捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?

めがねあざらし

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第38話:嘘の先にあるもの

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 午前の執務は山のような書類から始まった。

 貴族院の報告、国境地帯の物資流通、そして……ラグナス使節団への対応案。

 目を通していても、文字が頭に入らない。

(……また、あの顔だ)

 リオンの表情が、ページの隅に浮かぶようにちらつく。

 昨夜。ベッドの中、肩をすくませながら、それでも逃げ出さなかった小さな背中。

(……演技で、あんな反応をするとは……)

 息を吐きながら、ガルハルトは額を指で押さえた。

 その時だった。控えの扉がノックされ、ライが書類を抱えて入ってくる。

「報告をお持ちしました。地方統治局と外務官から――」

 机に書類を置きかけたところで、ふと一瞬の沈黙。

 そのあと、ライは軽く片眉を上げて、肩をすくめて言った。

「で? 昨夜は“演技の練習”、ずいぶん順調だったようで。いやはや、何よりです」

 ガルハルトは手を止め、ぱさりと書類を閉じる。
 そして、深く溜息を吐いた。

「……想像以上に、リオンの反応が真っ直ぐでな。少し……焦った」

 ライが目を丸くする。

「焦った? あの冷静無欠な殿下が?」
「……演技をするつもりが、こちらの方が揺さぶられている。あれでは……こちらが本気になりかねん」

 静かに口にしたその言葉に、ライが口を開けて固まった。

「……はぁ?」
「……何がだ?」
「いやいや、冗談でしょう? それとも……本気で言ってますか?」

 ガルハルトは黙ってライを見る。答えない。

「……まさか、とは思ってましたけど。……マジですか。嘘でしょう?」
「ライ」
「うーん……いえ、もう、言わせてください。……とっくに本気じゃないですか、我が君は。あの人間に」

 言いながら、ライの声音が少しだけ真剣さを増す。

「想像してみてください。あの使者の――クラウス・ヴァルセリウスの元に、リオン様が戻るとしたら」
「……っ!」

 無意識に、ガルハルトは立ち上がっていた。
 書類が机から滑り落ちる。

 その光景を見たライは、ほんの少しだけ、口元を緩めた。

「……答え、出たようですね」

 ゆっくりと立ち上がったガルハルトを見上げて、ライが言う。

「よかったじゃないですか。“嘘から出た誠”ってやつです」
「……」

「それに、殿下。勝算はあるかもしれませんよ?……全くもってリオン様は気づいてないでしょうけど」

 そう言って、ライは静かに一礼し、散らばった書類を拾い上げた。

「頑張ってください。まぁ……深みに嵌っているのは、たぶん殿下の方ですけど。あなたの方が結構年上なんですから、ほどほどに」

 にやりと笑って、静かに執務室を出ていく。
 残されたガルハルトは、机に両手をついたまま、しばらく黙っていた。

 そして――

「……本気、か」

 ぽつりと落ちた言葉に、自分でも気づかなかった想いがにじむ。
 けれどそれは、否定ではなかった。

 あの穏やかな体温と、眠りかけのリオンの小さな呼吸。

 “演技”の中で、それだけがひどくリアルだった。
 彼を抱いて眠った夜を、もう“作戦”とだけは呼べなかった。



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次の更新は夜(21:30・21:40)です。
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