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第14話:王妃との茶会
茶会、という言葉は、もっとのどかで優雅なものだと思っていた。
でも実際は、胃が縮こまるくらい緊張したまま、僕は王妃様の前に座っていた。
(僕なんかが、王妃様とお茶を……)
ザイファル王国の王妃、エレナ=ルーンヘルツ様。
一国の王を支える女性。
その名を聞くだけで背筋が伸びるような人。
でも目の前にいる王妃様は、陽だまりのような笑顔で紅茶を差し出してくれた。
「どうぞ、リオン。冷めないうちに」
「……あ、ありがとうございます」
カップを受け取る指が震えそうになるのを、なんとか誤魔化した。
ガルハルト殿下が後ろに控えているのも、緊張に拍車をかけてくる。
(場違いすぎる……)
「ねえ、リオン」
王妃様の声が、ふわりと空気を和らげた。
「あなたがここに来てくれて、私は嬉しいのよ」
僕は思わず目を見開いた。
そんなふうに言われるなんて、想像もしていなかったから。
「この国にとって、あなたの力は本当に価値あるもの。でもね……私は、それ以上に“あなた”に興味があるの」
「……僕、ですか?」
「ええ。力じゃなくて、人として。私はあなたのことを、もっと知りたいの」
(……信じられないくらい、あたたかい人だ)
王妃様の声も、眼差しも、嘘がないと感じた。
思わず、心がほぐれる。
だけどその時。
「この子……やっぱりあなたに似ているわ、ガル」
王妃様が、突然ガルハルト殿下の方を見てそう言った。
「えっ」
「雰囲気が、ね。立ち方や、言葉の選び方。若い頃のあなたに、そっくり」
後ろで控えていた殿下が、ほんの少しだけ息を詰めたように見えた。
「……母上、それは……」
「ふふ、気にしないで。ただの“母の直感”よ」
直感。
でもその言葉に、妙に引っかかるものを感じた。
(似てる……?僕と、ガルハルト殿下が……?)
耳の形も、瞳の色も、種族そのものが違うのに。
どうしてそんなことを……。
「……実はね、リオン。私の曾祖母は“人間”だったのよ」
「え……」
今度は、言葉を失った。
「旅の学者の娘だったらしいの。曾祖父が一目惚れして、周囲はずいぶん揉めたそうだけど……まだ国交を断つ前だったこともあって、結局周囲が折れて嫁いできたらしいわ。今では誰も気にしてないわ」
王妃様は、遠い昔の記憶を手繰るように言葉を続ける。
「我が家には、ずっと昔から“癒しの血”があるって言い伝えられているの。“触れれば痛みが和らぐ”“声に温もりがある”……まるで童話みたいな話だけど、私は信じてるの」
カップの中で、紅茶の表面が揺れていた。
僕の手も、少しだけ揺れていた。
(癒しの……血……)
まさか、そんなこと。
「私があなたの力を見たとき、思ったの。“ああ、これだわ”って。──忘れられていた“贈り物”が、ここにあるって」
“贈り物”。
その言葉が、まっすぐ胸に入ってきた。
僕の癒しは、“気味が悪い”って言われてきた。
“唾液で治す”なんて変だ、と、蔑まれてきた。
それが、贈り物だって――?
「……僕は、誰かにそんな大切なものを、もらったんでしょうか」
思わず漏れた言葉に、王妃様はやわらかく頷いた。
「そうよ。どんな形であれ、誰かがあなたを守るために託したのだと思うわ。血かもしれないし、想いかもしれない。大事なのは、それをどう使うか」
「……僕は……」
僕はまだ、自分の力の意味をわかっていない。
けれど、王妃様の言葉が、ガルハルト殿下のまなざしが、“否定ではなく、受け入れてくれる”という事実だけで、心があたたかくなった。
茶会の終わり際、王妃様はもう一度だけ僕に言った。
「リオン。ここではあなたがあなたらしく振る舞っていいのよ」
それは、光のような言葉だった。
どれだけ心の中がぐちゃぐちゃでも、
その声だけは、まっすぐ届いた。
僕は深く頭を下げた。
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お読みいただきありがとうございます!
次の更新は夜(21:30・21:40)になります!
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でも実際は、胃が縮こまるくらい緊張したまま、僕は王妃様の前に座っていた。
(僕なんかが、王妃様とお茶を……)
ザイファル王国の王妃、エレナ=ルーンヘルツ様。
一国の王を支える女性。
その名を聞くだけで背筋が伸びるような人。
でも目の前にいる王妃様は、陽だまりのような笑顔で紅茶を差し出してくれた。
「どうぞ、リオン。冷めないうちに」
「……あ、ありがとうございます」
カップを受け取る指が震えそうになるのを、なんとか誤魔化した。
ガルハルト殿下が後ろに控えているのも、緊張に拍車をかけてくる。
(場違いすぎる……)
「ねえ、リオン」
王妃様の声が、ふわりと空気を和らげた。
「あなたがここに来てくれて、私は嬉しいのよ」
僕は思わず目を見開いた。
そんなふうに言われるなんて、想像もしていなかったから。
「この国にとって、あなたの力は本当に価値あるもの。でもね……私は、それ以上に“あなた”に興味があるの」
「……僕、ですか?」
「ええ。力じゃなくて、人として。私はあなたのことを、もっと知りたいの」
(……信じられないくらい、あたたかい人だ)
王妃様の声も、眼差しも、嘘がないと感じた。
思わず、心がほぐれる。
だけどその時。
「この子……やっぱりあなたに似ているわ、ガル」
王妃様が、突然ガルハルト殿下の方を見てそう言った。
「えっ」
「雰囲気が、ね。立ち方や、言葉の選び方。若い頃のあなたに、そっくり」
後ろで控えていた殿下が、ほんの少しだけ息を詰めたように見えた。
「……母上、それは……」
「ふふ、気にしないで。ただの“母の直感”よ」
直感。
でもその言葉に、妙に引っかかるものを感じた。
(似てる……?僕と、ガルハルト殿下が……?)
耳の形も、瞳の色も、種族そのものが違うのに。
どうしてそんなことを……。
「……実はね、リオン。私の曾祖母は“人間”だったのよ」
「え……」
今度は、言葉を失った。
「旅の学者の娘だったらしいの。曾祖父が一目惚れして、周囲はずいぶん揉めたそうだけど……まだ国交を断つ前だったこともあって、結局周囲が折れて嫁いできたらしいわ。今では誰も気にしてないわ」
王妃様は、遠い昔の記憶を手繰るように言葉を続ける。
「我が家には、ずっと昔から“癒しの血”があるって言い伝えられているの。“触れれば痛みが和らぐ”“声に温もりがある”……まるで童話みたいな話だけど、私は信じてるの」
カップの中で、紅茶の表面が揺れていた。
僕の手も、少しだけ揺れていた。
(癒しの……血……)
まさか、そんなこと。
「私があなたの力を見たとき、思ったの。“ああ、これだわ”って。──忘れられていた“贈り物”が、ここにあるって」
“贈り物”。
その言葉が、まっすぐ胸に入ってきた。
僕の癒しは、“気味が悪い”って言われてきた。
“唾液で治す”なんて変だ、と、蔑まれてきた。
それが、贈り物だって――?
「……僕は、誰かにそんな大切なものを、もらったんでしょうか」
思わず漏れた言葉に、王妃様はやわらかく頷いた。
「そうよ。どんな形であれ、誰かがあなたを守るために託したのだと思うわ。血かもしれないし、想いかもしれない。大事なのは、それをどう使うか」
「……僕は……」
僕はまだ、自分の力の意味をわかっていない。
けれど、王妃様の言葉が、ガルハルト殿下のまなざしが、“否定ではなく、受け入れてくれる”という事実だけで、心があたたかくなった。
茶会の終わり際、王妃様はもう一度だけ僕に言った。
「リオン。ここではあなたがあなたらしく振る舞っていいのよ」
それは、光のような言葉だった。
どれだけ心の中がぐちゃぐちゃでも、
その声だけは、まっすぐ届いた。
僕は深く頭を下げた。
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