誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第298話

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 早歩きでカノッサ公爵家の屋敷に急いで戻って来た俺たちは、皆で手分けして手際よく準備を進めていく。イザベラたちが積極的に手伝ってくれたお蔭で、カノッサ公爵家の者たちが落ち着く夕方時までに、総本山の教会が見える屋上でバーベキューを行う準備が整った。

「さて、ウォルター。バーベキューの準備は整ったわ。皆が返ってくるまで、私たちは甘い物でも食べてくつろいでいましょう」

 バーベキューの準備を終えてホッと一息している俺に、イザベラがテンション高く、しかしそれを悟らせない様に抑えながらそう言ってくる。まあ、俺やクララたちからすればバレバレだが、やぶをつついて蛇を出すつもりはない。
 そしてクララたちはといえば、イザベラの言葉に同意を示す様に頷いて、俺に圧を放ちながらジッと見つめてくる。イザベラたちから感じる圧は、魔境に暮らしている魔物たちと遜色がなく、正しく強者の威圧と言ってもいいだろう。スイーツやお菓子にかける情熱は、どの世界の女性も変わりないという事だ。

「セバスさんによると、もう直ぐアンナ様も戻ってくるとの事だが……」
「…………お母様が戻ってくるまで、大人しく待っていましょうか」
「そうね。それが良いと思うわ」
「そうですね」
「はい、私もそれが一番良いと思います」

 あれだけ俺に強者の圧を放っていたイザベラたちが、てのひらを返したように圧を放つのをやめて、素直にアンナ公爵夫人が帰ってくるのを待つ事にした様だ。しかし、アンナ公爵夫人が帰るまで我慢させるのも可哀想かわいそうなので、小腹を満たす用のイチゴやベリー類を出してあげる。
 イザベラたちは俺の意図を正しく理解してくれた様で、満面の笑みを浮かべて席に着いて、テンション高くイチゴやベリー類に手を出し始める。美味しさに頬を蕩けさせているイザベラたち、それを見ているセバスさんたち使用人の皆は、微笑ましそうに笑みを浮かべている。
 暫く和やかな時間が流れていた所に、一人のメイドさんがセバスさんへ近づき何かを告げると、セバスさんの雰囲気が凛とした者に変わり、メイドさんや執事さんたちに指示を出していく。

「セバスさん、アンナ様たちが帰ってきたんですか?」
「はい。旦那様と奥様がお帰りになられました」
「直ぐにここへ?」
「その様に指示を出しました」
「了解です。皆、アンナ様たち帰ってきたよ」
『――――!!』

 食べる事に集中していたイザベラたちは、俺の言葉にビクリと反応して即座に食べる手を止める。そしてナプキンを手に持ち、口元を丹念たんねんぬぐって証拠隠滅をすると共に、今から食べようとしていたといった風によそおう。

(カノッサ公爵に通じても、アンナ様には通じないと思うんだが……)

 そんな事を思いつつも、決して口にも表情にも出す事はしない。何事も無かったかの様にしているイザベラたちを、ただ静かに見守るだけに留める。準備万端となった所に、カノッサ公爵夫妻が屋上へと姿を見せる。

「旦那様と奥様がお付きになられました」
「皆、ただいま」
「セバス、私たちにもお茶――――この匂いは…………」
『――――!?』

 アンナ公爵夫人はまだ屋上の入り口にいるにも関わらず、少し離れた位置にあるテーブル、それの上に置かれたイチゴやベリー類の匂いをぎ取った。無言のままこちらに近づいてきて、テーブルの上にイチゴやベリー類がある事を確認すると、ギロリと鋭い視線をイザベラたちに向ける。
 鋭い視線を向けられたイザベラたちは、ビクリと身体を震わせ背筋をピンと伸ばし、アンナ公爵夫人から顔を微妙にらして、その口から放たれる言葉を待つ。そんなイザベラたちを見て、次にイチゴとベリー類に視線を移し、アンナ公爵夫人がその口を開いた。

「――――没収」
『そ、そんな~!?』
「異論は許しません。それに、今テーブルの上にある分だけです。ウォルターさん、同じものはまだまだありますよね?」
「はい、あります」
「だそうよ。――いいわね」
『……はい』

 言質を取ったアンナ公爵夫人は、ニコニコとした笑顔を浮かべて席に座り、イチゴやベリー類に手を伸ばしていく。そして、イチゴやベリー類をそれぞれパクリと一口食べては、その味と美味しさをしっかりと噛みしめる。
 イザベラたちが助けを求める様に俺を見る。俺は仕方ないと別の果実を出してあげてようとするも、アンナ公爵夫人にギロリと鋭い視線を送られてしまったので、イザベラたちに向かって首を横に振る。それを見たイザベラたちは、ガックリと項垂うなだれてしまう。

「私たちより先に楽しんだ罰よ。私たちがこれを食べ終わるまでは、新しい果実はダメよ。ウォルターさんもいいわね?」
「分かりました」

 アンナ公爵夫人の隣の席に、苦笑を浮かべたカノッサ公爵が着く。そして、カノッサ公爵も器に残っているイチゴとベリー類に手を伸ばし、口の中に入れてその味と美味しさを楽しんでいく。
 カノッサ公爵夫妻が楽しんでいる様子を、イザベラたちは悲しそうやら悔しそうやらといった感情を抱きながら見つつも、自分たちも果実を目一杯楽しむ為にもと、カノッサ公爵夫妻が食べ終わるのを大人しく耐え続けた。
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