イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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宮守と館士兵2

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 菊と呼ばれた巨体は、宮風の服に身を包んだキイトを見下ろし、懐かしそうに笑った。ギラギラとした双眸が、身内の子供を見るように優しくなる。

「よぉ、キイト! 大きくなったなぁ」

 深山がすかさず口を挟む。

「だから、様をつけなさいと言っている」
「うるせぇ、子供に様つけてどうすんだよ、お子様か!?」
「えぇ。そうですけど?」

 再び睨み合う二人の間に、ヌーがさり気なく身を滑らせた。

「お疲れ様です、館士兵殿。お迎えですか? ご丁寧にどうも。イトムシ・キイト様、専従宮使いのヌー・シャテルと申します」

 以後、お見知りおきを、と片手を差し出すヌーに、巨体は頷き力強い握手をした。

「菊・ルドベキア。赤ん坊のキイトを風呂に入れたことだってある、慣れた仲だ。少しばかりご無沙汰だったが、俺が世話役だ。それともう一人、こっちの派手なのはキイトも初めてだな、イチヤ・リンツ。二人とも仲良くな」

 イチヤが片手を上げ、キイトも手を組み挨拶をした。「じゃ行くか」と、菊が馬車を離れようとするのを、再び深山が止める。

「待ちなさい。キイト様は、宮が馬車でお送りします。君たちは帰りたまえ」
「あ? まだ言うのかよ。もうこっちが預かる時間だ、好きにさせろや」

 菊のその言葉に、宮守が素早く時間を確認した。

「正午の鐘が鳴るまで、まだ二十七分あります」
「ではうちの仕事ですね。守護館よ、宮の業務妨害は止めて頂きたい」
 
 そう言う深山へと、菊が睨みを効かせる。

「偉そうにしやがって、館も持たない奴がよ」
「館なんぞ宮の派生です。おい、敷地内に影が入ったぞ」

 深山は澄ました顔で、菊は野性的な目で、互いに飛び掛からんばかりに重心を変えた。
 キイトはそんな二人を戸惑い見上げた。
 大人同士が、こんな風に言い合いをしている所を、はじめて見たのだ。大好きな人同士、喧嘩はしてほしくない。いざとなったら、両者の仲裁に入るつもりで、両手を後ろ手に組み尋ねてみた。

「……二人はお知合いですか?」
「はい。業務上、仕方がなく」
「おう。同期って奴だ、なぁ深山ちゃん」

 キイトは、二人の目を交互に見た。
 深山が館士兵を嫌っていることは、この一か月の間に、その言動で何となく察せられていた。また、館士兵側も宮を嫌っているは、母ヒノデと一緒に暮らしている時から、感じていた。

(宮と守護館は仲良くない……でも)

 キイトは、後ろ手で糸輪の糸をなぞりながら、瞬きをした。

「……深山様は、菊と仲が悪いんですか」
「そんな事ありませんよ、ご心配なさらずに」

 キイトの瞳に、深山がいつもの優しい笑顔を向けて来る。そこへとすかさず、菊が横槍を入れた。

「お、宮お得意の隠ぺい工作か」
「五月蝿い、不都合な事実は真実にはならん」
「おーこわ。キイト、こんな隠し事だらけの大人になるなよ」
「キイト様、こんな、品位の欠片もない大人に成ってはいけませんよ」

 それを聞き、菊が思い出したように、にやりと笑う。

「品位が聞いて泣くぜ、誰だったかなぁ。去年の夏に、酔っぱらって水堀に飛び込んだのは」
「わたしだ」

 即答する深山。
 相も変わらず、整った顔を崩さない青年隊士に、やりとりを見守っていたヌーと宮守が額を抑えた。
 イチヤが「そこは隠ぺいしないのかよ」と思わず呟く。
 ただ一人、空を仰ぎ笑ったのは、聞いた本人の菊だった。

「ありゃ、傑作だったなぁ!! お前ぇを捕まえようと、次々とヤモリ共が水堀に飛び込んでよ!」
「傑作とは言葉が足りませんね」

 深山が鼻で笑い、優雅な仕草で手をひらりと払った。

「秀逸と優秀もそこに加えなさい。誰も私を捕まえられなかったのですからね」

「逃げ泳ぐカエルみてぇに、早えのなんのって」

「私は水に愛されていますので。君達も、たとえ酔が回ろうとも、全力を出せる技量を持ち合わせると良い」

 深山が得意気に言った。
 キイトは、再び逸らされた菊の顎の傷を見上げた。気持ちの良い大きな笑い声が響く。

 キイトは、二人は仲直りしたのだと判断し、両手にかけていた糸を、糸輪へと戻した。
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