9 / 37
川西美和子の場合
川西美和子、アキラとショッピングモールへ行きます
しおりを挟む
私は今、渡瀬家の玄関前でアキラが異世界転移してくるのを待っている。
基本的には、互いにネックレスがあれば転移は出来るらしい。
しかし、私は地球でのテストケースのため、渉さんたちがチェックしないといけないようだ。
今日はアキラとの食べ歩きのために歩きやすく、女性らしさも忘れないファッションで挑む。
可愛いと思ってくれると嬉しいな、なんて思いながら、朝から髪まで巻いてしまった。
やたちゃん先輩とスキンシップを取っている間に、玄関の引き戸がガラガラと音を立てる。
「美和子さ~ん! お待たせしました! アキラさんの転移が完了しましたよ~。ささ、アキラさん。こっちですよ!」
紬さんとアキラが出てきた。
「待たせてごめんな、ミワコ」
「大丈夫だよ。紬さんもありがとうございます」
「いえいえ。案内しただけですよ! さぁ、時間は有限です! さっさとデートしてきてくださーい」
そんな感じで紬さんに送り出されて、やってきたのは隣町のショッピングモール。
このショッピングモールはそれなりに大きい複合施設なので、割と何でもある。
その上、ショッピングモールの付近にも商店街があって、食べ歩きにはもってこいのスポットとして有名な所だ。
隣にいるアキラは、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「でっかい店だな! 人がすごいし、賑やかなところだな。楽しみだ!」
「まだ、入ったばかりだよ。中もすごいからね。いっぱいお店があるの。まずは何から見ようか? 何が見たい?」
「全部! 上から順番に見ていこうぜ!」
「ふふ、了解。じゃあ、適当なタイミングでご飯行こうか」
目をキラキラさせながら、エントランスの巨大なモニュメントを見ているアキラが、とても可愛い。
エレベーターで最上階まで上がる。
その間も、ガラス張りのエレベーターから見える景色に、アキラがはしゃいでいたので、とても微笑ましかった。
最上階の屋上展望台では、コインで動く望遠鏡を覗いて、家の方角を探したり、鉄塔やら橋やらの建築技術についてアキラが話すのを聞いたりした。
ちなみに聞いた加工技術に関しては、何一つ覚えられなかった。私にはちょっと難しかったな。
展望台の後は、生活雑貨や家具、寝具、コスメなどが置いてあるフロアを見て歩く。
枕をオーダーできるお店で、いろんな素材を触ってみる。
私はそば殻の固さと匂いが好きだが、アキラは低反発が気に入ったようだ。
アキラの世界には、低反発枕はないらしい。
家具屋に差し掛かった時、私はネットで評判が高くて気になっていた、人を駄目にする悪魔のクッションを触ってみることにした。
「うわっ! なにこれ、すごい。アキラ! ちょっとこれすごいよ!」
「どれどれ……うわ! ホントだ。すごいわ……」
「……うごけなくなるね」
「……ああ。ごいりょくもなくなるな」
結局2人して、すごいすごい言ってただけだった。あれはほんとにすごい。
アキラは異世界で食器やカトラリーを売っているということもあり、生活雑貨の特にキッチン用品の所には長居してしまった。
私達は可愛らしいモチーフのついたカトラリーや、アルファベットモチーフのグッズが並ぶ中を、興味深げに見て回る。
アキラの世界はナイフとフォークが主流で箸はないらしい。
前回の食事では、うどんを掴む私を面白そうに見ていたのだが、実際の箸をしげしげと眺めて研究しているようだ。
「この箸っては慣れるまでは使いにくそうだけど1セットで刺す、切る、運ぶができるから便利だよな。構造も単純だし、うちの国でも流行るかもしれないな」
アキラはいろんな角度で見て、持って、ぶつぶつ言いながら箸を調べている。
結局黒檀の木目が綺麗な1組と5組入りのファミリー向けの箸を買っていた。
金属の国に箸が渡来するなんて、これは歴史的な場面なんじゃないだろうか?
その後もアキラの疑問は尽きない。
「このボコボコしたバターナイフはなんでこんな形なんだ?」
「こんな金属の塊、何に使うんだ?」
いろいろ聞かれては答えを繰り返して、キッチン用品売り場を制覇した頃には、ランチに丁度良い時間だった。
「ねぇ、アキラ。ご飯食べようか。希望はある?」
「そうだな。じゃあさっき見た、『フードコート』ってやつに行きたい!」
フードコートに着くと、座席を取って、アキラに声をかけた。
「アキラが先に選んでおいで。私、ここで荷物見てるから」
「ミワコが先に行っていいぞ。俺、迷うから、時間かかるし」
「そっか。じゃあそうするね」
荷物を座席に置いて、財布と携帯を持ち、フードコート内を見回す。
何にしようかな。
取り敢えず、全部の店を見て回ろうと思い、端から順番に見ていく。
ラーメン、サンドイッチ、うどん、定食、インドカレー、そば、お好み焼き・たこ焼き、カレー、ハンバーガー等々。
いろいろあると悩むなぁ。
「……美和子?」
うどん屋の前を歩いていたとき、ふいにどこかから名前を呼ばれた。
聞いたことがある声に、嫌な思い出が蘇り、恐る恐る後ろを見る。
うそでしょ。最悪。元カレだ。
「久しぶりだね。元気?」
「……何か用? なんで普通に声かけてくるの?」
「相変わらずつれないよな。そういう気が強くて、1人で何でもできるって態度が気に入らなかったんだよ。」
「でも、まぁいいか。なぁ美和子」
元カレは気持ち悪い笑い方で近づいてくる。
そして、耳元で囁いた。
「なぁ、より戻さないか? そろそろ、俺が恋しい頃だろ?」
なにそれ? 本気で言ってる?
「絶対いや! 何なのあんた!!!」
「美和子と別れたら、アイツ、料理がまずくてさ。子どもいるから触れないし。ねぇ、家来て俺に飯作ってよ。美和子には俺が必要だろ? しょーがないから、また付き合ってやってもいいよ」
もう意味が分からない。
言われたこと以上に、こんな奴と付き合ってた時間に対して、どうしようもなく腹が立って泣けてくる。
俯いて唇を強く噛んだ。
肩に、奴の手がふれた。
「何してるんだ?」
すぐ近くで、アキラの声が聞こえた。
「あ? 誰、お前」
「それは、俺が聞きたい。アンタ、誰だ? どうして彼女が悲しそうなんだ?」
今まで聞いていた声よりずっと低い。
アキラの気持ちが籠った声で、思わず体が強張った。アキラ、怒ってる。
騒ぎになってきたため、周りに人が集まってくるのが分かった。
「はっ! お前も尻軽だったんだな! オレと別れて、すぐ新しい男かよ。萎えた」
元カレが、肩に置いていた手で私を突き飛ばした。
何て奴なんだ、信じられない!
アキラが受け止めてくれなければ、怪我をしていたかもしれないのに。
アキラは元カレの言葉で、このクズが誰か合点がいったようだ。
「ああ、アンタが噂の……。じゃあもう用はないだろ。金輪際、彼女の前に現れるな」
「ふん! そんな女こっちから願い下げだ! おい、美和子! お前みたいな女が、幸せになれる分けねーだろ! 精々そいつに愛想尽かされないようにするんだな!」
またしても野次馬の好奇の目に晒されながらの侮辱。
私だけならまだしも、庇ってくれたアキラまで、こんな視線に晒されるなんて堪えられない。
もうこんな人の相手をアキラにしてほしくない。
そんな思いで、きゅっとアキラの上着の胸元を握った。
私の手に、温かくて大きなアキラの手が重なって、思わずアキラの顔を見る。
アキラは目が合うと、安心させるように笑っていて。それを見たら、ふっと、体の力が抜けてしまった。
「俺が幸せにするから。アンタはもう必要ない」
え!? 今何て言った!?
アキラの言葉に、一気に顔が熱を帯びる。
周りを見なくていいように、私の顔が野次馬に見られないように、片手で抱き締め、もう片方の手で優しく頭を撫でてくれる。
「ケッ。覚えてろよ!」
元カレはアニメの悪役みたいな事を言って、去っていった。
顔が真っ赤な私はアキラに手を引かれて、すぐにショッピングモールを後にした。
たどり着いたのは2、3分程歩いた先にある広場だった。
遊具はなく、ベンチと砂場しかない。
アキラは私をベンチに座らせて、彼自身も私の隣に腰かける。
「ミワコ、こっち向いて」
俯いたままだった顔をあげると、私を見ているアキラと視線を合わせた。
アキラは僅かに顔を歪め、悲しそうな顔で私の目元を指でなぞる。
「ごめんな。助けるのが遅くなって」
「そんな! 助けてもらってすごく嬉しかったよ。アキラがいなかったら私……」
思わず溢れそうになる涙を、アキラの指が掠めとる。
「そっか。遅くなったけど、助けられてよかった。アイツの言ってたことなんか、気にするなよ?」
「でも、ちょっとは当たってるんじゃないかって、考えちゃった。私のせいで、アキラに迷惑かけた……。
折角異世界に来てくれたのに、あんなに騒ぎになって、本当にごめんなさい」
「謝るなよミワコ。悪いのはアイツだろ? 俺、アイツに言ったよな? ミワコはアイツには勿体ないって。俺が幸せにするって。俺は……その、ミワコの事が……」
アキラの手が両肩に乗った。
真剣な顔でこちらを見つめていて、息が止まりそう。
鼓動が早くて大きくて、まるで全身が心臓になったみたいだ。
「――あぁー!!! やっぱやめとく! こんな時に言うのはズルいよな。でも、これだけは言える。
俺はミワコと出会えてよかったって思ってる。だって住んでる世界が違うのに出会ったんだぞ? 運命ってヤツ?」
「だから、俺とのこれからの事、真剣に考えてくれないか? 返事は今じゃなくていい」
「う、うん。ありがとう」
「まだ時間はあるし、いっぱい楽しもうぜ! 次はどこ行く?」
サラッと手を絡め取られる。
さっきの出来事も相まって、繋がれた手から伝わる温度にめまいがしてくる。
どきどき、バクバク、心臓の音が煩い。
きっと顔も真っ赤だ。私、絶対変な顔してる。
だけど、私の手を引くアキラの耳も真っ赤だから、きっとおんなじ顔をしてるんだろう。
そう思ったら、なんだかすごくおかしくなった。
基本的には、互いにネックレスがあれば転移は出来るらしい。
しかし、私は地球でのテストケースのため、渉さんたちがチェックしないといけないようだ。
今日はアキラとの食べ歩きのために歩きやすく、女性らしさも忘れないファッションで挑む。
可愛いと思ってくれると嬉しいな、なんて思いながら、朝から髪まで巻いてしまった。
やたちゃん先輩とスキンシップを取っている間に、玄関の引き戸がガラガラと音を立てる。
「美和子さ~ん! お待たせしました! アキラさんの転移が完了しましたよ~。ささ、アキラさん。こっちですよ!」
紬さんとアキラが出てきた。
「待たせてごめんな、ミワコ」
「大丈夫だよ。紬さんもありがとうございます」
「いえいえ。案内しただけですよ! さぁ、時間は有限です! さっさとデートしてきてくださーい」
そんな感じで紬さんに送り出されて、やってきたのは隣町のショッピングモール。
このショッピングモールはそれなりに大きい複合施設なので、割と何でもある。
その上、ショッピングモールの付近にも商店街があって、食べ歩きにはもってこいのスポットとして有名な所だ。
隣にいるアキラは、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「でっかい店だな! 人がすごいし、賑やかなところだな。楽しみだ!」
「まだ、入ったばかりだよ。中もすごいからね。いっぱいお店があるの。まずは何から見ようか? 何が見たい?」
「全部! 上から順番に見ていこうぜ!」
「ふふ、了解。じゃあ、適当なタイミングでご飯行こうか」
目をキラキラさせながら、エントランスの巨大なモニュメントを見ているアキラが、とても可愛い。
エレベーターで最上階まで上がる。
その間も、ガラス張りのエレベーターから見える景色に、アキラがはしゃいでいたので、とても微笑ましかった。
最上階の屋上展望台では、コインで動く望遠鏡を覗いて、家の方角を探したり、鉄塔やら橋やらの建築技術についてアキラが話すのを聞いたりした。
ちなみに聞いた加工技術に関しては、何一つ覚えられなかった。私にはちょっと難しかったな。
展望台の後は、生活雑貨や家具、寝具、コスメなどが置いてあるフロアを見て歩く。
枕をオーダーできるお店で、いろんな素材を触ってみる。
私はそば殻の固さと匂いが好きだが、アキラは低反発が気に入ったようだ。
アキラの世界には、低反発枕はないらしい。
家具屋に差し掛かった時、私はネットで評判が高くて気になっていた、人を駄目にする悪魔のクッションを触ってみることにした。
「うわっ! なにこれ、すごい。アキラ! ちょっとこれすごいよ!」
「どれどれ……うわ! ホントだ。すごいわ……」
「……うごけなくなるね」
「……ああ。ごいりょくもなくなるな」
結局2人して、すごいすごい言ってただけだった。あれはほんとにすごい。
アキラは異世界で食器やカトラリーを売っているということもあり、生活雑貨の特にキッチン用品の所には長居してしまった。
私達は可愛らしいモチーフのついたカトラリーや、アルファベットモチーフのグッズが並ぶ中を、興味深げに見て回る。
アキラの世界はナイフとフォークが主流で箸はないらしい。
前回の食事では、うどんを掴む私を面白そうに見ていたのだが、実際の箸をしげしげと眺めて研究しているようだ。
「この箸っては慣れるまでは使いにくそうだけど1セットで刺す、切る、運ぶができるから便利だよな。構造も単純だし、うちの国でも流行るかもしれないな」
アキラはいろんな角度で見て、持って、ぶつぶつ言いながら箸を調べている。
結局黒檀の木目が綺麗な1組と5組入りのファミリー向けの箸を買っていた。
金属の国に箸が渡来するなんて、これは歴史的な場面なんじゃないだろうか?
その後もアキラの疑問は尽きない。
「このボコボコしたバターナイフはなんでこんな形なんだ?」
「こんな金属の塊、何に使うんだ?」
いろいろ聞かれては答えを繰り返して、キッチン用品売り場を制覇した頃には、ランチに丁度良い時間だった。
「ねぇ、アキラ。ご飯食べようか。希望はある?」
「そうだな。じゃあさっき見た、『フードコート』ってやつに行きたい!」
フードコートに着くと、座席を取って、アキラに声をかけた。
「アキラが先に選んでおいで。私、ここで荷物見てるから」
「ミワコが先に行っていいぞ。俺、迷うから、時間かかるし」
「そっか。じゃあそうするね」
荷物を座席に置いて、財布と携帯を持ち、フードコート内を見回す。
何にしようかな。
取り敢えず、全部の店を見て回ろうと思い、端から順番に見ていく。
ラーメン、サンドイッチ、うどん、定食、インドカレー、そば、お好み焼き・たこ焼き、カレー、ハンバーガー等々。
いろいろあると悩むなぁ。
「……美和子?」
うどん屋の前を歩いていたとき、ふいにどこかから名前を呼ばれた。
聞いたことがある声に、嫌な思い出が蘇り、恐る恐る後ろを見る。
うそでしょ。最悪。元カレだ。
「久しぶりだね。元気?」
「……何か用? なんで普通に声かけてくるの?」
「相変わらずつれないよな。そういう気が強くて、1人で何でもできるって態度が気に入らなかったんだよ。」
「でも、まぁいいか。なぁ美和子」
元カレは気持ち悪い笑い方で近づいてくる。
そして、耳元で囁いた。
「なぁ、より戻さないか? そろそろ、俺が恋しい頃だろ?」
なにそれ? 本気で言ってる?
「絶対いや! 何なのあんた!!!」
「美和子と別れたら、アイツ、料理がまずくてさ。子どもいるから触れないし。ねぇ、家来て俺に飯作ってよ。美和子には俺が必要だろ? しょーがないから、また付き合ってやってもいいよ」
もう意味が分からない。
言われたこと以上に、こんな奴と付き合ってた時間に対して、どうしようもなく腹が立って泣けてくる。
俯いて唇を強く噛んだ。
肩に、奴の手がふれた。
「何してるんだ?」
すぐ近くで、アキラの声が聞こえた。
「あ? 誰、お前」
「それは、俺が聞きたい。アンタ、誰だ? どうして彼女が悲しそうなんだ?」
今まで聞いていた声よりずっと低い。
アキラの気持ちが籠った声で、思わず体が強張った。アキラ、怒ってる。
騒ぎになってきたため、周りに人が集まってくるのが分かった。
「はっ! お前も尻軽だったんだな! オレと別れて、すぐ新しい男かよ。萎えた」
元カレが、肩に置いていた手で私を突き飛ばした。
何て奴なんだ、信じられない!
アキラが受け止めてくれなければ、怪我をしていたかもしれないのに。
アキラは元カレの言葉で、このクズが誰か合点がいったようだ。
「ああ、アンタが噂の……。じゃあもう用はないだろ。金輪際、彼女の前に現れるな」
「ふん! そんな女こっちから願い下げだ! おい、美和子! お前みたいな女が、幸せになれる分けねーだろ! 精々そいつに愛想尽かされないようにするんだな!」
またしても野次馬の好奇の目に晒されながらの侮辱。
私だけならまだしも、庇ってくれたアキラまで、こんな視線に晒されるなんて堪えられない。
もうこんな人の相手をアキラにしてほしくない。
そんな思いで、きゅっとアキラの上着の胸元を握った。
私の手に、温かくて大きなアキラの手が重なって、思わずアキラの顔を見る。
アキラは目が合うと、安心させるように笑っていて。それを見たら、ふっと、体の力が抜けてしまった。
「俺が幸せにするから。アンタはもう必要ない」
え!? 今何て言った!?
アキラの言葉に、一気に顔が熱を帯びる。
周りを見なくていいように、私の顔が野次馬に見られないように、片手で抱き締め、もう片方の手で優しく頭を撫でてくれる。
「ケッ。覚えてろよ!」
元カレはアニメの悪役みたいな事を言って、去っていった。
顔が真っ赤な私はアキラに手を引かれて、すぐにショッピングモールを後にした。
たどり着いたのは2、3分程歩いた先にある広場だった。
遊具はなく、ベンチと砂場しかない。
アキラは私をベンチに座らせて、彼自身も私の隣に腰かける。
「ミワコ、こっち向いて」
俯いたままだった顔をあげると、私を見ているアキラと視線を合わせた。
アキラは僅かに顔を歪め、悲しそうな顔で私の目元を指でなぞる。
「ごめんな。助けるのが遅くなって」
「そんな! 助けてもらってすごく嬉しかったよ。アキラがいなかったら私……」
思わず溢れそうになる涙を、アキラの指が掠めとる。
「そっか。遅くなったけど、助けられてよかった。アイツの言ってたことなんか、気にするなよ?」
「でも、ちょっとは当たってるんじゃないかって、考えちゃった。私のせいで、アキラに迷惑かけた……。
折角異世界に来てくれたのに、あんなに騒ぎになって、本当にごめんなさい」
「謝るなよミワコ。悪いのはアイツだろ? 俺、アイツに言ったよな? ミワコはアイツには勿体ないって。俺が幸せにするって。俺は……その、ミワコの事が……」
アキラの手が両肩に乗った。
真剣な顔でこちらを見つめていて、息が止まりそう。
鼓動が早くて大きくて、まるで全身が心臓になったみたいだ。
「――あぁー!!! やっぱやめとく! こんな時に言うのはズルいよな。でも、これだけは言える。
俺はミワコと出会えてよかったって思ってる。だって住んでる世界が違うのに出会ったんだぞ? 運命ってヤツ?」
「だから、俺とのこれからの事、真剣に考えてくれないか? 返事は今じゃなくていい」
「う、うん。ありがとう」
「まだ時間はあるし、いっぱい楽しもうぜ! 次はどこ行く?」
サラッと手を絡め取られる。
さっきの出来事も相まって、繋がれた手から伝わる温度にめまいがしてくる。
どきどき、バクバク、心臓の音が煩い。
きっと顔も真っ赤だ。私、絶対変な顔してる。
だけど、私の手を引くアキラの耳も真っ赤だから、きっとおんなじ顔をしてるんだろう。
そう思ったら、なんだかすごくおかしくなった。
0
あなたにおすすめの小説
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる