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[Revenant/Fantome]

[01]第七話 白き真珠

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クローダスは激痛に耐え、ヘリンを違う場所へと移動させる。

そして、クローダスに攻撃を加えた敵とようやく対峙する。

アルフレッド。

いや、その原型はもはやなかった。

あのとき、クローダスが倒したファントムの姿へと変化していた。

 「ギギ、グギャ……」

ファントムは気味悪い唸り声を繰り返す。

口からは涎を垂れ流し、体の制御が追い付いていないようにも見える。

クローダスは静かに剣を抜く。

魔具カールスナウト。

右手に持ち、構える。

背中が熱くなるのを感じるがクローダスは気にしない。

 「ギルルッ、ルオオォォォ!」

ファントムがところ構わずその両腕の刃を振り回す。

瓦礫が散り、砂塵が舞う。

そこをクローダスは縫うように駆け、ファントムの腕を切り落とす。

首を狙ったはずなのに避けられた。

 「ギググォ」

 「さっきの奴と幾分か変化があるか。緩慢だった奴が素早くなっている」

忌々しげにクローダスは吐き捨てた。

音を察知することができない今、先手を取るのも難しい。

だが、後手に回ればもっと危険だ。

 「先手ッ!」

クローダスはそう決めると、ファントムを斬りつけにかかる。

首を狙い続ける。

それでファントムが躱し続けても、体の一つ一つを切り落としていけばいい。

ファントムと呼ばれていても身のある実体だ。

繰り返していけば、倒れて首を刎ねやすくなる。

クローダスはそうやって、今度はファントムの片羽を落とした。

次は止まらずに、すぐに切り返す。

もう一方の片羽を切り落とす。

ファントムはクローダスの強襲に追い付いていけない。

体の一部が少しずつ無くなっていく。

あと少しで、首を落とせる。

そこまでクローダスはたどり着いていた。

 「クローダスさん!」

その声にクローダスの動きが一瞬止まった。

音がクローダスの鼓膜を貫いた。

 「あぁぁッ!」

それは音が消えていた空間が元に戻ったことを意味した。

クローダスは動きを止め、ファントムの前に蹲る。


なぜ、今になって元に戻った?

そんな疑問が浮かぶ。

声をかけたイベリスの方向を見る。

その横の壁に飾られた絵が目に入った。

 「パール」

見覚えがある。

記憶の奔流。

 「違う……、ペルル・ブラン」

名前。

そう名付けた。

少年。

だが、その絵は少年ではない。

このボードウィン城の前城主ボールス=K・ボゥホート。

その顔を見ると酷く胸を締め付けられた。

なぜ、そうなるのか分からない。

それ以上、思い出せない。

 「クローダスさん!危ない!」

イベリスの声で我に返ったクローダスは寸での所でファントムの攻撃を躱した。

そして、その躱した動きの反動を使い、ファントムの首を落とした。

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