転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし

文字の大きさ
70 / 74
外伝1 護衛官は甘い罠に囚われる~アレックスとシリル~

11

しおりを挟む
夜が明け、デリカート邸の執務室にはいまだ緊張した空気が漂っていた。
昨日の使い魔襲撃を受けて、俺、リアム、そしてキース卿が再び集まり、対策を練っている。

「……以上が昨夜の報告です。使い魔がシリルを狙って侵入したこと、結界が破られたことは明白です」

俺が静かに報告を終えると、リアムが地図を広げて候補地に印をつけた。

「昨夜の使い魔の動きから見て、この地点がやはり最も怪しいですね。昨夜も報告しましたが、最近、不可解な失踪事件も相次いでいますし」

リアムが指差したのは、山間部にある古い廃坑だった。

「だが、現地を調査するのは簡単じゃないね」

キース卿が重々しい声で口を開いた。

「モルディスは罠を張り巡らせるのが得意だ。結界を破るには聖属性を持つ者の力が必要だろう。それも神官レベルではない。──つまり、シリルの同行が不可欠だ」

その言葉に、俺は即座に反対の声を上げた。

「それには反対です。シリルを危険な場所に連れて行くわけにはいかない。邸に残して守りを固めるべきです。ノエルに協力は仰げないのですか」

だが、リアムは首を横に振った。

「ノエルは今、無理なんですよ」
「それはどうしてまた……」

俺が聞くと、リアムは一度キース卿を見てから肩を竦める。

「お腹にね、子供がいるので……流石に危険な場所には連れていけないんですよ」

その理由に俺は一瞬言葉が止まったが、それはそうだな、と頷いた。
にしても、だ。やはりシリルを連れて行くのは俺としては反対ではある。
けれど、俺がそう再度反対する前に、

「ノエルが同行出来ないということは、現状でその結界を破れるのは、今のところシリルだけです。彼がいなければ、どれほどの兵を連れて行っても意味がない」

そう続けた。そして、それに続くように、

「その通りだよ、アレックス様」

広間の扉が開き、シリルが中に入ってきた。はっきりとした声でそう告げる。

「僕も行きます。今さら後ろに隠れているつもりはありません」
「シリル……」

俺は彼を睨むが、シリルは怯むことなくまっすぐに俺を見返してきた。

「アレックス様、僕が行かなければもっと多くの人が危険に晒されるんです。それだけは嫌です」

その言葉に、一瞬の沈黙が落ちた。

「……分かった」

俺は重い声でそう告げた。

「ありがとうございます、アレックス様」

シリルは微笑みながら小さく頷いた。



その日の午後、俺たちはリアムを中心とした少数精鋭の部隊で邸を発った。
キース卿は邸の防衛を引き受ける形となり、出発前に俺に声をかけた。

「アレックス君、君の判断を信じるよ。だが、決して無茶はするな。リアムとシリルを頼んだよ」
「分かっています、キース卿。必ず任務を遂行します」

セシリアがリアムとシリルに駆け寄り、心配そうに声を上げた。

「お母さま、お兄様、絶対に気をつけてくださいね!」
「もちろんだよ、セシリア」

シリルは彼女の頭を撫で、俺に視線を向ける。

「じゃあ、行きましょう、アレックス様」
「ああ、行くぞ」

俺たちは馬に跨り、モルディスのアジトと思われる廃坑を目指した。
山間部への道中、いくつかの村を通り過ぎたが、その中にはどこも荒れ果て、住人の姿が見当たらない。
一見して明らかにおかしい状況だった。

「この村……魔力を吸い取られているようだね……」

リアムが地面に触れ、険しい顔をして呟く。

「モルディスが使い魔を送り込み、実験に必要な材料を奪っていった可能性が高い」
「許せない……」

シリルが小さく呟いた。
俺は剣を握り直し、一行に警戒を強化するよう指示を出す。

「奴のアジトは近いだろう。ここから先は気を抜くな」

森の奥へ進むにつれ、空気が変わり始める。
その奥から聞こえる唸り声は、まるで何百もの獣が同時に喉を鳴らしているようだった。それに伴って漂う瘴気の濃度は、息苦しさを感じるほどだ。モルディスの魔力が地に染み込み、周囲を侵食しているのだろうか……。

「……あれが結界のようですね」

リアムが指差した先には、古びた廃坑があった。
その入り口を覆うように、不気味な紫色の結界が漂っている。

「アレックス様、森の奥を警戒してください。瘴気が濃くなっているのは、あちらに使い魔か何かが隠れている証拠です」

リアムの低い声が冷静に響く。彼の言葉には迷いがなく、状況を的確に見極める眼差しがある。

「シリル、頼めるか?」
「ええ」

シリルは結界の前に立ち、両手を掲げた。
その瞬間、聖なる光が彼の手から放たれ、結界が震え始めて紫の光が徐々に収縮していく。
その先に待ち受けるものは何なのか──ただの静寂がこれほど不気味に感じたことは、これまでなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると
BL
【第3部完結!】 第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります! ↓↓あらすじ(?) 僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ! 僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから! 家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。 1人でだって立派に冒険者やってみせる! 父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。 立派な冒険者になってみせます! 第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル 第2部エイルが冒険者になるまで① 第3部エイルが冒険者になるまで② 第4部エイル、旅をする! 第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?) ・ ・ ・ の予定です。 不定期更新になります、すみません。 家庭の都合上で土日祝日は更新できません。 ※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

処理中です...