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【最終章】管鮑之交
④
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~最終回~
***** 一ヶ月後 *****
「こんばんはー」
澪と由唯が【ROKU】の扉をあけると、カウンターに座っている和希が笑っている。
「遅いぞぉー」
「和希早いなぁー。ってか、会社も休んでんのにこんなとこ来てるのバレたら怒られるで!」
「明日から出社するねんから問題ないやろ? 笑」
澪と由唯は顔を見合わせ苦笑いして、しょうがないなぁーと言った。
マスターの東山がテーブル席にしますか? と言ってくれたので、和希は礼を言って席を移動した。その歩く姿はまだ痛々しい。
「まだ足痛いん?」
「うん。まだ歩くとな……。それに、ずっとギプスしてたから右足だけ細くなってもうてカッコ悪いわ」
「カッコなんてどうでもええねん 笑」
澪と由唯は和希の向かい側に座った。東山が新しい黒霧島のボトルを和希のテーブルの前に置いた。
「僕からの快気祝いです」
「本当ですか!? 東山さん気が利く~! あざーす」
和希が言うと澪と由唯も東山にお礼を言った。
由唯が3人分のソーダ割りを作って並べた。
「和希! 退院おめでとう~ 乾杯‼︎」
『カーン』と音を鳴らしたグラスに和希はすぐには口をつけずじっと眺めた。
「どうしたん和希?」
「うん……。3人でまたこうして飲めることに感謝してんねん」
しんみりと言った和希の面様から澪と由唯も感じるものがあった。
「うん。そうだよねー。和希死にかけたんやもんな……」
「うん。2人が俺の夢に出てきて引き留めてくれなかったら三途の川渡ってしまってこうしてここに居なかったかもしれん……」
和希の言葉で澪と由唯も1ヶ月前の事故を思い出してしんみりとなった。
「由唯も澪もありがとうな。ベッドの上で毎日1人で天井ばかり見てると『今ごろみんなは仕事してるのになー』とか『今ごろ飲みに行ってるのかな?』って考えてしまって俺だけみんなから取り残された気持ちになって何処かやりきれない気持ちになってた時に、由唯と澪が毎日『おはよー』『元気かー?』ってメールくれたやろ? そのメールで家族のような仲間が近くにいるように感じて孤独感から救われたよ」
「和希が心配やったから本当は顔見て『元気か?』って言いたかってんけど、仕事で毎日は行かれへんかったから。メールでいつも『元気』って返ってくるけど、和希の性格考えたら、そんなはずないって思ってたよ。でも事故したって聞いた時は和希が死んだらどうしようって本当に焦ってんから」
その時の事を思い出しながら由唯が言うと隣で澪も大きくうなずき涙ぐんだ。
「2人が何度も来てくれて嬉しかったよ。俺のために泣いてくれるのお前たちだけやー」
「そんな事ないやろ? みんな和希のこと心配してたんやで!」
「ほんまか? でも、2人に凄く励まされた。本当にありがとう。離婚した時もけっこう落ち込んだけど、あの時も2人に支えられたしな。由唯と澪がいてくれてよかったと思ってるよ」
「私もそうやで。ブログの書籍化の時も、仕事で落ち込んだ時もいつも2人は私のそばで一緒に悩んでくれた。本当にいい親友だなーって思ってるよ」
「そんなこともあったなぁ。生死さ迷った後やから、ずっと昔のことのように感じるわ 笑」
「私もみんなからいつも笑顔で凄いね。って言われるけど人に言えない辛いこともたくさんある。そんな時、澪も和希もさりげなく私に寄り添ってくれるやん。言葉で何かを言うわけではないけど、想いがすごく伝わってきて何回も救われたよ。2人のおかげで頑張ろうっていつも勇気をもらってる」
「うん。俺も今回だけのことじゃない。大阪に転勤してきて澪と由唯が飲みに誘ってくれて、最初はただのお酒好きかと思ったけど・・・」
「ちょっと~! そんな風に思ってたん?」
澪が笑いながら怒ったふりしてつっこんだ。
「いやいや、最後まで聞いて 笑。ただのお酒好きやと思ったけど、本当に心の熱いって言うか温かい? 2人と一緒に居ることが楽しくて仕方ないんや」
「ほんまに?」
「ほんまやで。澪は仕事の時と飲みの時のテンションのギャップに驚かされた。仕事の時は黙々と難題な仕事をこなして、みんなから頼られてて『素朴に真面目』って見えるのに飲みになると『この人本当に昼と同じ人ですか?』って思ったし 笑。でも、きっと昼間は我慢することが多くてお酒が心の扉を解放してくれるねんやろーなぁって思った。澪は真っ直ぐで純粋で本当にいい人やな。仕事でそんな澪を俺の配慮ない言葉で傷つけた時は本当に申し訳なかった。もし、あれで会社辞めてたら後悔しきれなかったと思うよ。それでもこうして今も仲良くしてくれてありがとうな」
澪は遠い昔を思い出すように静かに和希の話を聞いた。
「由唯は俺たちだけでなく、部下からも心の支柱って感じで、いつもみんなの心の支えになってるよな。やろうと思って出来ることじゃないと思う。由唯の笑顔は普通の『笑顔』じゃないんだよな~! 人を区別することなく誰に対しても心から寄り添うからみんなが由唯の廻りに集まってくる。本当に凄いと思うわ。俺も気付いたらいつも由唯に話聞いてもらって甘えてる気がする。きっと由唯が居なかったらこの3人の関係もここまで続かなかったかもしれないな」
「和希? 今日は語るなぁ 笑。しかも誉めすぎやから 笑笑」
なんかお互い誉めあって『俺たち幸せトリオかよ!』と和希が言うと由唯と澪が吹き出し3人で笑った。
「定年退職して会社辞めて、お爺ちゃん、お婆ちゃんになってもずっと付き合っていてほしーなぁ?」
和希が由唯と澪を交互に見て言った。
「もちろーん!」
「もちろーん!」
「澪! 尾崎さんと結婚してもやぞ? 笑」
「当たり前やん!」夫婦と親友は別枠やから!」
そう言うと澪は由唯と目が合った。
由唯は浜中と別れたことを和希に話しておこうと思った。
「報告がありまーす。実は、浜中さんと別れてん」
「えっ……! そうなん?」
「うん。嫌いになった訳じゃないねんけど、ちょっと色々あって……」
「そっか。しゃーないな。男女の仲なんて他の人にはわからん色々あるからな。また、いい恋に出会えるといいな」
「うん」
和希はそれ以上聞かずに話題を変えて楽しい雰囲気にしてくれた。
和希も私の事をよくわかってくれている。一緒にいると本当に居心地がいい。変に気を回さなくても素でいられる。由唯は心の中で思った。
「じゃ~、もう一度乾杯や。これからもいろんな事があると思う。楽しいこともあればツラい事もある。お互い励まし合える仲でいたいな」
由唯と澪はうんうんと頷きながら聞いた。
「これからもずっと親友でいてくれな!」
「あははは、和希~! 面倒くさいー 笑笑」
「面倒くさいーって言うな~! でもな、歳を重ねるたびに利害が絡んで心を開ける相手が減ってくるのに由唯と澪には利害を全く感じへんから素直になれるんやー 笑」
「うん。そう思う! 和希もやで!」
「うんうん。私も同じ~!」
由唯と澪は最高の笑顔をして答えると、じゃー、これからも宜しくと言うことでもう一度乾杯や! と和希が言った。
「では、グラス持って~!」
「かんぱーい」
もう一度高々と合わせたグラスは最高の音色を奏でた。
~完~
***** 一ヶ月後 *****
「こんばんはー」
澪と由唯が【ROKU】の扉をあけると、カウンターに座っている和希が笑っている。
「遅いぞぉー」
「和希早いなぁー。ってか、会社も休んでんのにこんなとこ来てるのバレたら怒られるで!」
「明日から出社するねんから問題ないやろ? 笑」
澪と由唯は顔を見合わせ苦笑いして、しょうがないなぁーと言った。
マスターの東山がテーブル席にしますか? と言ってくれたので、和希は礼を言って席を移動した。その歩く姿はまだ痛々しい。
「まだ足痛いん?」
「うん。まだ歩くとな……。それに、ずっとギプスしてたから右足だけ細くなってもうてカッコ悪いわ」
「カッコなんてどうでもええねん 笑」
澪と由唯は和希の向かい側に座った。東山が新しい黒霧島のボトルを和希のテーブルの前に置いた。
「僕からの快気祝いです」
「本当ですか!? 東山さん気が利く~! あざーす」
和希が言うと澪と由唯も東山にお礼を言った。
由唯が3人分のソーダ割りを作って並べた。
「和希! 退院おめでとう~ 乾杯‼︎」
『カーン』と音を鳴らしたグラスに和希はすぐには口をつけずじっと眺めた。
「どうしたん和希?」
「うん……。3人でまたこうして飲めることに感謝してんねん」
しんみりと言った和希の面様から澪と由唯も感じるものがあった。
「うん。そうだよねー。和希死にかけたんやもんな……」
「うん。2人が俺の夢に出てきて引き留めてくれなかったら三途の川渡ってしまってこうしてここに居なかったかもしれん……」
和希の言葉で澪と由唯も1ヶ月前の事故を思い出してしんみりとなった。
「由唯も澪もありがとうな。ベッドの上で毎日1人で天井ばかり見てると『今ごろみんなは仕事してるのになー』とか『今ごろ飲みに行ってるのかな?』って考えてしまって俺だけみんなから取り残された気持ちになって何処かやりきれない気持ちになってた時に、由唯と澪が毎日『おはよー』『元気かー?』ってメールくれたやろ? そのメールで家族のような仲間が近くにいるように感じて孤独感から救われたよ」
「和希が心配やったから本当は顔見て『元気か?』って言いたかってんけど、仕事で毎日は行かれへんかったから。メールでいつも『元気』って返ってくるけど、和希の性格考えたら、そんなはずないって思ってたよ。でも事故したって聞いた時は和希が死んだらどうしようって本当に焦ってんから」
その時の事を思い出しながら由唯が言うと隣で澪も大きくうなずき涙ぐんだ。
「2人が何度も来てくれて嬉しかったよ。俺のために泣いてくれるのお前たちだけやー」
「そんな事ないやろ? みんな和希のこと心配してたんやで!」
「ほんまか? でも、2人に凄く励まされた。本当にありがとう。離婚した時もけっこう落ち込んだけど、あの時も2人に支えられたしな。由唯と澪がいてくれてよかったと思ってるよ」
「私もそうやで。ブログの書籍化の時も、仕事で落ち込んだ時もいつも2人は私のそばで一緒に悩んでくれた。本当にいい親友だなーって思ってるよ」
「そんなこともあったなぁ。生死さ迷った後やから、ずっと昔のことのように感じるわ 笑」
「私もみんなからいつも笑顔で凄いね。って言われるけど人に言えない辛いこともたくさんある。そんな時、澪も和希もさりげなく私に寄り添ってくれるやん。言葉で何かを言うわけではないけど、想いがすごく伝わってきて何回も救われたよ。2人のおかげで頑張ろうっていつも勇気をもらってる」
「うん。俺も今回だけのことじゃない。大阪に転勤してきて澪と由唯が飲みに誘ってくれて、最初はただのお酒好きかと思ったけど・・・」
「ちょっと~! そんな風に思ってたん?」
澪が笑いながら怒ったふりしてつっこんだ。
「いやいや、最後まで聞いて 笑。ただのお酒好きやと思ったけど、本当に心の熱いって言うか温かい? 2人と一緒に居ることが楽しくて仕方ないんや」
「ほんまに?」
「ほんまやで。澪は仕事の時と飲みの時のテンションのギャップに驚かされた。仕事の時は黙々と難題な仕事をこなして、みんなから頼られてて『素朴に真面目』って見えるのに飲みになると『この人本当に昼と同じ人ですか?』って思ったし 笑。でも、きっと昼間は我慢することが多くてお酒が心の扉を解放してくれるねんやろーなぁって思った。澪は真っ直ぐで純粋で本当にいい人やな。仕事でそんな澪を俺の配慮ない言葉で傷つけた時は本当に申し訳なかった。もし、あれで会社辞めてたら後悔しきれなかったと思うよ。それでもこうして今も仲良くしてくれてありがとうな」
澪は遠い昔を思い出すように静かに和希の話を聞いた。
「由唯は俺たちだけでなく、部下からも心の支柱って感じで、いつもみんなの心の支えになってるよな。やろうと思って出来ることじゃないと思う。由唯の笑顔は普通の『笑顔』じゃないんだよな~! 人を区別することなく誰に対しても心から寄り添うからみんなが由唯の廻りに集まってくる。本当に凄いと思うわ。俺も気付いたらいつも由唯に話聞いてもらって甘えてる気がする。きっと由唯が居なかったらこの3人の関係もここまで続かなかったかもしれないな」
「和希? 今日は語るなぁ 笑。しかも誉めすぎやから 笑笑」
なんかお互い誉めあって『俺たち幸せトリオかよ!』と和希が言うと由唯と澪が吹き出し3人で笑った。
「定年退職して会社辞めて、お爺ちゃん、お婆ちゃんになってもずっと付き合っていてほしーなぁ?」
和希が由唯と澪を交互に見て言った。
「もちろーん!」
「もちろーん!」
「澪! 尾崎さんと結婚してもやぞ? 笑」
「当たり前やん!」夫婦と親友は別枠やから!」
そう言うと澪は由唯と目が合った。
由唯は浜中と別れたことを和希に話しておこうと思った。
「報告がありまーす。実は、浜中さんと別れてん」
「えっ……! そうなん?」
「うん。嫌いになった訳じゃないねんけど、ちょっと色々あって……」
「そっか。しゃーないな。男女の仲なんて他の人にはわからん色々あるからな。また、いい恋に出会えるといいな」
「うん」
和希はそれ以上聞かずに話題を変えて楽しい雰囲気にしてくれた。
和希も私の事をよくわかってくれている。一緒にいると本当に居心地がいい。変に気を回さなくても素でいられる。由唯は心の中で思った。
「じゃ~、もう一度乾杯や。これからもいろんな事があると思う。楽しいこともあればツラい事もある。お互い励まし合える仲でいたいな」
由唯と澪はうんうんと頷きながら聞いた。
「これからもずっと親友でいてくれな!」
「あははは、和希~! 面倒くさいー 笑笑」
「面倒くさいーって言うな~! でもな、歳を重ねるたびに利害が絡んで心を開ける相手が減ってくるのに由唯と澪には利害を全く感じへんから素直になれるんやー 笑」
「うん。そう思う! 和希もやで!」
「うんうん。私も同じ~!」
由唯と澪は最高の笑顔をして答えると、じゃー、これからも宜しくと言うことでもう一度乾杯や! と和希が言った。
「では、グラス持って~!」
「かんぱーい」
もう一度高々と合わせたグラスは最高の音色を奏でた。
~完~
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