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王太子殿下との蕩ける時間
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「失礼致します」
そう声をかけて入った執務室は、書類の匂いと淡い香の香りが混ざっていて、僕はその中に立つだけで、自然と背筋が伸びた。
「お待たせしました」
ドアを閉めて礼を取ると、彼──アルセイン殿下は
机の上から視線を上げ、微かに目元を綻ばせた。
「少し早いね」
「今日は午前の報告書が早く終わったんです。……運が良かったのかもしれません」
「そう」
椅子から立ち上がった彼は、手元の書類をひとまとめにして、何も言わずに机の端へ寄せた。
もう、仕事は終わらせた──そういう合図。
「セイル」
名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、彼の指が僕の首元にそっと伸びた。
「……ここ、見えているよ」
指先が軽く触れた場所。
思わず反射で身体が跳ねる。
「今朝、急いでいて……すみません、隠せてなくて」
「ううん。怒ってるんじゃない。……ただ、薄くなってる。消える前に、また印をつけておかなきゃね」
何の冗談かと思ったのに、
彼の瞳には、微笑みの奥に一片の曇りもなかった。
「セイルの首は綺麗だから……痕がよく映えるね」
「そ、そんなこと言わないでください……」
恥ずかしくて目を逸らすと、
顎をそっと指で取られて、顔を正面に戻される。
「見せて。……ほら、少し傾けて」
「……っ」
声が出なかった。
それでも僕は、言われた通りに首を傾ける。
ちう、と強く吸われる。
肌が冷たい空気に晒されたその一瞬だけ、心臓の鼓動がやけにうるさく響いた。
「セイル。君は、私のものだ」
痕がついたであろう、僕の肌を舐めながら満足そうに呟いた。
その言葉が、どうしようもなく、嬉しくて。
どうしようもなく、怖かった。
彼の指が、シャツの留め具にかかる音。
控えめな衣擦れの音が、室内にやけに響いた気がした。
「……っ、ここ、執務室で……っ」
ようやく声を絞り出す。
けれど、彼の手は止まらない。
「知ってるよ。でも──今、君に触れたい」
唇が、首筋を這う。
先ほどの場所に、新たな熱が重ねられた。
まるで印を、焼き直すように。
婚約が決まる前から、僕はすでに王太子殿下の腕の中にいた。
最初は、ただ口づけて、抱きしめられるだけだった。
それがいつしか全てをゆるやかに、甘く、奪われていった。
僕はそれを拒みもしなかった。
……今と、同じように。
「……だめ、誰か、来たら──」
「私が君を寵愛しているなんて……王宮の誰もが知っていることだよ」
静かな声だった。
まるで、今夜の天気の話でもするように。
僕は、抗うふりをして、けれどその実、心の奥で──求めていたのかもしれない。
この人の温度も、力も、声も。
上着が、滑り落ちる感覚。手際よくズボンも下着ごと下ろされていた。
冷たい空気が肌を撫で、次いで彼の指先が身体の奥へと続く入り口を撫でる。
「っ、あ……」
喉奥から、声が漏れた。
彼の指は、慣れた動きでそこを愛撫しながら、もう片方の手で、男の芯を握った。
「今日は、いつもより……柔らかいね。日をあけずに抱いているから慣れてしまった?」
「なっ……!」
そんなこと、言わないで──と言いたかったのに、口は、開いたまま言葉を失っていた。
彼は、いつだってこうだ。
優しさと支配を、同じ手のひらにのせて、僕を溶かしていく。
「ん、ふ……っ、あ、でんか……っ」
声が止められず、漏れ出す。
ぐちぐちと卑猥な水音を立てながら、殿下の長い指が僕の中をかき混ぜている。
程よいところでその指が引き抜かれると、
「安心して。……痛くはしないから」
低く甘い声とともに、奥へと、ゆっくり形を刻むように、彼が入ってくる。
それと同時に、僕の慣れきった身体は、彼の掌の上で射精をしていた。
「ぅ、あ──っ……」
執務机が、背に迫る。
そうされると、逃げ場なんてまるで無かった。
先ほどまで書類が並んでいた場所で、僕は、はしたなく足を開いた。
そして、熱を──彼を、受け入れていた。
広くて、無機質な空間。
それなのに、彼に抱かれているこの場所だけが、やけに、熱くて、狭かった。
一度入れば、すべてを占めてしまう。
どこにも行けずに快楽を拾うしかできないことを、僕の身体が、何より知っていた。
「いい子だね、セイル……奥まで、全部入ったよ」
「っ、や、もう……深……っ」
指先が髪をすくい、額へ触れる。
それが優しさなのか、拘束なのか、もう判別できなかった。
動き出した腰は、深く、ゆっくりと。
じっくり、奥の奥まで──何度も、同じ場所を、記憶に刻むように、律動してくる。
昂る身体を止められないまま、僕はただただ彼の肩に縋った。
「殿下……、殿下……ぼく……っ」
「うん。わかってる。……気持ちよく、してあげる」
甘く囁く声に、喉奥が震える。
呼吸も、思考も、彼に絡め取られて、
僕はもう、何も考えられなくなっていた。
──ずるいのは、
きっと、僕じゃない。
そう声をかけて入った執務室は、書類の匂いと淡い香の香りが混ざっていて、僕はその中に立つだけで、自然と背筋が伸びた。
「お待たせしました」
ドアを閉めて礼を取ると、彼──アルセイン殿下は
机の上から視線を上げ、微かに目元を綻ばせた。
「少し早いね」
「今日は午前の報告書が早く終わったんです。……運が良かったのかもしれません」
「そう」
椅子から立ち上がった彼は、手元の書類をひとまとめにして、何も言わずに机の端へ寄せた。
もう、仕事は終わらせた──そういう合図。
「セイル」
名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、彼の指が僕の首元にそっと伸びた。
「……ここ、見えているよ」
指先が軽く触れた場所。
思わず反射で身体が跳ねる。
「今朝、急いでいて……すみません、隠せてなくて」
「ううん。怒ってるんじゃない。……ただ、薄くなってる。消える前に、また印をつけておかなきゃね」
何の冗談かと思ったのに、
彼の瞳には、微笑みの奥に一片の曇りもなかった。
「セイルの首は綺麗だから……痕がよく映えるね」
「そ、そんなこと言わないでください……」
恥ずかしくて目を逸らすと、
顎をそっと指で取られて、顔を正面に戻される。
「見せて。……ほら、少し傾けて」
「……っ」
声が出なかった。
それでも僕は、言われた通りに首を傾ける。
ちう、と強く吸われる。
肌が冷たい空気に晒されたその一瞬だけ、心臓の鼓動がやけにうるさく響いた。
「セイル。君は、私のものだ」
痕がついたであろう、僕の肌を舐めながら満足そうに呟いた。
その言葉が、どうしようもなく、嬉しくて。
どうしようもなく、怖かった。
彼の指が、シャツの留め具にかかる音。
控えめな衣擦れの音が、室内にやけに響いた気がした。
「……っ、ここ、執務室で……っ」
ようやく声を絞り出す。
けれど、彼の手は止まらない。
「知ってるよ。でも──今、君に触れたい」
唇が、首筋を這う。
先ほどの場所に、新たな熱が重ねられた。
まるで印を、焼き直すように。
婚約が決まる前から、僕はすでに王太子殿下の腕の中にいた。
最初は、ただ口づけて、抱きしめられるだけだった。
それがいつしか全てをゆるやかに、甘く、奪われていった。
僕はそれを拒みもしなかった。
……今と、同じように。
「……だめ、誰か、来たら──」
「私が君を寵愛しているなんて……王宮の誰もが知っていることだよ」
静かな声だった。
まるで、今夜の天気の話でもするように。
僕は、抗うふりをして、けれどその実、心の奥で──求めていたのかもしれない。
この人の温度も、力も、声も。
上着が、滑り落ちる感覚。手際よくズボンも下着ごと下ろされていた。
冷たい空気が肌を撫で、次いで彼の指先が身体の奥へと続く入り口を撫でる。
「っ、あ……」
喉奥から、声が漏れた。
彼の指は、慣れた動きでそこを愛撫しながら、もう片方の手で、男の芯を握った。
「今日は、いつもより……柔らかいね。日をあけずに抱いているから慣れてしまった?」
「なっ……!」
そんなこと、言わないで──と言いたかったのに、口は、開いたまま言葉を失っていた。
彼は、いつだってこうだ。
優しさと支配を、同じ手のひらにのせて、僕を溶かしていく。
「ん、ふ……っ、あ、でんか……っ」
声が止められず、漏れ出す。
ぐちぐちと卑猥な水音を立てながら、殿下の長い指が僕の中をかき混ぜている。
程よいところでその指が引き抜かれると、
「安心して。……痛くはしないから」
低く甘い声とともに、奥へと、ゆっくり形を刻むように、彼が入ってくる。
それと同時に、僕の慣れきった身体は、彼の掌の上で射精をしていた。
「ぅ、あ──っ……」
執務机が、背に迫る。
そうされると、逃げ場なんてまるで無かった。
先ほどまで書類が並んでいた場所で、僕は、はしたなく足を開いた。
そして、熱を──彼を、受け入れていた。
広くて、無機質な空間。
それなのに、彼に抱かれているこの場所だけが、やけに、熱くて、狭かった。
一度入れば、すべてを占めてしまう。
どこにも行けずに快楽を拾うしかできないことを、僕の身体が、何より知っていた。
「いい子だね、セイル……奥まで、全部入ったよ」
「っ、や、もう……深……っ」
指先が髪をすくい、額へ触れる。
それが優しさなのか、拘束なのか、もう判別できなかった。
動き出した腰は、深く、ゆっくりと。
じっくり、奥の奥まで──何度も、同じ場所を、記憶に刻むように、律動してくる。
昂る身体を止められないまま、僕はただただ彼の肩に縋った。
「殿下……、殿下……ぼく……っ」
「うん。わかってる。……気持ちよく、してあげる」
甘く囁く声に、喉奥が震える。
呼吸も、思考も、彼に絡め取られて、
僕はもう、何も考えられなくなっていた。
──ずるいのは、
きっと、僕じゃない。
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