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[Revenant/Fantome]

[02]第六話 白い鎧

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イベリスが幸せに暮らせる世界を作るために、ヘリンは奮闘しているのに、そのイベリスが居なくなっては意味のないものとなってしまう。

 「ごめんなさい。お父様。私もみんなの事を守りたかったの。一緒に戦いたかったの」

泣きながら、イベリスはそう伝える。

無事に戻って来られた事で安心して涙が溢れた。

怖くなかったとなれば嘘になる。

でも、守りたかったという強い意志が確かにあった。

 「本当にイベリスは父様にそっくりだな」

そのことを分かっているのかヘリンはイベリスにそう言った。

優しそうな容姿からは想像できない強い意志。

そして、家族として、イベリスはヘリンと離れたくなかったのだと考えた。

無事でよかった。

ただ、それだけで安心する。

ヘリンはイベリスを見て微笑すると、次にクローダスを見た。

 「君には助けられたな。それ相応の恩赦とぜひ我が城で祝いの宴を開くとしよう。君、名前は何という?」

王として、娘を助けてくれたクローダスにそう声をかける。

 「クローダス・グレイティル」

クローダスはヘリンを一瞥して、ぶっきらぼうに答える。

だが、クローダスの名前を聞いた途端、城内は静まり返った。

 「クローダス・グレイティル?」

ヘリンはその名に反応する。

空気が重くなるのを感じる。

 「クローダス」

 「クローダスだと?」

 「あの、クローダス」

王の間にいた兵士たちが小さな声で騒ぎ出す。

一瞬にして、居心地が悪くなった。

いや、元々居心地は悪かった。

騒がしすぎる。

 「帰る」

クローダスはそう一言、言うと踵を返した。

イベリスがクローダスを止めようと慌てて腕を掴もうとする。

 「待ちなさい」

その前にヘリンが声をかけた。

 「非礼を詫びよう。ボードウィン城は一度クローダス王に奪われたことがある。だから、その名前には敏感になるのだ」

騒ぎ立てた理由を話し、ヘリンは立つのも辛いはずなのに立ち上がり頭を下げた。

周囲の人間が慌てて、ヘリンに椅子に座るように促す。

わざわざ得体の知れない者に頭を下げるなど王がすることではないと聞こえてくる。

 「どこもその名前に敏感だぞ」

クローダスはうんざりと言う様にぼやいた。

足を止めたのはヘリンの態度に敬意を払ったからだ。

 「クローダス少年。君はその王とは似ても似つかぬよ。クローダス王ならば誰も助けぬだろう」

この地を支配した残虐な王の話をヘリンは話した。

気に入らなければ首を刎ね、民の事も気にしない悪政を行った王。

 「俺はそいつの事は知らん」

話を聞いても他人事と言う様にクローダスは言い放った。

興味のないことは全く興味がない。

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