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第36話『崩れさる正義』
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砦の門外から響いた角笛の音に、場の空気が微かに揺れた。
それでも誰一人、声を発さない。
ゼノス・アーチが崩れ落ちたことで、戦いは終わった。
けれど、その余波はまだ、誰の胸にも残っている。
地に沈む彼の姿を見下ろしていたイーサン団長が、ゆっくりと息を吐く。
そして、兵に合図を送ると、砦の門が大きく開かれた。
王都軍使の一団が、整然と馬を進めて入ってくる。
白銀の軍服に身を包み、無駄のない動作で砦内に布陣していくその姿は、一瞬でこの場の「主導権」を奪っていった。
「黒騎士団の皆様──王命により、反乱鎮圧の確認と、主犯の身柄を預かりに参上しました」
先頭の男がそう告げると、イーサン団長とテオさんが前へ進み出て、静かに一礼する。
「紫騎士団・ゼノス・アーチ、拘束済み。ここにお引き渡しいたします」
「確かに。速やかに王都へ移送します。軍上層部への報告と、今後の騎士団再編に関しても、追って連絡いたします」
数人の衛兵が、意気を失っているゼノスのもとへ歩み寄り、その手に拘束具をかけた。
冷たい金属音が、やけに響く。
ゼノスの身体は抵抗ひとつ見せず、そのまま持ち上げられて馬車へと運ばれていった。
……あっけないほど、静かな処理だった。
その背を、テオさんは黙って見送っていた。
視線の先にあるのは、きっともう、過去ではない。
「……終わりましたね」
僕がそう呟くと、テオさんは少しだけ頷いた。
「終わった……けれど、始まったとも言えるかもしれないな。これからが、本当の意味で」
※
戦後処理は淡々と進んだ。
王都軍使は紫騎士団の内訳を速やかに査問し、忠誠を誓う意思がある兵のみを仮編入の形で収容。
反抗的な者には査問官の派遣が通達され、数日中に王都に呼び出しがかかる見通しだという。
その一方で、黒騎士団の防衛記録は高く評価され、イーサン団長とテオさんが王都に向かうと聞いたの、まさに今だった。
「お前も同行するんだ、レン」
そう告げられて、僕は一瞬、耳を疑った。
「……僕、ですか?」
「ああ。王より直々に話があった。このことが片付いたらお前の顔を、見たいと」
「……何それ」
思わず眉を寄せて肩をすくめると、イーサン団長がくっと笑った。
「いい加減、自分の価値に気づけ。お前はこの砦で、誰より働いた」
「そうだと思いますよ。少なくとも、私の中では、レンはもう騎士団員の一人だ」
テオさんの言葉に、僕は何も言えなかった。
たぶん、嬉しさで泣きそうになっていたから。
※
出立の馬車は、早朝の冷たい風を受けてゆっくりと動き出した。
前方には王都へと続く道。
そこに新しい何かが待っているかはわからない。
でも──僕は今、確かにそこへ向かっている。
「……王都って、どんなところなんでしょう」
ぼそっと呟いた僕の声に、隣に座るルースさんが小さく笑う。
「お前なら気に入るさ。皮肉の効いたやつが多くてな」
「それ、褒めてるんですか?」
「さあな」
そう言って、ルースさんは窓の外を見た。
向かい側に座るロナルドさんは、目を閉じて微かに息を整えていた。
眠っているのか、ただ疲れを癒しているだけなのか──それは分からない。
ふと視線を外に向ける。
視線の先には、朝焼けが広がっている。
戦いの夜が明けて、空が赤く染まっていく。
……戦いは、終わったのだ。
(けど、まあ……気は抜けないかな……)
王都の空の下で、僕たちはまた、試されるのかもしれない。
それでも、今は──この馬車に乗っている。
それだけで、十分だった。
———————
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それでも誰一人、声を発さない。
ゼノス・アーチが崩れ落ちたことで、戦いは終わった。
けれど、その余波はまだ、誰の胸にも残っている。
地に沈む彼の姿を見下ろしていたイーサン団長が、ゆっくりと息を吐く。
そして、兵に合図を送ると、砦の門が大きく開かれた。
王都軍使の一団が、整然と馬を進めて入ってくる。
白銀の軍服に身を包み、無駄のない動作で砦内に布陣していくその姿は、一瞬でこの場の「主導権」を奪っていった。
「黒騎士団の皆様──王命により、反乱鎮圧の確認と、主犯の身柄を預かりに参上しました」
先頭の男がそう告げると、イーサン団長とテオさんが前へ進み出て、静かに一礼する。
「紫騎士団・ゼノス・アーチ、拘束済み。ここにお引き渡しいたします」
「確かに。速やかに王都へ移送します。軍上層部への報告と、今後の騎士団再編に関しても、追って連絡いたします」
数人の衛兵が、意気を失っているゼノスのもとへ歩み寄り、その手に拘束具をかけた。
冷たい金属音が、やけに響く。
ゼノスの身体は抵抗ひとつ見せず、そのまま持ち上げられて馬車へと運ばれていった。
……あっけないほど、静かな処理だった。
その背を、テオさんは黙って見送っていた。
視線の先にあるのは、きっともう、過去ではない。
「……終わりましたね」
僕がそう呟くと、テオさんは少しだけ頷いた。
「終わった……けれど、始まったとも言えるかもしれないな。これからが、本当の意味で」
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戦後処理は淡々と進んだ。
王都軍使は紫騎士団の内訳を速やかに査問し、忠誠を誓う意思がある兵のみを仮編入の形で収容。
反抗的な者には査問官の派遣が通達され、数日中に王都に呼び出しがかかる見通しだという。
その一方で、黒騎士団の防衛記録は高く評価され、イーサン団長とテオさんが王都に向かうと聞いたの、まさに今だった。
「お前も同行するんだ、レン」
そう告げられて、僕は一瞬、耳を疑った。
「……僕、ですか?」
「ああ。王より直々に話があった。このことが片付いたらお前の顔を、見たいと」
「……何それ」
思わず眉を寄せて肩をすくめると、イーサン団長がくっと笑った。
「いい加減、自分の価値に気づけ。お前はこの砦で、誰より働いた」
「そうだと思いますよ。少なくとも、私の中では、レンはもう騎士団員の一人だ」
テオさんの言葉に、僕は何も言えなかった。
たぶん、嬉しさで泣きそうになっていたから。
※
出立の馬車は、早朝の冷たい風を受けてゆっくりと動き出した。
前方には王都へと続く道。
そこに新しい何かが待っているかはわからない。
でも──僕は今、確かにそこへ向かっている。
「……王都って、どんなところなんでしょう」
ぼそっと呟いた僕の声に、隣に座るルースさんが小さく笑う。
「お前なら気に入るさ。皮肉の効いたやつが多くてな」
「それ、褒めてるんですか?」
「さあな」
そう言って、ルースさんは窓の外を見た。
向かい側に座るロナルドさんは、目を閉じて微かに息を整えていた。
眠っているのか、ただ疲れを癒しているだけなのか──それは分からない。
ふと視線を外に向ける。
視線の先には、朝焼けが広がっている。
戦いの夜が明けて、空が赤く染まっていく。
……戦いは、終わったのだ。
(けど、まあ……気は抜けないかな……)
王都の空の下で、僕たちはまた、試されるのかもしれない。
それでも、今は──この馬車に乗っている。
それだけで、十分だった。
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