イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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血1

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○○○○○

 毎晩訪れる、淡いの夜。小石丸にとって、それは日々耐えがたいものへと変わっていく。

 夜が深くなり、人が眠りに落ちた頃、彼はバルコニーから茂みを見下ろしていた。

 月明りが届かない青い影の先、黒い闇。
 楽園の気配が、密やかに庭へと流れ込んでいる。それに釣られ下の寝室から、小さな影が庭へと出てきた。
 キイトだ。
 庭が喜びだす。
 イトムシを招こうと影たちが躍り、木々は風に歌いだした。

 キイトは毎晩、茂みの奥に出現する楽園へと向かい、そこで夜を過ごしていた。
 今夜も茂みの入口へと靴を隠し、楽園へと消えて行く。

 小石丸は殺していた息を吐いた。自分が二度と行けない場所へと、キイトは行く。どす黒い憎悪と湿った嫉妬が、小石丸の目へと宿った。
 小石丸はバルコニーから飛び降り、茂みへと近づくと、靴を探り出し黒刀の破片を中へと放り込んだ。

 夜が巡っていく。

 空がほんのりと明るくなりはじめた頃、キイトが出てきた。
 黒髪を枝が別れを惜しみ、摘まむ。楽園の気配が淡いへと流れ込み、星屑に似た楽園の花粉が、きらきらと薄らむ夜へと舞い散った。
 キイトは靴を出し、裸足を差し入れた。

「痛っ」

 靴を脱ぎ、痛みの原因を調べると、黒刀の破片を見つけた。
 ぽたり。
 上げたままの片足から、静かに血が流れる。
 キイトは傷の具合を確かめた後、軽く靴をつっかけ裏口へと回った。
 
 バルコニーから眺めていた小石丸が、下へと降りた。

 青い芝の上には、キイトの血が光っていた。
 懐から、手に乗るほどの黒い石を取り出す。石の中には、小石丸が二度と触れることが出来ぬはずの、楽園の水が囚われている。ヒノデに深手を負わせた追放者が、欲しがった代物だ。
 あの送りの際に、人知れず石を入れ替え、保管していたのだ。
 その石に何事か唱え砕き、血の上へと楽園の水を下垂らせた。イトムシの血と、楽園の濃い御加水が交じり、夜霧の香りが漂った。
 それに引き寄せられ、朝日に薄らんでいた楽園の気配が、濃くなる。
 茂みの中に、楽園と淡いの境を彷徨う、白い影たちが浮かびだした。

 ギィィ

 が響き、小石丸は本糸を構えた。
 早朝の庭に夜の楽園が開く。白い影が囁いた。

『なぜです?』
『なぜ私を殺すの?』
『なぜなんだ?』
『なぜ、皆を殺した?』
『あぁ。なぜ貴方が、イトムシの貴方がイトムシを殺すの?』

 小石丸は糸を構えたまま、目を細めた。

「まだわからんか。終わらせるためだ、友よ」

 がさり、ばきり。
 木々が折れる。

 楽園から、黒い生き物がやって来た。
 夜は明けてしまったと言うのに。
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