薬草の選定表と、管理記録……」
言いながらふと、視界が揺れた気がした。
ほんの少し、足元がふらつく。
……なんだろう。変な感じ。
(……さっきまで、アルセイン殿下に触れられてたから……?)
思い出しそうになって、首を振る。
気を取り直すように僕は小さく息を吐く。
「朝ぶりだね、セイル。いつも助かるよ」
部屋の奥から現れたシリオン殿下は、いつもと変わらない笑顔だった。
白衣のまま、僕に近づく。
「……あれ?セイル……」
「はい?」
「もしかして……発情期が、近い?」
その言葉に、思わず呼吸が止まった。
「……え? でも……今朝、渡された薬、ちゃんと……」
僕の飲む薬は、王弟殿下がすべて調合している。
王太子殿下さえ、その内容までは恐らく知らない。
情事のあとに飲まされる避妊薬も、毎朝の体調を整えるハーブティーも。
彼の手の中で、僕の身体は律されていた。
シリオンは僕の額に手を当てて、ゆっくりと熱を測るように撫でる。
その指先が、少しだけ長く触れた気がした。
「念のため、今日はもう一度抑制剤を飲んでおこう。ほら、これ」
渡されたのは、いつものものと少しだけ色の違う琥珀色の液体。
でも、そんな違いを気にする余裕なんてなかった。
「……わかりました」
ためらいなく口に含み、流し込む。
ほんの数秒後、胃の底が、絞られたように痛んだ。
「っ、あ……、なに……?」
「セイル?」
椅子に座ろうとした足が、うまく動かない。
視界がぼやけて、頭がうまく働かない。
「おかしい……薬……」
「大丈夫、大丈夫。……すぐ、楽になるよ」
微笑んだシリオンの声は、優しくて、甘かった。
違和感を覚えた時には──もう、遅かった。
身体の奥が熱を帯びて、皮膚の内側から煮え立つように疼いてくる。
脳が、身体が、何かを求めて焦がれていく。
(こんな、こと……今までなかった……なんで……?)
「し、りお……ん、だめ……ぼく、ちょっと……」
目の前の視界が、ぐにゃり、と揺れる。
誰かに支えられて倒れこむ直前、耳元で、囁きが落ちてきた。
「ああ、効いたね。……今夜は三人で、か」
──何を、言って……?
その意味を考えるより早く、意識は、黒に落ちた。
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