異世界対応型婚活システムーあえ~るー 川西美和子の場合

七戸 光

文字の大きさ
35 / 37
川西美和子の場合

川西美和子、もう一度会いたいです

しおりを挟む
 アキラと別れて、日本に戻ってきた私は、ケイに会うための申請に取り掛かった。
 紬さんも渉さんも私の気持ちを汲んで動いてくれている。本当にありがたい。
 井戸端会議をしていた和室でやたちゃん先輩と一緒に、2人が動いてくれているのを見守る。
 やたちゃん先輩の羽を撫でさせてもらいながら、大人しく待っていた。



 暫くして、どこかへ電話をかけていた紬さんが、急に血相を変えて話し始めたかと思うと、今度は電話を繋いだまま私に状況を説明してくれた。

「美和子さん、大変です! ケイさんとずっと連絡が取れなくて、自宅の方に確認させてもらったんですけど、ケイさんエレクタラを追放になるみたいです! アバターも連絡機能が使えなくなっているらしく、連絡手段がないまま行方不明みたいです」

「えええ!! 追放って……どういう状況なんですかそれ!?」

 予想外の展開に思わず叫ぶ。
 ケイが国から追放? なんで?
 私の『キューピッドくん3号』のハッキング事件に関係あるの?
 もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 けれど、ふと思った。
 もしかしたら、このまま会えなくなる?
 そう考えたら、鳥肌が立つみたいな形容し難い感覚が、ぶわっと全身に広がっていった。
 不安、というよりも恐怖に近いような感覚だ。

「それって、ケイに会えなくなるってことですか?」

 紬さんは私から目をそらして、黙っている。

「い、いやです! このまま会えなくなるのは! 私まだケイに好きって伝えてない! エレクタラに行かせてください!!」

 ばんっと勢いよくちゃぶ台に両手をついて身を乗り出す。
 なりふり構っていられない。
 ケイに会いたい、ただそれだけを紬さんに訴える。

「美和子さん……あえ~るは互いの同意がないと、異世界に飛ぶことは出来ないんです。ケイさんに連絡が取れない今、美和子さんをエレクタラに呼べる人物がいません」

「そんな……」

 私は初めて異世界という物理的な時空の壁を障害として感じていた。
 前にケイが動物園で言っていたことを思い出す。
 私達『あえ~る』がなければ、もう二度と会えない所にいるんだね。
 どうしようもなく涙がこみ上げそうになるが、まだ手はあると信じて考えを巡らせる。
 アキラにも背中を押してもらったし、ケイには言いたい事も沢山ある。
 ここで諦めるわけにはいかない。
 今日1日で、さんざん弄られつくしたであろう『キューピッドくん3号』がテーブルの上で真っ暗なディスプレイをこちらに向けている。
 もう連絡の取れる人はいなくなってしまった…………ん? 連絡? 
 あっ! ジンさんの連絡番号!!
 あれをもとにジンさんに連絡を取って、『あえ~る』でエレクタラへ呼んでもらうことはできないだろうか?
 さっそく私は紬さんと渉さんにジンさんのことを話した。

「以前エレクタラへ行った時にジンさんから、連絡番号を頂いたんです。『もし次にこの国に来るなら必要になるから』って……。これ使ってジンさんに連絡取ってから、転移って出来ませんか?」

 渉さんと紬さんは一度顔を見合わせて、そして二人そろって笑顔で振り返った。

「「やりましょう!!」」 

「実は美和子さんの『キューピッドくん3号』も、ハッキングの件で規制が掛かってて、新規の方を紹介できないようになってるんです。でも! もう既に連絡先を知ってる状態なら、検索するだけで連絡できるようになるので、ジンさんとなら連絡が取れるはずです!」

 急いで『キューピッドくん3号』にジンさんの連絡先を入れて、アカウントを探す。
 すぐに見つかったそのアカウント宛にメッセージを送る。
 ハッキングの件。ケイが追放されると聞いたこと。
 どうしてもケイにもう一度会いたいことを、気持ちを込め、かつ、簡潔に書いて送信した。
 和室のちゃぶ台に端末を置いて、皆で祈りながら返信を待つ。
 返信を待つ時間が10倍にも20倍にも長く感じられる。こんなの初めてだ。
 ジンさんから連絡が来たのは、送信してから10分後の事だった。
 ジンさんからのメッセージには一言だけが書かれていた。

【ケイと会ってどうする?】

 沢山したい事はある。
 好きって言ったり、怒ったり、旅行の最後に言い逃げしたことも追求したいし。
 だけど、会ったら一番にどうするだろう?
 きっと心のままに、その場で思ったように動いてしまうだろう。――だから。

【それは、ケイに会ってから考えます!!】

 返信を終えた『キューピッドくん3号』の画面に、【異世界転移の申請が来ました】の文字が浮かんだ。



 ジンさんからの申請をもとに、紬さんと渉さんが必死で動いてくれて、何とかたどり着いたエレクタラの入国ゲートには、初めて来たときとは違い、ジンさんが待っていた。
 初めて来たときは当然だがケイがいた。変装しててびっくりしたな……。
 些細なことから、簡単にケイとの思い出を思い出してしまうことに驚いた。
 辺りを見回したが、ジンさんが居るからなのか人がいない。
 人払いされているのかもしれない。
 黒髪の短髪でワイルドな風貌のイケメンであるジンさん。
 にたりと意地悪そうな笑みを浮かべている。

「アンタ、意外と脳筋だな。会ってから考えるとか、笑っちまったわ」

 う、馬鹿にされているような気がする。
 何であんたにそんなこと言われにゃならんのだ! こっちはあんたの弟に会いに来たんだ! 早く案内しろ! という気持ちを込めたジト目で睨んでいると、ジンさんはおどけた様に肩をすくめた。

「あの、ケイはどこに? 連絡しても繋がらないんです! 追放になるってどうなってるんですか?」

 ケイを早く探したくて、必死にジンさんに迫る。

「落ち着けって。ケイなら、今頃、庭園だ……が、アンタが今から行くのは庭園じゃねえ。実家に案内する。家族に会ってもらうぜ」

「実家って……えっ! 王宮行くんですか!? 今から!?」

 ジンさんの嫌な笑みにイラついていられる余裕が、一瞬でなくなった。

「あぁ。だから、仲人はここで留守番な」

「分かりました……美和子さん、頑張って」

 ずっと後ろで控えてくれていた紬さんが声をかけてくれた。

「紬さん本当に、ありがとうございます。行ってきます!」

 紬さんを残して私はジンさんと歩き始めた。
 入国ゲートから最も近い国内転移用ゲートに向かい、王宮の最寄りゲートに行くまでの間、私はジンさんから軽く事のあらましを聞くことになった。

「えっ! じゃあハッキングの犯人はケイじゃなくて、セントさんなんですか!」

「ああ。でも原因は明らかにケイだからな、自分だけ幸せになるってことが嫌だったんだろう。自分もセントと同罪だからと、『あえ~る』を使用できないようになった」

 それを聞いてふと疑問に思った。

「『あえ~る』を使用できないことが、罰に当たるようなことなんですか?」

 そう尋ねると、ジンさんは初めキョトーンとした呆けた顔でこちらを見たが、暫くすると「ああ」と言って、元に戻った。

「この国では権利を侵害されることってのは、何事にも代えがたい罰なんだよ。特にケイはアンタの事を、っとついたぞ。詳しい話は親父がしてくれる」

 ジンさんは途中で話を切り上げて、目の前にそびえたつ変な形の王宮を見上げる。
 ウソでしょ!? ああ~今更だけど、お腹痛くなってきた。
 私みたいなただの平民、しかも異世界人が息子をたぶらかしたって言われたらどうしよう!?
 手土産もないし、何なら泣いてから化粧が直せてないし、コンディションは最悪だけど本当に大丈夫かな!?
 私のそんな心境などお構いなしでジンさんは門番に話しかけていた。
 
 ガガガッ――
 重たい音を響かせて門が自動で空いていく。

「ほら、行くぞ」

 彼はそれだけ言ってスタスタと歩いて行ってしまったので、私も慌てて追いかけた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...