74 / 119
宮守と館士兵1
しおりを挟む○○○○○
宮の中庭、たっぷりとした水路の脇を、午前の任務を終えた二人の宮守が、北門へと向かい歩いていた。一人の制帽には、副隊長の位が刺繍されている。
宮守が、少し前を行く深山へと話しかけた。
「一カ月交代とは、キイト様はお忙しいですね」
「器用な方です。上手く切り替えるでしょう」
深山へと話しかけたのは、キイトと深山の手合せの時、木刀を受け取った宮守だった。
宮守はのんびりと答える深山へと、小さくため息をつく。
「守護館ですよ? どんな粗野な振る舞いを教えられてしまうか。心配でなりません」
「『宮と館の流儀を』、との命令です。仕方がありません。まぁ、宮にはキイト様の保育権があります。いざとなれば、権利行使で強奪です」
「深山様、過激な発言はヤモリ内だけで……。くれぐれもお願いしますよ」
宮守が苦笑いをした。
宮守塔から一番近い北門には、キイトを守護館へと送る馬車が用意されていた。今日がちょうど、一カ月交代のキイトの受け渡し日だったのだ。
キイトは午後から、守護館で受け入れ教育を受けることになっていた。
北門の外に、送迎の馬車が見えた時、深山は眉をひそめた。
そこには、館士兵の姿があった。
相手もこちらに気が付き、馬車へと寄りかかっていた巨体を正すと、仁王立ちになった。さらに影からもう一人が出て来る。
「何しに来たのでしょうね」
「……」
宮守が不快そうに言う。
深山は答えず進み、門外で待機する二人の館士兵の元へ寄った。
同じ、国へ仕える身ではあるが、宮守と館士兵は、その外観も性質も大きく異なる。
宮守は、国王の身辺警備をするために、身元確かな者、貴族出身者等が多く、また厳しい身だしなみ規範も存在する。
対する守護館の館士兵は、荒くれ者が多く、館士服さえ着ていれば頭髪、刺青、装飾品は金属を避ければ、大抵の事が許されている。
また、痩身を良しとする宮守たちと違い、館士兵の多くは体躯が目立って良い。求める筋肉のつけ方が違うのだ。
待ち構えていた二人もまた、その類に漏れず、派手な外見をしていた。
一人は見上げるほどの巨体。纏う筋肉に、短髪は片側をそり上げている。そして、闘犬を思わせる、ぎらりと光る目を持っていた。
もう一人は、金髪を高く結った年若い軟派な男。腕に彫られた複雑な刺青が、捲った袖から覗いている。
そんな二人を、御者席から御者が迷惑そうに眺めていたが、深山を見つけ安堵したらしく、下りてこようとした。深山は彼を手で止め、巨体の前へ出ると、形の良い眉を跳ねさせた。
「おや? こんな所にならず者がいる」
「迎えだ」
巨体が雷のような低い声で答えると、にじり出てきた。
巨体と深山が、見えない境界線上で向かい合った。
「迎えなど頼んでいません。キイト様は、宮の馬車で守護館へお送りします」
「徒歩で十五分の距離をか? 仰々しい真似しやがる、さっさとキイトを出せ」
「キイト様は只今、服飾部にて採寸中です。それと君、『様』をつけなさい。不届き者」
「午後はうちで預かるんだ、好きに呼ばせろ」
「そうなのですよね、君たちに任せるなんて、本当に恐ろしくてなりません」
深山と巨体の館士兵、二人がギラギラと睨み合っていると、軽い足音とそれを追いかける必死な足音がやって来た。そしてキイトの明るい声が巨体へと向う。
「わぁ、菊だ! 久しぶり。嬉しいな」
キイトは喜びの声を上げ、巨体の館士兵に駆け寄ろうとした。それを、深山が片手で制した。
合図を出され、キイトは大人しく深山の背で止まった。そこへと、キイトを追い駆けて走ってきたヌーも追いつき、膝に手をあて息を整えた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。
絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。
王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。
最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。
私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。
えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない?
私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。
というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。
小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。
pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。
【改稿版について】
コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。
ですが……改稿する必要はなかったようです。
おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。
なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。
小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。
よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。
※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。
・一人目(ヒロイン)
✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前)
◯リアーナ・ニクラス(変更後)
・二人目(鍛冶屋)
✕デリー(変更前)
◯ドミニク(変更後)
・三人目(お針子)
✕ゲレ(変更前)
◯ゲルダ(変更後)
※下記二人の一人称を変更
へーウィットの一人称→✕僕◯俺
アルドリックの一人称→✕私◯僕
※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる