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【18】ドリームカムトゥルー
⑫
しおりを挟む「費用を折半でと考えています」
(あぁぁー…… やっぱり全額負担してくれないかぁ……)
「いかがでしょ?」
「いかがでしょ。と言われましても……。いくら掛かるか知りませんが費用負担してまで本にしたいとまでは考えてなくて」
少しでも期待した私がバカだったのか? そんな甘い話はないと自覚はしていたが、ひょっとしたら三顧の礼で迎えられるのではないかと期待しただけに目の前で夢がくだけ散った気持ちになった。
「……阪上さん? 阪上さん?」
「澪? 呼んでるよ」
隣から由唯に呼ばれて意識を戻した。
「あっ、はい」
「阪上さんは費用についてお考えありましたか?」
「あっ、いえ、記事書くだけかと思ってたので……」
「初めてだとわかりませんもんね。でも、先ほども申し上げた通り阪上さんのブログを高く評価してるからこそ折半のご提案をさせて頂いております」
「はい、評価して頂いてることは有難いと思っています。ですが、もともと本にしたいと思って始めたわけではなかったので」
「フォロワーの多いブロガーの方は皆さん最初は勘違いされて簡単に本にして売れると思われるのですが、この世界そんなに甘い世界ではないんですよ」
隣で聞いていた由唯が「勘違い」の発言に反応した。
「すみません。『勘違い』は、ないんじゃないですか? こっちから本にして下さい。と頼んだわけではないですし、そちらから連絡きたら費用は御社が出すのかなって思っても仕方ないと思うのですが」
《鼻息を荒くとは》とは、この事だ。由唯は少しでも書籍化に期待した澪の気持ちを考えると言わずにはいられなかった。
「勘違いさせてしまったのなら申し訳ありません。一度ゆっくり検討してもらえませんか?」
「澪? この話やめたほうがいいんちゃう?」
「あのぅー、阪上さんにお話してるのですが・・・」
自分の事のように言い返してしまったが(そうだ、澪の意見聞いてなかった)と澪の方をみた。
澪は既に腹が決まったように前に座っている山口と郡司を毅然と見ていた。
「由唯、ありがとう。私の気持ちも由唯と同じやで。この話なかったことにして下さい」
「本当にいいんですか?」
「はい。いいです」
そう言って話を終わらせ2人は出版社を後にした。
「由唯ごめんな……せっかく一緒にきてもらったのに……最初にもっとちゃんと話聞いとけばよかった」
「ううん、しょうがないわ。こんな連絡きたら私も勘違いするわ」
「うん」
時計を見ると19時を少し回ったところだった。
「和希、仕事終わったかなー? 和希呼び出して飲みに行こう‼︎」
「うん! 今夜はパーっと飲むぞぉ~!」
「あはははは、澪、パーっと飲んでこの件は忘れよう」
和希にメールすると、少し遅くなるとの事。はぁー!? 二人は、肝心な時に和希は使えんと冗談まじりにボヤくと、どうする? と顔を見合わせ、とりあえず2人で先に飲んでよか。と京橋に移動した。
澪と由唯はいつにも増して飲みのピッチが早い。炎天下を歩いてきた後のようにグイグイと飲んだ。飲み始めて一時間過ぎた時に和希からもうすぐ着くと連絡が入ったので2人は【二軒目酒場】に場所を移動し和希と合流した。席に着くと相変わらず、古いガラス窓が油でこびりついて窓を開けたくても動かない……。
澪が昨日の事を細かく和希に説明すると、そうなんかー夢が叶わなくて残念やったなぁと言ってくれた。
「ううん、本出したいと思ったのは、由唯と和希に会う前の話やから。ブログはこれからも趣味の範囲で続けていくし、夢よりもっと大事なことがあるから!」
「えっ、なんなんそれって?」
「そんなにまじまじと聞かれても恥ずかしいから言われへん 笑」
「気になるやん!」
「ほんまや言えよ~!」
「言いたかったのは3人で居ると、何があっても人生満足できるわーって思ってる」
「あはははは、何やそれ? まぁ、ええわ、澪が元気そうでよかった」
書籍化は夢に終わってしまったが、澪と由唯は今回の件で、改めてこの仲間たちとの絆を強く感じた。
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