イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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長・小石丸2

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 孫と祖父、師と弟子、イトムシとイトムシ。二人の間に、二体の間に、細く冷たい糸がぴんと張られる。
 ヒノデはその糸を視線で溶かすように、小石丸へと身を乗り出した。

「何かがおかしいの……。だって、このままでは、この世界からイトムシはいなくなってしまう。そしたら、誰があの可哀想な子たちを送るの? あの子たちが日の光に狂わされ、暴れ苦しんだ時、誰がその牙から人間を守るの? この国の恩恵が狙われ時、いったい誰がこの国を守るの? 私たちイトムシは、変わらず夜と楽園に必要とされているわ。だって、あの子が生まれたのですもの。だけどもし、あの子がひとりで送りをするような事になってしまったら? あの子が送りで命を落とすような事があったら? あの子が、やっと生まれたイトムシが……」

 ヒノデの手が伸び、小石丸の手を掴む。
 小石丸の指は感情が読めないぐらい、硬く冷たい。ヒノデは自分の指をピタリと重ねた。

「この不安を伝えたいのですが、不安の答えがわかりません。おじい様……、おじい様なら、この答えを知っているでしょう? お願いです。私を、私の息子をお助けください」

 二人の間にある冷たい糸など信じないと、ヒノデはその指を絡め、師の目だけを見つめ続けた。
 師の目に、読み取れるような感情は無く、ただ真っ直ぐに、黒い瞳がヒノデを映していた。
 冷たい指が解れ、ヒノデの手を守るように握り込む。長年の糸傷が水脈のように走る手。

「わしはお前が可愛い。よくできた、自慢の賢い、たった一人の本当の孫だ」

 小石丸は立ち上がり、バルコニーの端まで歩いた。
 夕焼けの中に、橙の花。この花はいつだって眠りにつくのが遅い。
 影にならない真白い師の背中が、緑の湖の中、船になる。
 不思議な光景に平衡感覚を揺らされ、ヒノデはくらりとした。小石丸がいまにも、緑の湖に飛び込んでしまう気がして、緊張した指がぎゅっとスカートを握る。
 小石丸が前を見据えたまま、ヒノデに言った。

「キイトにイトムシの稽古をつけよう。少しでも、あの子が長く生きられるように」

 白い背中は、それ以上を語らない。答えは出されなかったが、ヒノデは、自分が一歩踏み出した事が分かった。
 立ち上がり、師の背中に一礼し部屋を出る。
 残された小石丸は庭を眺めた、木の根元を覆い隠すような茂み。その奥から風が流れてくる。葉の香り、草の匂いに交じる夜の気配。下では馬の足音が遠ざかっていく。

「……皆、二度生まれる。生まれたからには、死ぬ義務を果たしてもらわなくてはいけない」

 風が葉を揺らし、小石丸の呟きを隠した。
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