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会場に向かうまでの廊下を、ルイスに手を引かれながら歩く。
輝く銀髪に、サファイアをそのまま埋め込んだかのような青い瞳。私の手を引く彼の姿は、まるで童話の中に出てくる完璧な王子様そのものだった。
「緊張しているか?」
ルイスが微笑みを浮かべながら、尋ねてきた。その言葉が、優しく、まるで私の心を読んだかのように響く。彼はいつも、私の気持ちをよく分かっているみたいだった。
「そりゃあ、私が主役のパーティーは初めてですから、緊張くらいしてしまいますよ。失敗したらって考えると、つい足がすくんでしまうわ」
「大丈夫。君ならきっと上手くやれる」
彼の言葉は、不思議と私に、安心感を与えてくれる。
会場の扉の前にたどり着くと、彼は立ち止まり、私に手を差し出した。
「準備はいいですか、お姫様?」
その問いに、私は笑顔を浮かべながら頷いた。
扉が静かに開かれ、煌びやかな光と人々のざわめきが私たちを迎え入れる。すべての視線が私たちに集まり、心臓が高鳴るのを感じる。
怖くないと言えば、嘘になる。だけど私の隣には愛する夫がいる。だから私は、大丈夫。
私は彼に手を引かれるまま、一歩踏み出した。
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
パーティー会場に足を踏み入れた途端、周囲の目が一斉にこちらに向けられるのを感じた。煌びやかなシャンデリアの光が二人を照らし、足元の大理石の床がその美しさを引き立てている。
大勢の人が私達に注目している。大丈夫だと何度も自分に言い聞かせてはいたものの、いざここに立ってみると、どうしても足がすくんでしまう。
「大丈夫を礼儀として、一曲踊るだけだ」
まるで私の心を読んでいるかのように、彼は私に励ましの言葉をかけてくれる。ルイスの声は穏やかで、少しも動揺がない。
伝統として、パーティーの主役が最初にダンスを披露するのは当然のこと。
私はダンスが得意な方だから、踊ることに対して引け目に感じることは無いけど。それでも、こんなにも多くの目が見つめている中で踊るのは、気を抜けば失敗してしまいそうで緊張してしまう。
私は一度深呼吸をし、心を落ち着かせると、ルイスに微笑みを返す。
私たちがダンスホールの中心に立った瞬間、音楽がゆっくりと流れ始め、会場の空気が一瞬で変わった。
音楽を合図に、私は夫の手を取ると一歩踏み出す。ルイスとの初めてのダンス、これを台無しにするわけにはいかない。
音楽が優雅に流れ、人々の話し声が響いていたホール全体は静まり返る。まるで、世界が二人だけのものになったかのような感覚が広がった。
一歩目を踏み出した瞬間、体が自然と動き始めた。リズムに合わせて軽やかに足を運ぶと、ルイスの動きもそれに合わせて滑らかについてくる。
(本当にあなたは驚くほど完璧な人ね。剣術も、勉学にも優れているのに、ダンスまで上手だなんて。逆にあなたが出来ないことってあるのかしら?)
周囲の令嬢たちがこちらを見つめているのが視界の端で分かる。彼女たちの熱い視線はきっとルイスへのものだ。
でも、令嬢たちには悪いけど。貴女たちの憧れる皇子は、私の夫なの。彼の視線は私だけのものよ。
――ねえ、ルイス。あなたは私のことを愛してる? ずっと、愛していてくれる?
……そんな風に、聞くことは出来ないけれど。私はいつだって、そう考えてしまうの。
あなたからの愛は十分すぎるほどに伝わっている。だけど、それがいつまで続くものなのか……恋は、ひと時のものだから。私はそれが、不安で不安で仕方ないの。
いつかあなたが、私の元から離れていくことがあれば、私は――
二人の足音が重なる度に、音楽が二人を導くかのように、自然とステップが繋がっていく。
「君がこんなにダンスが得意だったとは驚いたよ」
「ふふ、そうでしょう? システィーナは踊りの聖地とも言われていますから、システィーナ王国の令嬢は皆、幼い頃から鍛えられているんですよ」
最後のターンを華麗に決めて、私はぴたりと動きを止めた。ドレスの裾を掴んでお辞儀をすると、耳に飛び込んできたのは割れるような拍手の音。
「よくやった」
ルイスは満足げに私を見つめながら微笑んでいる。私も、その笑顔に小さく笑みを返す。
たとえどれだけの人々が見ていようと、たった今の瞬間だけは二人だけのものだった気がした。
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