イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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宮守と館士兵1

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○○○○○

 宮の中庭、たっぷりとした水路の脇を、午前の任務を終えた二人の宮守が、北門へと向かい歩いていた。一人の制帽には、副隊長の位が刺繍されている。
 宮守が、少し前を行く深山みやまへと話しかけた。

「一カ月交代とは、キイト様はお忙しいですね」
「器用な方です。上手く切り替えるでしょう」

 深山へと話しかけたのは、キイトと深山の手合せの時、木刀を受け取った宮守だった。
 宮守はのんびりと答える深山へと、小さくため息をつく。

守護館しゅごやかたですよ? どんな粗野な振る舞いを教えられてしまうか。心配でなりません」
「『宮と館の流儀を』、との命令です。仕方がありません。まぁ、宮にはキイト様の保育権があります。いざとなれば、権利行使で強奪です」
「深山様、過激な発言はヤモリ内だけで……。くれぐれもお願いしますよ」

 宮守が苦笑いをした。

 宮守塔から一番近い北門には、キイトを守護館へと送る馬車が用意されていた。今日がちょうど、一カ月交代のキイトの受け渡し日だったのだ。
 キイトは午後から、守護館で受け入れ教育を受けることになっていた。
 北門の外に、送迎の馬車が見えた時、深山は眉をひそめた。
 そこには、館士兵の姿があった。
 相手もこちらに気が付き、馬車へと寄りかかっていた巨体を正すと、仁王立ちになった。さらに影からもう一人が出て来る。

「何しに来たのでしょうね」
「……」

 宮守が不快そうに言う。
 深山は答えず進み、門外で待機する二人の館士兵の元へ寄った。
 同じ、国へ仕える身ではあるが、宮守と館士兵は、その外観も性質も大きく異なる。

 宮守は、国王の身辺警備をするために、身元確かな者、貴族出身者等が多く、また厳しい身だしなみ規範も存在する。
 対する守護館の館士兵は、荒くれ者が多く、館士服さえ着ていれば頭髪、刺青、装飾品は金属を避ければ、大抵の事が許されている。
 また、痩身を良しとする宮守たちと違い、館士兵の多くは体躯が目立って良い。求める筋肉のつけ方が違うのだ。

 待ち構えていた二人もまた、その類に漏れず、派手な外見をしていた。
 一人は見上げるほどの巨体。纏う筋肉に、短髪は片側をそり上げている。そして、闘犬を思わせる、ぎらりと光る目を持っていた。
 もう一人は、金髪を高く結った年若い軟派な男。腕に彫られた複雑な刺青が、捲った袖から覗いている。

 そんな二人を、御者席から御者が迷惑そうに眺めていたが、深山を見つけ安堵したらしく、下りてこようとした。深山は彼を手で止め、巨体の前へ出ると、形の良い眉を跳ねさせた。

「おや? こんな所にならず者がいる」
「迎えだ」

 巨体が雷のような低い声で答えると、にじり出てきた。
 巨体と深山が、見えない境界線上で向かい合った。


「迎えなど頼んでいません。キイト様は、宮の馬車で守護館へお送りします」

「徒歩で十五分の距離をか? 仰々しい真似しやがる、さっさとキイトを出せ」

「キイト様は只今、服飾部にて採寸中です。それと君、『様』をつけなさい。不届き者」

「午後はうちで預かるんだ、好きに呼ばせろ」

「そうなのですよね、君たちに任せるなんて、本当に恐ろしくてなりません」


 深山と巨体の館士兵、二人がギラギラと睨み合っていると、軽い足音とそれを追いかける必死な足音がやって来た。そしてキイトの明るい声が巨体へと向う。

「わぁ、きくだ! 久しぶり。嬉しいな」

 キイトは喜びの声を上げ、巨体の館士兵に駆け寄ろうとした。それを、深山が片手で制した。
 合図を出され、キイトは大人しく深山の背で止まった。そこへと、キイトを追い駆けて走ってきたヌーも追いつき、膝に手をあて息を整えた。
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