誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第304話

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「舐められとるの~」

 アモル教総本山の教会に辿り着いた俺たちに、暗闇から集中する幾つもの視線。そんな視線の中に含まれる感情を読み取り、ジャック爺が呆れたようにそう言う。

「見た目で侮っておるんじゃろ。の中のかわず大海たいかいを知らずじゃな」
「なんじゃ?それは?」
「小さな井戸の中にいる蛙は、大きな海などの井戸の外にある世界のことを知らないという、東方地域の国家群で言われとることわざじゃよ。自分の狭い知識などにとらわれて、物事の大局的な判断が出来ないという意味じゃな」
「なる程。少年少女と老いぼれ二人という見た目だけで判断し、相手の魔力や実力を測ろうともしない。今まで相手をしてきた者たちや状況など、経験からくるものだけで安易に倒せると考え、想定外の事については全く考る事もない、魔法使いとして慢心しきっておる状態という事か」
「そう言う事じゃ」

 闇に生き続けてきた者、裏の仕事をこなしてきた魔法使いたちならば、確かに経験が豊富なのは間違いない。しかし、世の中には絶対はない。経験が豊富である事はアドバンテージにはなるものの、それだけで戦局を左右させる事は出来ない。
 戦場には様々な要素が入り混じり、時には運によって実力差が大きくくつがえり、弱者が強者を打ち破る事もある。強者に常に微笑む事はないというのが、互いの命を奪い合う戦場というものだ。
 そんな戦場の中で真っ先に命を落とすのは、どんな世界や時代においても、自分の力に慢心した者たちからだ。強大な個の力を持つ戦士や王は、真正面からの戦いにおいては無類の強さを誇っても、からめ手によって簡単に命を散らす事がある。それは、自分の力ならば誰にも負けないという慢心があったからだ。
 俺は、事に当たる際には常に想定外や最悪の状況を想定し、その中でどうやって生き残るのかを考えている。生き残りさえすれば、状況を覆す為の次の機会が必ずくる。その時の為に鍛錬を続け、相手を打ち破る力をたくわえる。そうやって、俺は過酷な環境である魔境を生き抜いてきた。

「相手が舐めてかかってくれるなら、それに越した事はないと思うよ」
「まあ、そうじゃな。奴らが私らを侮っている内に、その息の根を止めさせてもらうとするかの」

 ローザさんの言葉に、俺たちに集中していた視線に含まれていた感情が、あざけりから怒りへと一気に変わる。怒りの感情によって魔力制御が乱れ、禍々しく肌をチクチクと刺してくる冷たい魔力が周囲から溢れ出してきて、身を隠している魔法使いたちの位置がよく分かる。
 そして、魔法使いたちは怒りの感情に突き動かされて、隠していたその身を俺たちの前へと見せる。魔法使いたちの目は怒りで釣り上がり、全身から怒りによる殺気を放ってくる。そんな魔法使いたちの怒りと殺気を、俺たちは表情一つ変える事なく受け流す。

「……黙って見ていれば、随分と生意気な事を言っていたな」
「我々の息の根を止めるとか」
「出来もしない事を!!」
「愚かな事を語る口をい付け、浅慮せんりょな事を思うその頭を吹き飛ばしてやろう」
(こいつら、本当に経験豊富な魔法使いなんだろうか?)

 怒りに身を任せて簡単に姿をさらし、意気揚々と俺たちを殺すと語る魔法使いたち。その余りにも無防備で愚かな行動に、本当に戦闘経験が豊富なのかと疑ってしまう。
 一つの予想として、目の前にいる魔法使いたちは暗き闇に授けられた力を揮い、その力で敵となった者たちを簡単に倒せてしまった事で努力する事を忘れ、経験豊富な三流魔法使いになり下がったのかもしれないな。だが、だからと言って油断も慢心も絶対にしない。目の前の魔法使いたちが経験豊富である事は、変わらない事実なのだから。

「さあ、始めるかの」
「久々の戦、血がたぎるわい!!」

 ジャック爺とローザさんの雰囲気が、ガラリと好戦的なものへと変わる。そんなジャック爺とローザさんに合わせて、俺たちも魔力を一気に高める。そして、慢心して舐め切っている魔法使いたちへと、静かに闘志を燃やしながら一斉に仕掛けた。
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