[Revenant/Fantome]

将義双世/マサヨシソウセイ

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[Phantom/]

第三話[王の音]

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牢の中。

ウィルグはこれからどうするか考えていた。

しかし、中に侵入できたものの薬草を取りに行ける状況では全くないのだ。

どうやって出ていけばいいか思いつかなかった。

 「どうしよう……」

考えていると、目の前に兵士が来た。

 「王がお前に会いたいそうだ。出ろ」

 「え?」

ウィルグは目を丸くした。

まるで、意味が分からない。

そもそも、クロウがどういう魔法を使ったのか分からないがウィルグは無傷で捕まったのだ。

わけも分からずにウィルグは兵士の後をついていく。

そして、王の間に通されてウィルグは見知った顔を見つけた。

 「クロウさんどうやって入って来られたんですか?」

そう、そこにはクロウが立っていた。

敷き詰められた豪華な模様の絨毯。

金色に輝く装飾品。

その中に異様な黒が立っていた。

 「クロウさん?」

ウィルグは声をかけた。

だが、クロウは返事ではなく、口の端を歪めて笑った。

それもさっきまでの印象とは違い、下卑た笑い。

 「クロウさん…?」

 「いい加減気づいたらどうだ?この俺がクローダスだ。この国の王なんだよ」

その言葉を聞きウィルグは一瞬何を言われたか分からなくなった。

 「あ、え…?」

 「クローダス…まぁ正確にはクローダスなんていない。王の覇権を握っているのが俺なんだよ」

豪華絢爛に飾られた椅子に足を組みクロウは座ると、さも王らしい恰好をとった。

 「な……、騙していたんですか!」

ウィルグは驚きに目を見開いた。

まさか、共に協力してくれた人間がここの王であるとは誰も思わない。

 「森の奥にたまたま入っていたら、アホな小僧が入ってきた。何か余興になると思って助けてやったまで…それに騙して面白そうだったからな。必死になっている奴に希望を見せつけて、叩き壊す時の絶望感……最高だよ。ククク」

クロウのその言葉はあまりにも身勝手で、まさに今の王の体制を表していた。

荒れている土地、傍若無人な王の残虐さ。

 「そうそう、お前を襲っていた獣が奥にうようよいたという話……あれは嘘だよ。奥に行けばまだ薬草は生えていた。森は少しずつ再生し始めていたようだな」

さらなる絶望をと言う様にクロウはわざとそう言った。

 「そんな……」

信じがたい現実を突き付けられ、ウィルグはその場に膝をついた。

 「だが、安心してもいい。お前の望みはちゃんと叶えてやる。お前の母親を病から助けてやる」

それは驚くべき言葉だった。

驚きのあまりウィルグはクロウを見つめた。

 「え……?」

不遜な態度をとるクロウは柔らかく笑った。

死んでも母親を救いたいという気持ちが伝わったのかと思った。

 「お前の母親は最高に美しい。あんな上玉を見せられて手を出さないわけがないだろう?最後までちゃんと面倒を見てやるから安心しろよ」

クロウは下卑た笑いをウィルグに見せる。

その笑いから容易に想像できる。

母は死ぬまでおもちゃのように扱われる。

この男に。

希望はない。

そこに横たわる絶望にウィルグは涙で顔をぐしゃぐしゃにし、悔しさに唇を噛んだ。

それじゃ、助かっても待っているのは地獄だという事。

無意味だ。

 「さぁ、もう茶番は終わりだ。首を落とせ」

飽きたようにクロウは言い放つと、そばにいた騎士が項垂れるウィルグの首に向けて剣を掲げる。

もはや、生きる気力なしというようなウィルグに容赦ない斬撃が繰り出されようとした。

死を目の前にし、ウィルグは目をつぶった。

どうせ闇なら、同じことだ。

光などない。

ウィルグはそう思っていたが、いつまで経っても降りてこない死に目を開けた。

殺すことを焦らして楽しんでいるのかもしれない。

目を開いた瞬間に首を落とされるのかもしれない。

だが、ウィルグが考えることは一つたりも降りてこなかった。

代わりに、闇ではないが黒が眼前に広がっていた。

 「逃げられないといっただろ?」

そこには黒い布をまとった少年がいた。

風に布が流れると、そこにさらに黒があった。

 「小僧どうやって入った?」

クロウが顔を歪める。

一瞬にして、自分の兵士を倒されていい気分がするわけがない。

立ち上がり、黒の侵入者に剣を向ける。

 「ん?お前……」

近づいて、クロウはふと気づいた。

あの時、剣を向けた少年だと。

そして、クローダスと名乗った少年という事に。

 「騙り者のクローダスか…お前も俺と同じことを考えていたんだな?」

剣を向けながら、クロウは質問する。

 「貴様の考えなど知らん」

だが、クローダスは意に介することもなく、そう一言返す。

 「ふん、クローダス亡き後誰もがこの国の覇権を握りたいと思っていたはずだ。絶対王者の権力は偉大だからな」

興味がなさそうなクローダスを前にクロウは苛立った。

 「そう、クローダス王には跡継ぎも信頼できる部下も誰一人として居なかったのだから。だからこそ、その後釜争いで国を荒らすという結果になった……」

 「回りくどい話など聞きたくもない。俺は単純に白き獣を殺したお前を殺すだけだ」

クロウの話を途中で遮り、クローダスはうんざりしながら呟いた。

 「クローダスと名乗るなら、この地位を狙っていると思ったのだがな…クク、まぁどちらでもいい。これは正当防衛だ。殺されそうになったから……殺す」

話を途中で遮られ、苛立ちの頂点に達したクロウは剣を構えた。

いつ、どこから攻め込まれてもいいように気を張り巡らしている。

 「初めから、そうしろ。面倒くさい奴だ」

クローダスは双剣に手をかけた。

鞘から抜き放たれたその剣は変わった形をしていた。

長剣ではあるが、剣の中ごろに小さなくぼみがある。

欠けではないようだから間違いなくその様な剣の形なのだろう。

それが、二本ともそういう形だった。

クロウはその剣を見て、驚きを隠せなかった。

 「その剣は……まさか!」

そう声に出し、剣とクローダスの顔を交互に見つめた。

 「カールスナウトとヨルクスナウトがどうかしたか?これは白き獣……ファントムを斬る為の剣だ」

 「その剣は絶対王者クローダスが愛用していた剣だ。覇権争いの最中……いや、クローダスが死んですぐに無くなったと聞いたが……なぜ貴様のようなガキがそんなものを持っている!!」

クローダスの言葉を聞き、クロウは叫ばずにはいられなかった。

それは王の遺品とも取れる、カールスナウトとヨルクスナウトを持っているクローダスという少年に言いもしれぬ危うさを感じた。

クローダス王は生きていた?

どういう理由か知らないが、少年の姿となって目の前に現れている。

いや、名を継いだ跡取りという事もあり得る。

だが、クローダス王には子を生したという話など一切ない。

女性関係ですら疎ましく思っていた。

女嫌いだと話もあったくらいだ。

あり得ない。

ならば、目の前のクローダスという少年は何者だというのか。

クロウは剣を握りしめた。

 「知らん、俺はもともとこの剣を持っていたのだ。経緯などに興味はない」

クローダスは静かにそう答えた。

動揺も淀みもない。

ただ、興味がない。

冷めた答えではあるが、クロウにとって、その答えは分からない方がまだいい。

 「渡せ!それがあればこの王座は盤石となるだろう!」

そう、殺して奪う。

そうすれば絶対王者クローダスの名を冠して絶対的な覇権が握れる。

誰もクロウがその王座を奪った人間ではなく、絶対王者クローダスに認められた正式な王だと証明できる。

剣を走らせクロウはクローダスに向かう。

殺意がこもった斬撃。

その剣をクローダスは剣で受ける。

避けてもよかったがウィルグがいることが目に入った。

カールスナウトの剣を滑らせ、クロウの剣をくぼみに誘い込むと、剣をひねった。

不快な音を立てながら、クロウの剣をはじき出した。

クロウは一足、飛び退き、自分の剣を見る。

ひびが入っている。

クロウはソードブレイカーという剣の話を思い出していた。

相手の剣を折りやすくするために凹凸をつけ作られた剣の話を。

カールスナウトとヨルクスナウトのそれはソードブレイカーほどの凹凸はないが、そのくぼみが剣を折る、砕きやす
くするという役目を担っているように見える。

 「厄介な剣だ……」

忌々しそうにクロウは呟く。

 「厄介だと思うのは、その剣の性質を見ることができないからだ」

クローダスはクロウへ向かって、走った。

その場にいては、関係のないウィルグまで巻き込むと思ったのだろう。

クロウはひびの入った剣を捨て、もう一つの剣を抜く。

白い獣の血が付いた剣だ。

次の瞬間、白い靄がクロウを包む。

 「な、なんだ!?」

それは異様な光景だった。

クロウを白い靄が呑み込んでいく。

そして、みるみるおぞましい獣の姿へとクロウを変えていった。

 「残念だが、白き獣の業は貴様に憑依した。死ぬしか道はないのだ」

クローダスはそういうと、獣に姿を変えたクロウに剣を向ける。

正気を無くしたもののように咆哮を上げ、クロウは醜い声を上げながらクローダスに変形し、醜く伸びた獣の爪をクローダスに向ける。

それをクローダスはひらりとかわし、その手を蹴り上げる。

己の体すら制御できていない状況なのか蹴り上げられた手はそのままクロウの体へと当る。

よろけ、体勢を崩した瞬間をクローダスは見逃さず、瞬時に首を刎ねた。

赤が花の様に舞い上がったかと思うと、白い靄がクローダスの持つカールスナウトへと吸い込まれていった。

ウィルグはその様子を放心したように見る事しかできなかった。

クローダスは放心しているウィルグへと駆け寄った。

ウィルグは近づくクローダスに驚き、体をびくりとさせた。

殺されるのではないかと思ったからだ。

だが、クローダスは剣の血を払い、剣を鞘へ納めた。

そのことがウィルグを安堵させた。

同時に、助かったことに気付いた。

 「あ、あの…ありがとうございます」

ウィルグはクローダスにそう一言告げた。

多分、助けるためにしてくれた事でないにしろ、助けてくれたことに変わりはないからだ。

 「別に貴様のためにした事ではない。たまたま、貴様の運が良かっただけだ」

それは、あまりにも予想通りな答えでウィルグは苦笑した。

だが、疑問は残る。

 「貴方は、この国の王なのですか?」

ウィルグはそう尋ねていた。

クローダスという名前とカールスナウトとヨルクスナウトを所有しているのだから、誰もが正式な王だと思うだろう。

 「知らん。俺は全く知らん……俺はただクローダスという名前なだけだ」

そう言うとクローダスはウィルグに一つの袋を渡した。

 「あ、あのこれは…?」

 「アムリタと呼ばれる薬草だ。話を聞いていたがお前の母は病気なのだそうだな。これがあればすぐにでもよくなるだろう」

そういうとクローダスはウィルグに背を向けて歩き出した。

 「あ…、ありがとうございます」

その背中を見送り、感謝に涙を流した。



………
……

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