ひまわり~この夏、君がくれたもの~

水樹ゆう

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第一章 春の真ん中、運命の再会

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 あれは、そう。高校の入学式だった。

 抜けるような、青空の下。ハラハラと、薄桃色の花弁が雪のように降りしきる満開の桜並木の中で、俺は、ポツリと佇む一人の女生徒を見かけた。

 一目見たら、たぶん絶対忘れないだろう、これ以上ないってくらいの、印象深いそんな『美少女』。

 まだ、幼さを残している小柄で華奢な体。

 制服から見え隠れする素肌は、どこもかしこも抜けるように白くて滑らかで。

 春の優しい風に吹かれてサラサラと舞っている、色素の薄いストレートの長い髪も。

 長いマツゲに縁取られた、ライト・ブラウンの大きな瞳も。

 丸みを帯びた頬のラインも。

 可憐な、ピンクの唇も、何もかも。

 本当に綺麗で、まるで『天使みたい』だと、そう思った――。

「ねえ、どうしたの?」

 困っている人がいたら放っておけないおせっかいな性格の亜弓も、心細げに一人でいる彼女に気付いたのだろう。とことこと歩み寄った後、その子に声をかけた。

「え? あ、あの……」

 そう言って、彼女は恥ずかしそうに、白い頬をポッと上気させた。

――うわっ。

 色が白いと、ほっぺってピンク色に染まるんだ。

 なんだか、ものすごく可愛いいぞ。

 それに、澄んだハイトーンの声も、まるでアニメの主人公みたいで可愛い。

 本当に、こんな子って居るんだなぁ。

 高校入学時には、身長168センチ。ひょろひょろと、背ばかり伸びるのがコンプレックスだという従姉の亜弓を見慣れているから、小柄な彼女がかなり新鮮に見える。

 しっかし、ホント、お人形さんみたいだ。

 思わず、彼女の美少女具合に感動していると、彼女がすっと右手を上げた。こちらを指さしている。

 思わず、ドキリと鼓動が高鳴った。

「あの人の名前、分かりますか?」

「え? どの人?」

 風向きの関係か、少し離れているのに、二人の会話がよく聞こえる。

 彼女の白い指先が指し示す方に視線を巡らせた亜弓は、そこに俺と伊藤がいることに驚いた顔をしていた。俺も驚いて、伊藤と顔を見合わせた。

「えっと、どっちの人? にやけた顔をしている垂れ目のツンツン頭は、佐々木浩二って私の従弟なの」

――おい、亜弓! その紹介の仕方はないんじゃないか?

「色黒の大きい方が、伊藤貴史いとう たかしくんだけど……」

 いや。その紹介のしかたもどうかと。ほらみろ、伊藤が顔をひきつらせてるじゃないか。

「伊藤くん……、伊藤貴史くん」

 彼女は、その名前を確かめるように呟いた。

 ピンクの唇が、伊藤の名を呼ぶ。

 なぜか、ドキンと鼓動が大きく跳ねるのを感じた。

「おーい、亜弓、何してるんだぁ? もう、入学式始まるってよ!」

 俺は、思わず大きく手を振りながら大声で亜弓を呼んだ。

「今行くよー!」

 亜弓も大きく手を振り、そして彼女に向き直った。

「あ、私は、佐々木亜弓。よろしくね!」

 右手を差し出すと、彼女は一瞬驚いたように目を見開き、再びその頬をピンクに染める。そして、零れるような笑みを浮かべた。その笑顔に、俺の心臓は、ものの見事に撃ち抜かれてしまった。

 よく『恋に落ちる』というが、たぶんこの時、俺は恋に落ちたのだと思う。若干遅咲きだが、幼く淡い初恋という名のひとめぼれの恋に。

「わたし、三池陽花みいけ はるかです」

『ペコリん』

 そんな表現が似合うような可愛いらしいお辞儀をして、彼女は小さな白い手を差し出し亜弓の手に添えた。

 ギュッと握られたその手は、とても小さくて柔らかかった――と、後で亜弓が教えてくれた。

 こうして亜弓と陽花は友達になり、俺は陽花の友だちの従弟というポジションを得た。


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