イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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粉屋6

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 キイトは追放者の体を見下ろした。

 初めて現場の送りに出た。しかし、ちっとも誇らしくない。
 楽園からの追放者を手にかけるのは、とても悲しかった。動かぬ体も、動いていた時の、あの眼差しも。

(どうして、こんなに辛いんだろう)

 心に穴が開いたように、高ぶっていた気持ちがすかすかとした。

 館士兵が駆け付け、茫然とするキイトに何やら言うが、少年の耳には入ってこない。

「ヒノデ様、動いてはいけません」

 懐かしい名前に気が戻り、振り返ると、頭から血を流した傷だらけの母が、立ち上がろうとしていた。
 キイトは駆けより、手を貸そうとした。
 三年ぶりに見た母は、紙のように蒼白な顔をし、痛々しい血で汚れている。しかしその顔は昔と変わらず美しい。慈しみ深い夜の瞳が、キイトの視線とぶつかった。

(やっと会えた、ずっと会いたかった)
「かあさん!」

 ぐらりと母の体が揺れた。慌てて支えると、その手を強く払われてしまった。さらに風を切る音が聞こえ、母の手が冷たくキイトの頬を打つ。
 パンっと渇いた音がした。

「……作法を知らぬのですか?」

 ヒノデの声が耳に届く、キイトは慌て視線を下げ、一歩下がった。
 目上のイトムシに、無粋にも感情だけを目に送ってしまった。さらに、現場で母などと呼んでしまった。

「申し訳ございません……。ヒノデ様」

 母の名を噛み締める。
 悲しさと母を落胆させてしまった恥ずかしさで、打たれた頬が熱い。

「小石丸様のお手伝いをしなさい」

 館士兵に支えられ、ヒノデが歩き出した。白い上着に、解けた黒髪が流れる。
 母に言いたいことも、見てほしいものも沢山あった。しかしその全てを飲み、キイトは返事をした。

「……はい、ヒノデさま」
「……」

 無言のまま母の背が遠ざかり、小石丸がやって来た。
 小石丸はヒノデとのすれ違いざま、労うように言葉をかけ視線を交わす。キイトはそんな二人から目を離した。やがて小石丸がキイトを呼んだ。

「勝手に来たことは、後で罰を与える。小僧、どうやってムシを湧かせた」
「……ムシとは何ですか」

 キイトは与えられる罰を考え、気が重くなった。その上、このまま師の赤い糸を奪えなかったら、肩を外されるだろう。嫌なことばかりだ。
 キイトが、強すぎる師の視線から逃げ、下を向くと、小石丸が鼻で笑った。

「六本足の方が石を飲んだ。取り出せ」
「はい」

 師の命令に頭が混乱したが、すぐに目にした情報をかき集めると、瞬きをし、命に従った。
 キイトは少し離れた場所に転がったままの、、追放者の死骸へと向かった。
 歩きながら、『飲んだ石』を取り出す方法を考えるが、どう頑張っても、気持ちの良い方法ではなかった。
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