誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第192話

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 闘技場内は静まり返り、アルベルト殿下や側近たちを応援している人たちが、信じられないと言わんばかりに驚愕している。そんな中で、突然二つの大きな笑い声が観客席から響いて聞こえてくる。笑い声が聞こえてくる方をチラリと見ると、そこにいたのは予想通りの人物たち、ローザ・‟ナターシャ”・アウレリアとラインハルト王弟殿下であった。二人は愉快な様子で笑っており、今の一連の流れを楽しんでいた事が分かる。まあアルベルト殿下を徹底的に叩きのめせと言っていたくらいだから、今の激しい攻防中に俺が一歩も動かずにいた事が衝撃的でありつつも、二人のオーダーに沿った事だったために思わず笑いが出てきたといった所だろうか。

「ウォルター君、いいぞ!!もっとやってやれ!!」
「アルベルト殿下も、あれだけ大見え切ったじゃからもっとやれるじゃろ!!心が躍る様な、熱い戦いを見せてほしいものじゃ!!」

 二人とも楽しそうに、アルベルト殿下を煽りに煽っているな。その分かりやすい煽りに、アルベルト殿下は怒りに顔を歪めている。あれだけ動揺し、ショックを受けていたのに、怒りで直ぐに気持ちが切り替わった様だ。

「ここからは本気でいく。貴様が一歩も動かなかろうが、倒せば私の勝ちに変わりはない!!」

 魔力を一気に高め、身体強化の魔法に魔力をさらに込めて強化しつつ、周囲に幾つもの魔法陣を展開していく。先程までは、木剣を使った近接戦闘で俺を倒そうとしていたが、ここからは魔法主体の戦い方で倒す事に切り替えた様だ。静まり返っていた観客たちも、色鮮やかな幾つもの魔法陣を見て再び動き出し、アルベルト殿下のファンである魔法学院の生徒たちは歓声を上げる。そんな自身を応援する大きな声援に木剣をかかげて応え、余裕の微笑みを浮かべながら全ての魔法陣を一斉に発動し、俺に向けて魔法を一気に放ってきた。
 放たれた魔法は速度重視の魔法が中心で、高速で俺との距離を詰めて迫ってくる。俺は先程のアルベルト殿下との攻防と同じ様に、木剣の剣身に守勢の魔力を纏わせて、その場から動くことなく全て受け流していく。しかし今回は、アルベルト殿下もそうなる事を予想していた様で、第二波・第三波の魔法を用意し放ってきた。さらには土の属性魔法を織り交ぜてきて、地面から土や岩石の腕を作り出し、俺の身体を掴んで拘束しようとしてくる。流石にこれに対して動かないという選択肢はなく、この決闘が始まって初めてその場から動く。だがただ動くのではなく、一気に前方に向かって加速して、アルベルト殿下との距離を詰めていく。

(前方からは幾つもの魔法、後方からは土や岩石の腕。まあ、これくらいなら問題はない)

 俺は一切減速する事なく、寧ろ力強く一歩踏み込んで、さらに加速して魔法の海の中へと突っ込んでいく。流れてくる魔法の全てを見切り、必要最小限の動きでもって避けながら前へ前へと進みながら、後方から迫る土や岩石の腕を木剣で切り払っていく。そのままスルスルと前に進み、俺の射程圏内にアルベルト殿下を捉えられる距離まできた。自然体のままに一歩前に踏み込み、無形の位のままに真正面から向かって行く。

「私を舐めるな!!」

 アルベルト殿下はそう叫び、自身の上空に他よりも大きな魔法陣を展開する。そして、勝利を確信したのかニヤリとした笑みを浮かべ、その大きな魔法陣を発動して俺に雷を落としてくる。さらに、俺の周囲に同じ大きさの魔法陣を幾つも展開し、その全ての魔法陣からも同じく雷を放ってくる。

(なる程。俺の周囲の空間全てを埋め尽くせば、仕留められると考えた訳か)

 だが、その程度の包囲網じゃ甘いと言わざるを得ない。一気に魔力を高め、左手に集中させながら、左腕を右から左へと振るう。そして、魔力に形を与えていく。俺の周囲に魔力の盾を幾つも作り出し、それらを雷の進行方向の前に並べ全ての雷を防ぐ。

「――――まだだ!!」

 最後のダメ押しとばかりに、アルベルト殿下の頭上に光り輝く一つの魔法陣を展開し、その魔法陣を発動させて巨大な光の剣を生み出していく。剣先から徐々にその姿を見せ、スーッと上に向かって伸びていく。そして、柄頭までその姿を見せ終わると魔法陣が消え去り、光り輝く巨大な光の剣がそこに生み出された。

「これで、――――終わりだ!!」

 アルベルト殿下は左腕を高々と上空に振り上げ、勝利宣言をしながら勢いよく振り下ろす。その動きに巨大な光の剣が連動し、もの凄い圧と共に俺を潰そうと振り下ろされる。その光景は、少しばかり違う所もあるが、暗き闇が最後に放ったデカい剣による攻撃によく似ていた。
 俺は左手に攻勢の魔力を一気に集中させ、攻勢の魔力のみで構成された日本刀を生み出し、ゆっくりと深呼吸を一度繰り返してから、巨大な光の剣の魔力の核に向かって静かに逆袈裟で振るう。その一振りは空気を切り裂き、巨大な光の剣の剣身を魔力の核ごと一瞬で切り裂く。核を切り裂かれた巨大な光の剣は、サラサラと光の粒子となって、キラキラと輝きながら消え去っていく。

「……私の……切り札が…………」
「――――フッ!!」

 呆然としているアルベルトの顎先を木剣で掠めさせ、脳を揺らす事でその意識を奪う。アルベルト殿下の全身から力が抜け、膝がガクリと曲がって地面に落ちて、そのままうつ伏せで地面に倒れこむ。ピクリともその身体が動く事はなく、完全にアルベルト殿下の意識がない事が分かる。俺はそれを確認してから、審判を務める男性に目を向ける。審判を務める男性も俺と目を合わせて頷き、アルベルト殿下がしっかりと生きている事と、気絶しており戦闘続行不可能であるという事を確認し、その口を大きく開けて勝者を宣言する。

「この決闘、勝者――――ウォルタ・ベイルトン!!」
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