異世界対応型婚活システムーあえ~るー 川西美和子の場合

七戸 光

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川西美和子の場合

川西美和子、謎が解けます

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 一緒に勉強するようになって1週間ちょっと。
 ケイはやっぱり頭がいいので私のつたない説明でも理解してくれて、驚くほど言葉を覚えるのが早い。
 もう、既に文法の基本的なことは覚えており、発音と単語を練習している。
 本当にあり得ない学習力だ。毎日30分しかやってないのに。
 今日、ケイが小学生用のドリルを解いている時に、ずっと聞きたかったことを思い出したので、聞きにくいが意を決して聞いてみた。

「ねぇケイ。聞きたい事があるんだけど」

「ん? なに?」

「あのね、今文法やってるから、日本語には丁寧な言葉にも色々な種類がある事が分かったと思うんだけど」

「うん」

「ケイから初めてメッセージが送られてきた時ね、すごく丁寧な言葉で翻訳されたのね。プロフィールの性格とイメージが違うなーと思ったんだけど、時々いつもと違う感じメッセージが来ることがあるんだけど、『キューピッドくん』のバグかな? 心当たりある?」

 ドリルを解きながら聞いていたケイが、ピタッと書くのを止めて顔を上げた。
 そして少し眉を下げて、シュンとしてしまった。
 まるでこっそりつまみ食いしたのがばれて怒られる時のような顔だ。

「……なんでそんな顔するの?」

 心当たりがあるのが丸わかりですよ。

「……笑わない?」

「うん。笑わないよ」

 多分。

「あれ、セントが書いたんだ……ミワコとメッセージを交換出来るようになってから、1時間も僕が躊躇ってたから、セントが怒って……」

「え!? そうだったの? 良かった、二重人格だったらどうしようかと思った」

「あ、ごめん。普通メッセージ中に文体が変わったら驚くよね」

「いやー。ちょっとなんでかな? って思ってたんだ。じゃあ敬語で送ってきてたのは、セントさん? なんで似てる文体で送らなかったの?」

「うん。僕の性格を反映させつつ、絶対僕じゃないと分かるように送ってたらしいよ。早く会って実物を見てもらった方がいいと思ったらしくて……」

 えーそれはむしろ逆効果だったのでは? あれで随分不信感が増した。

「そうなんだね。びっくりしたよ。――あれ? でも前に渉さんに確認した時は、『キューピッドくん』は他人には使えないって言ってたよ?」

「……開発者の特権」

「え!」

「冗談。音声認識でなら他人も文字が打てるよ。世界のニーズに合わせて微妙に変えてるはずだから、一概には言えないけど。少なくとも、エレクタラの端末は音声認識も通話もできるよ」

「へー! そんな事が出来るんだね」

 エレクタラへ出発する前日もケイは家に来ていた。

「いよいよ旅行前日です!」

「そうだね」

 ケイがドリルのテストを解いている間、私は明日からの旅行のパッキングリストを見直していた。ケイにも見てもらったので、抜けはないはず。
 大体、海外旅行のパッキングと同じ感じだ。
 解き終わったテストを採点する。
 文法はミスなし、漢字が一問だけケアレスミスがある。
 横に中くらいの花丸を書いておく。
 ケイは花丸が好きらしく、書くと喜んでくれるのだ。
 今も採点された解答用紙を見て満足げな表情を浮かべている。 



 ふと思い浮かんだ疑問を口に出す。

「そういえば、なんでケイは日本語を勉強したいって思ったの?」

 とたんにケイの顔は真っ赤に染まった。
 耳まで真っ赤で、触ったら熱そう。めちゃくちゃ可愛い。
 私は何も考えず、好奇心のままに熱そうなケイの頬に手を伸ばす。
 そしてケイの赤く染まった頬を両手で包みこんだ。

「……ケイ、可愛い!」

「うわっ……」

 あ、やっぱりすごく熱い。私の手で冷えるといいな。
 ん? というか、そもそも今の会話のどこにそんな反応をする要因があったのか?
 目を合わせて我が子を見るような自愛の目で見つめると、ケイはしばらくキョロキョロしていたが、やがて諦めたように視線を合わせてくれた。

「――ったから」

「え? ごめん。よく聞こえなかった」

「~っ! ミワコに、君の国の言葉で、想いを伝えたくて……」

「へ?」

 理解した瞬間、体中の血液が駆け巡っているような衝動が起きた。
 今度は私が赤くなる番だ。
 慌てて距離を取ろうと後ろに下がろうとしたら、腕を取られて引き寄せられる。
 そして、ケイはさっき私が彼にしていたように両頬に手を添え、真剣な表情で口を開いた。

「――ミワコ、この国では何て言って愛を伝えるの? 僕に教えて?」

「あ、」

 頭が真っ白になる。
 ケイの薄っすら紅がさした頬。
 熱のこもった瞳と切なそうな表情、ゆっくり言葉を紡ぐ唇に、全身が熱くなるような色気を感じて。
 ケイのこんな表情見たことない。
 私も絶対、今までの比じゃないぐらい赤い。
 恥ずかしくてとっさに逃げようとするけど、ケイは視線を外してくれなくて、居た堪れなくて、なんだか涙が出そう。
 何か言わなければと思うけれど、一向に言葉は出てこない。

「あ、す……す……」

 金魚のように口をパクパクさせて言葉にならない音が漏れる。

「ミワコ」

 ケイに名前を呼ばれて、煩いぐらいに早鐘を打っていた心臓が一際大きく跳ねた。
 ――もう、限界!!!

「……あ……ご、ごめんお手洗い行ってくる!!!!」

「あ、ミワコ。…………ちゃんと練習しとかなきゃ」

 ケイの手を振り払ってトイレに逃げる。
 最後、ケイが何か言っていたようだがそれどころじゃない。

 トイレのドアを閉めた瞬間、足元から崩れ落ちた。
 あああああああぁぁぁぁ!!!!!!

「なん、何なの、今の!!!!!!!!」

 自分の意志とは関係なく、さっきの衝撃的な出来事が、脳内で何度も何度も再生される。
 あんなケイ知らなかった。いつもと全然違う。
 表情に憂いがあって、私を見る目がうっとりするほど甘くて、熱っぽくて、雰囲気全体が色っぽかった。
 私、もう恥ずかしくて、体が熱くて。
 心臓が痛い。
 ただ、日本語の『愛を伝える言葉』を教えてあげるだけだったのに、躊躇してしまった。
 ケイがあんなに切ない顔で言うから。
 この人に『愛を伝えられている自分』が想像できて、思わず逃げてしまった。
 それ以上に、心の奥から湧きだす気持ちに動揺した。
 嬉しいって思ってしまった。

 元カレの言葉通り、気の強い私は、アキラの件で人に好かれる自信がなくなっていた。
 けれど、ケイはそんな私にストレートな言葉をかけてくれる。
「素敵だ」「好きだ」と言われることがどれほど自信につながるのか、今の私は身をもって体感していた。
 不安が解消されつつある今、ケイのマイペースかつ私を大事にしようとする姿勢にほだされているようだ。

「……はぁー。もう、明日からどうしよう……」

 暫くトイレで膝を抱えて、鼓動が収まるのを待った。

「あ、ごめんケイ……」

 リビングに戻ると、ケイの姿はなくなっていて、時計を見れば、約束の1時間が過ぎていた。
 あんなに張り切って「お手洗い行ってくる!」って宣言しちゃって、めちゃくちゃトイレ行きたかった人みたいに思われてないかちょっと心配……ないか。
 先ほどまで勉強していたテーブルには1枚の紙が置かれて、小学生みたいなちょっと形のいびつな文字でこう書かれていた。

【ミワコ

 時間になったから帰ります。また明日。おやすみ。   ケイ】



 この晩から私はアキラの事を思い出して、夜な夜な枕を濡らすことがなくなった。

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