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川西美和子の場合
川西美和子、アキラとショッピングモールへ行きます
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私は今、渡瀬家の玄関前でアキラが異世界転移してくるのを待っている。
基本的には、互いにネックレスがあれば転移は出来るらしい。
しかし、私は地球でのテストケースのため、渉さんたちがチェックしないといけないようだ。
今日はアキラとの食べ歩きのために歩きやすく、女性らしさも忘れないファッションで挑む。
可愛いと思ってくれると嬉しいな、なんて思いながら、朝から髪まで巻いてしまった。
やたちゃん先輩とスキンシップを取っている間に、玄関の引き戸がガラガラと音を立てる。
「美和子さ~ん! お待たせしました! アキラさんの転移が完了しましたよ~。ささ、アキラさん。こっちですよ!」
紬さんとアキラが出てきた。
「待たせてごめんな、ミワコ」
「大丈夫だよ。紬さんもありがとうございます」
「いえいえ。案内しただけですよ! さぁ、時間は有限です! さっさとデートしてきてくださーい」
そんな感じで紬さんに送り出されて、やってきたのは隣町のショッピングモール。
このショッピングモールはそれなりに大きい複合施設なので、割と何でもある。
その上、ショッピングモールの付近にも商店街があって、食べ歩きにはもってこいのスポットとして有名な所だ。
隣にいるアキラは、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「でっかい店だな! 人がすごいし、賑やかなところだな。楽しみだ!」
「まだ、入ったばかりだよ。中もすごいからね。いっぱいお店があるの。まずは何から見ようか? 何が見たい?」
「全部! 上から順番に見ていこうぜ!」
「ふふ、了解。じゃあ、適当なタイミングでご飯行こうか」
目をキラキラさせながら、エントランスの巨大なモニュメントを見ているアキラが、とても可愛い。
エレベーターで最上階まで上がる。
その間も、ガラス張りのエレベーターから見える景色に、アキラがはしゃいでいたので、とても微笑ましかった。
最上階の屋上展望台では、コインで動く望遠鏡を覗いて、家の方角を探したり、鉄塔やら橋やらの建築技術についてアキラが話すのを聞いたりした。
ちなみに聞いた加工技術に関しては、何一つ覚えられなかった。私にはちょっと難しかったな。
展望台の後は、生活雑貨や家具、寝具、コスメなどが置いてあるフロアを見て歩く。
枕をオーダーできるお店で、いろんな素材を触ってみる。
私はそば殻の固さと匂いが好きだが、アキラは低反発が気に入ったようだ。
アキラの世界には、低反発枕はないらしい。
家具屋に差し掛かった時、私はネットで評判が高くて気になっていた、人を駄目にする悪魔のクッションを触ってみることにした。
「うわっ! なにこれ、すごい。アキラ! ちょっとこれすごいよ!」
「どれどれ……うわ! ホントだ。すごいわ……」
「……うごけなくなるね」
「……ああ。ごいりょくもなくなるな」
結局2人して、すごいすごい言ってただけだった。あれはほんとにすごい。
アキラは異世界で食器やカトラリーを売っているということもあり、生活雑貨の特にキッチン用品の所には長居してしまった。
私達は可愛らしいモチーフのついたカトラリーや、アルファベットモチーフのグッズが並ぶ中を、興味深げに見て回る。
アキラの世界はナイフとフォークが主流で箸はないらしい。
前回の食事では、うどんを掴む私を面白そうに見ていたのだが、実際の箸をしげしげと眺めて研究しているようだ。
「この箸っては慣れるまでは使いにくそうだけど1セットで刺す、切る、運ぶができるから便利だよな。構造も単純だし、うちの国でも流行るかもしれないな」
アキラはいろんな角度で見て、持って、ぶつぶつ言いながら箸を調べている。
結局黒檀の木目が綺麗な1組と5組入りのファミリー向けの箸を買っていた。
金属の国に箸が渡来するなんて、これは歴史的な場面なんじゃないだろうか?
その後もアキラの疑問は尽きない。
「このボコボコしたバターナイフはなんでこんな形なんだ?」
「こんな金属の塊、何に使うんだ?」
いろいろ聞かれては答えを繰り返して、キッチン用品売り場を制覇した頃には、ランチに丁度良い時間だった。
「ねぇ、アキラ。ご飯食べようか。希望はある?」
「そうだな。じゃあさっき見た、『フードコート』ってやつに行きたい!」
フードコートに着くと、座席を取って、アキラに声をかけた。
「アキラが先に選んでおいで。私、ここで荷物見てるから」
「ミワコが先に行っていいぞ。俺、迷うから、時間かかるし」
「そっか。じゃあそうするね」
荷物を座席に置いて、財布と携帯を持ち、フードコート内を見回す。
何にしようかな。
取り敢えず、全部の店を見て回ろうと思い、端から順番に見ていく。
ラーメン、サンドイッチ、うどん、定食、インドカレー、そば、お好み焼き・たこ焼き、カレー、ハンバーガー等々。
いろいろあると悩むなぁ。
「……美和子?」
うどん屋の前を歩いていたとき、ふいにどこかから名前を呼ばれた。
聞いたことがある声に、嫌な思い出が蘇り、恐る恐る後ろを見る。
うそでしょ。最悪。元カレだ。
「久しぶりだね。元気?」
「……何か用? なんで普通に声かけてくるの?」
「相変わらずつれないよな。そういう気が強くて、1人で何でもできるって態度が気に入らなかったんだよ。」
「でも、まぁいいか。なぁ美和子」
元カレは気持ち悪い笑い方で近づいてくる。
そして、耳元で囁いた。
「なぁ、より戻さないか? そろそろ、俺が恋しい頃だろ?」
なにそれ? 本気で言ってる?
「絶対いや! 何なのあんた!!!」
「美和子と別れたら、アイツ、料理がまずくてさ。子どもいるから触れないし。ねぇ、家来て俺に飯作ってよ。美和子には俺が必要だろ? しょーがないから、また付き合ってやってもいいよ」
もう意味が分からない。
言われたこと以上に、こんな奴と付き合ってた時間に対して、どうしようもなく腹が立って泣けてくる。
俯いて唇を強く噛んだ。
肩に、奴の手がふれた。
「何してるんだ?」
すぐ近くで、アキラの声が聞こえた。
「あ? 誰、お前」
「それは、俺が聞きたい。アンタ、誰だ? どうして彼女が悲しそうなんだ?」
今まで聞いていた声よりずっと低い。
アキラの気持ちが籠った声で、思わず体が強張った。アキラ、怒ってる。
騒ぎになってきたため、周りに人が集まってくるのが分かった。
「はっ! お前も尻軽だったんだな! オレと別れて、すぐ新しい男かよ。萎えた」
元カレが、肩に置いていた手で私を突き飛ばした。
何て奴なんだ、信じられない!
アキラが受け止めてくれなければ、怪我をしていたかもしれないのに。
アキラは元カレの言葉で、このクズが誰か合点がいったようだ。
「ああ、アンタが噂の……。じゃあもう用はないだろ。金輪際、彼女の前に現れるな」
「ふん! そんな女こっちから願い下げだ! おい、美和子! お前みたいな女が、幸せになれる分けねーだろ! 精々そいつに愛想尽かされないようにするんだな!」
またしても野次馬の好奇の目に晒されながらの侮辱。
私だけならまだしも、庇ってくれたアキラまで、こんな視線に晒されるなんて堪えられない。
もうこんな人の相手をアキラにしてほしくない。
そんな思いで、きゅっとアキラの上着の胸元を握った。
私の手に、温かくて大きなアキラの手が重なって、思わずアキラの顔を見る。
アキラは目が合うと、安心させるように笑っていて。それを見たら、ふっと、体の力が抜けてしまった。
「俺が幸せにするから。アンタはもう必要ない」
え!? 今何て言った!?
アキラの言葉に、一気に顔が熱を帯びる。
周りを見なくていいように、私の顔が野次馬に見られないように、片手で抱き締め、もう片方の手で優しく頭を撫でてくれる。
「ケッ。覚えてろよ!」
元カレはアニメの悪役みたいな事を言って、去っていった。
顔が真っ赤な私はアキラに手を引かれて、すぐにショッピングモールを後にした。
たどり着いたのは2、3分程歩いた先にある広場だった。
遊具はなく、ベンチと砂場しかない。
アキラは私をベンチに座らせて、彼自身も私の隣に腰かける。
「ミワコ、こっち向いて」
俯いたままだった顔をあげると、私を見ているアキラと視線を合わせた。
アキラは僅かに顔を歪め、悲しそうな顔で私の目元を指でなぞる。
「ごめんな。助けるのが遅くなって」
「そんな! 助けてもらってすごく嬉しかったよ。アキラがいなかったら私……」
思わず溢れそうになる涙を、アキラの指が掠めとる。
「そっか。遅くなったけど、助けられてよかった。アイツの言ってたことなんか、気にするなよ?」
「でも、ちょっとは当たってるんじゃないかって、考えちゃった。私のせいで、アキラに迷惑かけた……。
折角異世界に来てくれたのに、あんなに騒ぎになって、本当にごめんなさい」
「謝るなよミワコ。悪いのはアイツだろ? 俺、アイツに言ったよな? ミワコはアイツには勿体ないって。俺が幸せにするって。俺は……その、ミワコの事が……」
アキラの手が両肩に乗った。
真剣な顔でこちらを見つめていて、息が止まりそう。
鼓動が早くて大きくて、まるで全身が心臓になったみたいだ。
「――あぁー!!! やっぱやめとく! こんな時に言うのはズルいよな。でも、これだけは言える。
俺はミワコと出会えてよかったって思ってる。だって住んでる世界が違うのに出会ったんだぞ? 運命ってヤツ?」
「だから、俺とのこれからの事、真剣に考えてくれないか? 返事は今じゃなくていい」
「う、うん。ありがとう」
「まだ時間はあるし、いっぱい楽しもうぜ! 次はどこ行く?」
サラッと手を絡め取られる。
さっきの出来事も相まって、繋がれた手から伝わる温度にめまいがしてくる。
どきどき、バクバク、心臓の音が煩い。
きっと顔も真っ赤だ。私、絶対変な顔してる。
だけど、私の手を引くアキラの耳も真っ赤だから、きっとおんなじ顔をしてるんだろう。
そう思ったら、なんだかすごくおかしくなった。
基本的には、互いにネックレスがあれば転移は出来るらしい。
しかし、私は地球でのテストケースのため、渉さんたちがチェックしないといけないようだ。
今日はアキラとの食べ歩きのために歩きやすく、女性らしさも忘れないファッションで挑む。
可愛いと思ってくれると嬉しいな、なんて思いながら、朝から髪まで巻いてしまった。
やたちゃん先輩とスキンシップを取っている間に、玄関の引き戸がガラガラと音を立てる。
「美和子さ~ん! お待たせしました! アキラさんの転移が完了しましたよ~。ささ、アキラさん。こっちですよ!」
紬さんとアキラが出てきた。
「待たせてごめんな、ミワコ」
「大丈夫だよ。紬さんもありがとうございます」
「いえいえ。案内しただけですよ! さぁ、時間は有限です! さっさとデートしてきてくださーい」
そんな感じで紬さんに送り出されて、やってきたのは隣町のショッピングモール。
このショッピングモールはそれなりに大きい複合施設なので、割と何でもある。
その上、ショッピングモールの付近にも商店街があって、食べ歩きにはもってこいのスポットとして有名な所だ。
隣にいるアキラは、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「でっかい店だな! 人がすごいし、賑やかなところだな。楽しみだ!」
「まだ、入ったばかりだよ。中もすごいからね。いっぱいお店があるの。まずは何から見ようか? 何が見たい?」
「全部! 上から順番に見ていこうぜ!」
「ふふ、了解。じゃあ、適当なタイミングでご飯行こうか」
目をキラキラさせながら、エントランスの巨大なモニュメントを見ているアキラが、とても可愛い。
エレベーターで最上階まで上がる。
その間も、ガラス張りのエレベーターから見える景色に、アキラがはしゃいでいたので、とても微笑ましかった。
最上階の屋上展望台では、コインで動く望遠鏡を覗いて、家の方角を探したり、鉄塔やら橋やらの建築技術についてアキラが話すのを聞いたりした。
ちなみに聞いた加工技術に関しては、何一つ覚えられなかった。私にはちょっと難しかったな。
展望台の後は、生活雑貨や家具、寝具、コスメなどが置いてあるフロアを見て歩く。
枕をオーダーできるお店で、いろんな素材を触ってみる。
私はそば殻の固さと匂いが好きだが、アキラは低反発が気に入ったようだ。
アキラの世界には、低反発枕はないらしい。
家具屋に差し掛かった時、私はネットで評判が高くて気になっていた、人を駄目にする悪魔のクッションを触ってみることにした。
「うわっ! なにこれ、すごい。アキラ! ちょっとこれすごいよ!」
「どれどれ……うわ! ホントだ。すごいわ……」
「……うごけなくなるね」
「……ああ。ごいりょくもなくなるな」
結局2人して、すごいすごい言ってただけだった。あれはほんとにすごい。
アキラは異世界で食器やカトラリーを売っているということもあり、生活雑貨の特にキッチン用品の所には長居してしまった。
私達は可愛らしいモチーフのついたカトラリーや、アルファベットモチーフのグッズが並ぶ中を、興味深げに見て回る。
アキラの世界はナイフとフォークが主流で箸はないらしい。
前回の食事では、うどんを掴む私を面白そうに見ていたのだが、実際の箸をしげしげと眺めて研究しているようだ。
「この箸っては慣れるまでは使いにくそうだけど1セットで刺す、切る、運ぶができるから便利だよな。構造も単純だし、うちの国でも流行るかもしれないな」
アキラはいろんな角度で見て、持って、ぶつぶつ言いながら箸を調べている。
結局黒檀の木目が綺麗な1組と5組入りのファミリー向けの箸を買っていた。
金属の国に箸が渡来するなんて、これは歴史的な場面なんじゃないだろうか?
その後もアキラの疑問は尽きない。
「このボコボコしたバターナイフはなんでこんな形なんだ?」
「こんな金属の塊、何に使うんだ?」
いろいろ聞かれては答えを繰り返して、キッチン用品売り場を制覇した頃には、ランチに丁度良い時間だった。
「ねぇ、アキラ。ご飯食べようか。希望はある?」
「そうだな。じゃあさっき見た、『フードコート』ってやつに行きたい!」
フードコートに着くと、座席を取って、アキラに声をかけた。
「アキラが先に選んでおいで。私、ここで荷物見てるから」
「ミワコが先に行っていいぞ。俺、迷うから、時間かかるし」
「そっか。じゃあそうするね」
荷物を座席に置いて、財布と携帯を持ち、フードコート内を見回す。
何にしようかな。
取り敢えず、全部の店を見て回ろうと思い、端から順番に見ていく。
ラーメン、サンドイッチ、うどん、定食、インドカレー、そば、お好み焼き・たこ焼き、カレー、ハンバーガー等々。
いろいろあると悩むなぁ。
「……美和子?」
うどん屋の前を歩いていたとき、ふいにどこかから名前を呼ばれた。
聞いたことがある声に、嫌な思い出が蘇り、恐る恐る後ろを見る。
うそでしょ。最悪。元カレだ。
「久しぶりだね。元気?」
「……何か用? なんで普通に声かけてくるの?」
「相変わらずつれないよな。そういう気が強くて、1人で何でもできるって態度が気に入らなかったんだよ。」
「でも、まぁいいか。なぁ美和子」
元カレは気持ち悪い笑い方で近づいてくる。
そして、耳元で囁いた。
「なぁ、より戻さないか? そろそろ、俺が恋しい頃だろ?」
なにそれ? 本気で言ってる?
「絶対いや! 何なのあんた!!!」
「美和子と別れたら、アイツ、料理がまずくてさ。子どもいるから触れないし。ねぇ、家来て俺に飯作ってよ。美和子には俺が必要だろ? しょーがないから、また付き合ってやってもいいよ」
もう意味が分からない。
言われたこと以上に、こんな奴と付き合ってた時間に対して、どうしようもなく腹が立って泣けてくる。
俯いて唇を強く噛んだ。
肩に、奴の手がふれた。
「何してるんだ?」
すぐ近くで、アキラの声が聞こえた。
「あ? 誰、お前」
「それは、俺が聞きたい。アンタ、誰だ? どうして彼女が悲しそうなんだ?」
今まで聞いていた声よりずっと低い。
アキラの気持ちが籠った声で、思わず体が強張った。アキラ、怒ってる。
騒ぎになってきたため、周りに人が集まってくるのが分かった。
「はっ! お前も尻軽だったんだな! オレと別れて、すぐ新しい男かよ。萎えた」
元カレが、肩に置いていた手で私を突き飛ばした。
何て奴なんだ、信じられない!
アキラが受け止めてくれなければ、怪我をしていたかもしれないのに。
アキラは元カレの言葉で、このクズが誰か合点がいったようだ。
「ああ、アンタが噂の……。じゃあもう用はないだろ。金輪際、彼女の前に現れるな」
「ふん! そんな女こっちから願い下げだ! おい、美和子! お前みたいな女が、幸せになれる分けねーだろ! 精々そいつに愛想尽かされないようにするんだな!」
またしても野次馬の好奇の目に晒されながらの侮辱。
私だけならまだしも、庇ってくれたアキラまで、こんな視線に晒されるなんて堪えられない。
もうこんな人の相手をアキラにしてほしくない。
そんな思いで、きゅっとアキラの上着の胸元を握った。
私の手に、温かくて大きなアキラの手が重なって、思わずアキラの顔を見る。
アキラは目が合うと、安心させるように笑っていて。それを見たら、ふっと、体の力が抜けてしまった。
「俺が幸せにするから。アンタはもう必要ない」
え!? 今何て言った!?
アキラの言葉に、一気に顔が熱を帯びる。
周りを見なくていいように、私の顔が野次馬に見られないように、片手で抱き締め、もう片方の手で優しく頭を撫でてくれる。
「ケッ。覚えてろよ!」
元カレはアニメの悪役みたいな事を言って、去っていった。
顔が真っ赤な私はアキラに手を引かれて、すぐにショッピングモールを後にした。
たどり着いたのは2、3分程歩いた先にある広場だった。
遊具はなく、ベンチと砂場しかない。
アキラは私をベンチに座らせて、彼自身も私の隣に腰かける。
「ミワコ、こっち向いて」
俯いたままだった顔をあげると、私を見ているアキラと視線を合わせた。
アキラは僅かに顔を歪め、悲しそうな顔で私の目元を指でなぞる。
「ごめんな。助けるのが遅くなって」
「そんな! 助けてもらってすごく嬉しかったよ。アキラがいなかったら私……」
思わず溢れそうになる涙を、アキラの指が掠めとる。
「そっか。遅くなったけど、助けられてよかった。アイツの言ってたことなんか、気にするなよ?」
「でも、ちょっとは当たってるんじゃないかって、考えちゃった。私のせいで、アキラに迷惑かけた……。
折角異世界に来てくれたのに、あんなに騒ぎになって、本当にごめんなさい」
「謝るなよミワコ。悪いのはアイツだろ? 俺、アイツに言ったよな? ミワコはアイツには勿体ないって。俺が幸せにするって。俺は……その、ミワコの事が……」
アキラの手が両肩に乗った。
真剣な顔でこちらを見つめていて、息が止まりそう。
鼓動が早くて大きくて、まるで全身が心臓になったみたいだ。
「――あぁー!!! やっぱやめとく! こんな時に言うのはズルいよな。でも、これだけは言える。
俺はミワコと出会えてよかったって思ってる。だって住んでる世界が違うのに出会ったんだぞ? 運命ってヤツ?」
「だから、俺とのこれからの事、真剣に考えてくれないか? 返事は今じゃなくていい」
「う、うん。ありがとう」
「まだ時間はあるし、いっぱい楽しもうぜ! 次はどこ行く?」
サラッと手を絡め取られる。
さっきの出来事も相まって、繋がれた手から伝わる温度にめまいがしてくる。
どきどき、バクバク、心臓の音が煩い。
きっと顔も真っ赤だ。私、絶対変な顔してる。
だけど、私の手を引くアキラの耳も真っ赤だから、きっとおんなじ顔をしてるんだろう。
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