異世界対応型婚活システムーあえ~るー 川西美和子の場合

七戸 光

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川西美和子の場合

ケイ・ヨ・ルー、決着を付けます

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 ミワコが帰った後、しばらくゲートを見つめていた。
 もしもミワコが忘れ物をして、もう一度戻って来たら、今度は抱き締めて絶対離さないでいるのにな。
 戻ってくるはずないのに、そんなことを考えてしまう。
 家で僕が返事を聞かなかった時の、眉をへの字に曲げた不安で一杯と言わんばかりの悲し気なミワコの顔を思い出して、罪悪感と愛しさが込み上げる。
 自分で離したのに、大切な人が欲しくて堪らない。
 行き場のない感情を押し込め、僕はゲートを後にした。やるべき事が残っているから。
 ゲートを後にした僕は実家、エレクタラ王宮へ戻り、父である国王ハク・キューへことの次第を報告する。今から決着をつけることも。



 見慣れた、王宮の謁見の間には、既に人払いがされていた。
 金で縁取られた玉座に座った自分と同じ色彩を持つ父は、相変わらず無表情で、どこか冷たい。
 きっとずっと端末を通して僕たちの行動を見ていたのだろう父は、僕が来たことも、告げた内容にも特に驚く素振りもなく、ただ「そうか」と言っただけだった。

「……ケイ・ヨ・ルー。お前はもう我が国の王子ではない。この国の籍を捨てた今、お前はどこの国にも世界にも属さぬ一般人。早急に国を出ろ。24時間経てば、完全にお前の籍は消え、アバターは破棄される。不法入国者になる前にこの国を出て行け」

「……はい。僕の我儘を聞いてくださり、ありがとうございました。失礼します」

 あまりにも事務的な会話だが、この人が僕に興味を持たないのはいつもの事だ。そういう人だ。
 あっさりとした謁見を済ませ玉座に背を向け、扉へ向かった。
 帰路に着きながら今までの事、これからするべきことを思い出す。
 幼い頃からの付き合いで、誰より僕の為に働いてくれた。
 大事な兄弟のような人。
 僕のせいでこんなことをさせてしまった。
 国内用の転移ゲートをくぐり、自宅へ向かう。
 見慣れた白い玄関の奥から声が聞こえた。

「お帰りなさいませ。随分遅かったですね。ミワコ様と遂にくっつきましたか?」

 ミワコには見せないような穏やかな表情のセントがそこにいた。
 ミワコがいると、僕がうじうじするからいつもしかめっ面ばかりしていたことを思い出す。

「……ミワコの気持ちは聞いてない」

「! 何故です、ケイ様!」

 とても驚いた様子のセントが勢いよく胸ぐらに掴み掛かってきた。

「何故ですか! まだ待つおつもりですか!? あの女の気持ちがそんなに大切なんですか! もう、貴方の籍がなくなってしまうまで時間がないのに!!」

 普段は冷静なセントの叫ぶような声に胸がぎしりと痛む。
 今までこんなに怒ったの見たことなかったな。
 公園でうたた寝して日暮れまで連絡もせずに帰らなかった時でも、ここまで怒ってなかった。

「大切だよ。ミワコが一番。だけど、同じぐらい君も大切なんだ……ミワコの端末をハッキングして、アキラのアカウントを隠したのは君だね」

 その言葉を口にした瞬間、セントの顔を見ると驚愕と恐れを表していて、僕の予想が正しかったことを裏付ける。

「……どうして、私がそんなことを」

「僕のためだよね? 僕だってこの国の技術者だ。エレクタラの情報網を私的流用したかどうかを見極めるのは難しくない。また端末のセキュリティを突破して、ミワコの端末を遠隔操作したんだね。痕跡を消してたみたいだけど、まだ甘いよ、セント」

「ケイ様のためでは!」

 セントはこの期に及んで僕を庇うためか、僕のためではないと言い張る。

「もういいんだ。ミワコは彼に返す。僕は君の主だ。君の行動は僕の責任だよ。一緒に罪を償う」

 幼いころから一緒にいたセントには、僕の言葉で僕の思っていることが全て理解できたのだろう。
 どれだけ考えてこの決断に至ったかも。
 茫然とした表情でその場に崩れ落ちたセントの肩に手を置く。

「そんな……ケイ様」

「もういいんだよ」

 僕が夢を見たのがいけなかったんだ。
 ミワコが温かくて、ずっと側にいたいと思ってしまった。
 セントはそれを叶えようとしただけだ。

「……申し訳、ありません」

「うん」

 一晩ゆっくり今後の事を話し合って、翌朝、王宮にセントを引き渡すことになった。
 王宮には事前に連絡を入れておいたので、セントは問題なく受け入れられる。
 王宮への道中でセントがぽつりとこぼす。

「本当にいいんですか? ケイ様。籍もなくなり、流浪の旅だなんて」

「昨日何回も言ったよ。いいんだ。他の国を見て回るのも楽しそうだし。それより自分の心配しなよ。今から王宮の牢で数年は幽閉されるんだから」

「しかし……」

 セントが俯きがちに言った。相当思いつめているようだ。

「いいってば。僕はこれから国を出るけど、しっかり反省してくるんだよ」

「はい……解放され次第、すぐにケイ様をお探しします!」

 急に顔上げて、さっきまで思い詰めていたのがウソのように張り切った声で、そんなことを口にするセントに僕はポカンとしてしまった。

「……いいかもね。そしたら2人でいろんな国を見て回ろうか」

 そんな想像につい、立場も忘れて笑みがこぼれた。
 ふとセントが立ち止まって、僕の方を向いたので僕もつられて立ち止まる。
 セントは僕に最大限の敬意示す礼をした。

「はい。どこまでもお供いたします」

「……うん」

 ***************************************

 セントと分かれた後、別れの挨拶をするため、謁見の間を訪れた。
 普段なら壁にかけられた動く絵と豪華な玉座ぐらいしかないこの部屋に、今は僕の家族が沢山集っていた。
 久しぶりに会う10人の母たち、兄弟たち。
 彼らは口々に引き止める言葉を口にするが、陛下が発したのは「もういい」それだけだった。
 僕だってもういい。
 だけど、ふとこの間ミワコに見せられなかった庭園を思い出した。
 国を捨てる準備をしていた僕はどんどん王家の人間としての権利を失っていた。
 あの庭園に入る権利もすでにない。
 だけど、国を離れる前に最後にあそこの花が見たいと思った。

「陛下、最後に1つだけお願いがあります。あの庭園の花を最後に見たいのです。許可を頂けませんか?」

「……好きにしろ」

「感謝します。お世話になりました。失礼します」

 謁見の間を出るまでも、兄弟や母たちの視線が突き刺さるようだった。
 僕は視線を振り切り、王宮を後にして、庭園へと向かう。
 この国での最後の時間を、彼女の瞳によく似た色の花を愛でて過ごすために――
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