お百度参りもすませてきたわ

夜束牡牛

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悪巧み

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○●


 新月の夜、神社の境内に三人の男がいた。
 男達は、獅子と狛犬の石像の後ろで、手にした着物を見合っている。着物は暗い夜でも綺羅をおび、堅気に見えない男達の手元を、不思議な輝きで飾っていた。
 他に人のいない境内に、ぼそぼそと男達の声が聞こえる。


「そろそろことも収まった。獲物の捌き時だ」

「おい、貴石きせきたぐいがないぞ」

「なんだと。着物の内に縫い付けて持っていたはずだ、よく見ろ馬鹿! なんではぎ取った時に見とかねぇんだよ」

「あの女、目開けたまま逝きやがったからよぉ、気味ぃ悪くて……、最後の最後でこっちを騙したんじゃねぇか?」

「馬鹿いうな、能無しの田舎花魁風情が、色恋事以外に気を向けるか」

「どちらにしろ、気になる。一度、音々ねねの店を探るか」

 男達は広げた着物を集めると、軽く打ち合わせ、百段階段を下りようとした。

「ひっ」

 短い悲鳴。とっさに男達は懐を抑えた。

「馬鹿野郎! ……ただの石像だ。さっきまで寄りかかってたのは、てめぇだろ」

 獅子の石像に驚いた男を戒め、一人が言った。
 細い月明かりの中で、石像のぐわっと開いた口が暗い闇をたたえ、男に向けられている。もう一人がふと気づいた。

「おい、この獅子、きばがねぇ。ありゃ、あっちの狛犬はつのがねぇ」

すたれてんなぁ、あらかた雨風で折れたのを誰も直さねぇんだろ」

 暗闇の中、獅子と狛犬の石像の陰影は益々濃く、神の獣たちが息をひそめ、じっとこちら伺っているようだ。
 その、思わず息を詰める凄みに、大の男が驚き声をあげるのも納得できた。

「ったく。驚かせやがって、でなに守ってんだか」

「たかが石屑のくせに、妙に構えやがってよおっ、気味のわりぃ」

「まるで化けそこないの物の怪みてぇじゃねぇか……縁起の無ぇ姿形しやがって」

 風が吹いた。
 小山を囲む青稲がざわざわと鳴く。
 ぎし、と何かが軋む音がした。がり、と何かを引掻く音がした。

「……」
「……」
「……帰るぞ」

 男達は、ひたひたと迫って来る重苦しい闇に、何かを感じたのか、歯切れの悪い悪態をつきつつ、百石階段を足早に下って行った。

 新月の弱い光を受け、石像の影が揺れた。




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