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第1話
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六歳の時に、交通事故で両親を喪った。相手の運転手が、スマホを見ながらの、ながら運転の末の事故だった。普通車同士が真正面から衝突し、両親は重体。後部座席に座っていた俺は、頭を強く打って軽く出血していたものの、それ以外は外傷はなかった。視界がチカチカとしている中で、必死に両親に生きていて欲しいと願い祈りながら、父親と母親の身体を揺らし、抱き着いて泣いていた。だが、俺の必死な願いに反して、両親の身体はゆっくりと力を失い、徐々に冷たくなっていった。
その時の両親の身体の冷たさ、大切な家族の死というものに触れた事で、俺の血に宿る、隠れていた力が目を覚ました。
その後、警察や消防の人たち、野次馬や記者の人々が集まってきたが、大好きな両親の死に打ちひしがれていた俺は、ただ茫然としていたのを覚えている。そして祖父や祖母、親戚の人たちが協力し、粛々と両親の葬儀を進ませてくれて、俺がしっかりとした意識に戻ったのは、最後のお別れの時だった。ワンワンと大泣きして両親にすがろうとした俺を、優しく抱き留めてくれた女性がおり、葬儀が終わるまで、両親が火葬されるまでの間、その女性に縋り続けていた。
その後、誰が俺を引き取るのかという話になった時に、祖父と祖母が、俺が縋り続けていた女性に何かを聞かされ、驚いて俺を見ていたのをよく覚えている。何かを聞かされた祖父と祖母が真剣な表情になり、親戚たちに何かを伝えて回った。その結果、俺は縋り続けていた女性に引き取られる事になった。その当時は、何故そう決まったのか分からなかったが、今にして思えば、それもまた一つの運命だった様にも思える。
俺を引き取ってくれた紗雪さんの家は、俺が暮らしていた町にある神社の一つであり、小高い丘の上に建てられているため、周囲の喧騒が届きづらい場所だった。とても静かで、時の流れが緩やかに感じるこの場所は、両親を喪って傷心だった幼い俺には非常に助かった。紗雪さんと一緒に暮らしながら、ゆっくりと心と身体を癒していき、徐々に両親の死を受け入れて、二人の分まで生きようと自らに誓った。
そして、縋り続けていた女性、紗雪さんに引き取られてから十二年が経ち、俺は十八歳になった。高校を無事に卒業し、この春から大学生となる。今日は大学に入学するまでの春休みに入った初日であり、空が澄み渡る程の快晴で、良い休み日和になる日だった。そう、なるはずだったのだ。
「凍夜、今日から春休みの様だが、弛んだ生活はするなよ。勉学や運動に励み、日々精進の心を忘れない様に」
「分かってるって。例の件に関しても、手を抜くつもりもサボるつもりもないから、安心してよ紗雪さん」
「それならいい。だが、奴らを相手にするときには、決して気を緩めない様に」
「はい、分かってます。じゃあ、行ってきま――――――!?」
玄関のドアノブを握り、扉を開けて外に出掛けようとした瞬間、俺と紗雪さんの足元が、目を開けていられない程に眩しく光輝いた。
「これは!?――――まさか!!」
この現象について何かを知っているのか、紗雪さんが驚いた声を上げるのが聞こえた。しかしその輝きが力を増していき、俺も紗雪さんも身動き出来ず、光が収まるのを待つしかなかった。
光が徐々に収まっていき、目を開いていく。俺の正面には、紗雪さんが立っている。それは変わらない。だが周囲の景色が、夢かと思う程に変化してしまっている。まず、視界一面に緑が溢れている。そして次に、俺の鼻が慣れ親しんだ自然の匂いを感じる。最後に、二つの異質な存在を背後に感じる。その証拠に、笑顔だった紗雪さんの顔が、苛立ちの混じった無表情に変わっている。
クルリと身体を反転させて、二つの異質な存在の正体を視界に捉える。一つは、頭部から空色の二本の角を生やした、白と赤の鱗の小さな蛇。もう一つは、その蛇の三倍の大きさはありそうな、巨大な漆黒の猪。対照的な色や大きさをした二つの存在が、向かい合う様にして相対していた。
相対する二匹の獣を静かに観察すると、小さな蛇の体の赤色は鱗の色ではなく、その小さな体に付けられた傷から溢れ出た、蛇の血が固まったものだという事が分かった。チラリと巨大な漆黒の猪を見るが、古傷が所々にあるのは分かるが、小さな蛇との戦闘で付けられたであろう傷は見当たりそうにない。つまりこれは、小さな蛇が漆黒の猪に、一方的な蹂躙を受けているという事だ。
(いつもの癖で自然と観察してしまっていたが、一体これはどういう状況なんだ?頭に角が生えた蛇なら何度か見た事があるが、あれ程の大きさの猪は初めて見た。………それに今更だが、俺たちの足元で光った光は?そして今、俺たちはどこにいるんだ?)
その時の両親の身体の冷たさ、大切な家族の死というものに触れた事で、俺の血に宿る、隠れていた力が目を覚ました。
その後、警察や消防の人たち、野次馬や記者の人々が集まってきたが、大好きな両親の死に打ちひしがれていた俺は、ただ茫然としていたのを覚えている。そして祖父や祖母、親戚の人たちが協力し、粛々と両親の葬儀を進ませてくれて、俺がしっかりとした意識に戻ったのは、最後のお別れの時だった。ワンワンと大泣きして両親にすがろうとした俺を、優しく抱き留めてくれた女性がおり、葬儀が終わるまで、両親が火葬されるまでの間、その女性に縋り続けていた。
その後、誰が俺を引き取るのかという話になった時に、祖父と祖母が、俺が縋り続けていた女性に何かを聞かされ、驚いて俺を見ていたのをよく覚えている。何かを聞かされた祖父と祖母が真剣な表情になり、親戚たちに何かを伝えて回った。その結果、俺は縋り続けていた女性に引き取られる事になった。その当時は、何故そう決まったのか分からなかったが、今にして思えば、それもまた一つの運命だった様にも思える。
俺を引き取ってくれた紗雪さんの家は、俺が暮らしていた町にある神社の一つであり、小高い丘の上に建てられているため、周囲の喧騒が届きづらい場所だった。とても静かで、時の流れが緩やかに感じるこの場所は、両親を喪って傷心だった幼い俺には非常に助かった。紗雪さんと一緒に暮らしながら、ゆっくりと心と身体を癒していき、徐々に両親の死を受け入れて、二人の分まで生きようと自らに誓った。
そして、縋り続けていた女性、紗雪さんに引き取られてから十二年が経ち、俺は十八歳になった。高校を無事に卒業し、この春から大学生となる。今日は大学に入学するまでの春休みに入った初日であり、空が澄み渡る程の快晴で、良い休み日和になる日だった。そう、なるはずだったのだ。
「凍夜、今日から春休みの様だが、弛んだ生活はするなよ。勉学や運動に励み、日々精進の心を忘れない様に」
「分かってるって。例の件に関しても、手を抜くつもりもサボるつもりもないから、安心してよ紗雪さん」
「それならいい。だが、奴らを相手にするときには、決して気を緩めない様に」
「はい、分かってます。じゃあ、行ってきま――――――!?」
玄関のドアノブを握り、扉を開けて外に出掛けようとした瞬間、俺と紗雪さんの足元が、目を開けていられない程に眩しく光輝いた。
「これは!?――――まさか!!」
この現象について何かを知っているのか、紗雪さんが驚いた声を上げるのが聞こえた。しかしその輝きが力を増していき、俺も紗雪さんも身動き出来ず、光が収まるのを待つしかなかった。
光が徐々に収まっていき、目を開いていく。俺の正面には、紗雪さんが立っている。それは変わらない。だが周囲の景色が、夢かと思う程に変化してしまっている。まず、視界一面に緑が溢れている。そして次に、俺の鼻が慣れ親しんだ自然の匂いを感じる。最後に、二つの異質な存在を背後に感じる。その証拠に、笑顔だった紗雪さんの顔が、苛立ちの混じった無表情に変わっている。
クルリと身体を反転させて、二つの異質な存在の正体を視界に捉える。一つは、頭部から空色の二本の角を生やした、白と赤の鱗の小さな蛇。もう一つは、その蛇の三倍の大きさはありそうな、巨大な漆黒の猪。対照的な色や大きさをした二つの存在が、向かい合う様にして相対していた。
相対する二匹の獣を静かに観察すると、小さな蛇の体の赤色は鱗の色ではなく、その小さな体に付けられた傷から溢れ出た、蛇の血が固まったものだという事が分かった。チラリと巨大な漆黒の猪を見るが、古傷が所々にあるのは分かるが、小さな蛇との戦闘で付けられたであろう傷は見当たりそうにない。つまりこれは、小さな蛇が漆黒の猪に、一方的な蹂躙を受けているという事だ。
(いつもの癖で自然と観察してしまっていたが、一体これはどういう状況なんだ?頭に角が生えた蛇なら何度か見た事があるが、あれ程の大きさの猪は初めて見た。………それに今更だが、俺たちの足元で光った光は?そして今、俺たちはどこにいるんだ?)
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