黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

文字の大きさ
19 / 132
第二章 記 憶 《Memory-1》

19 ごめん。今は何もしてやれない

しおりを挟む

「それでも、やっぱり優花なんです。イレギュラーでもなんでも、間違いなく優花なんです!」
「御堂君……」
「博士。もしも今、ここに瀕死の状態で横たわっているのが博士の奥さんでも、美咲さんでも、それでもやっぱり見殺しにしますか? できますか!?」

 今まで必死で抑えていた感情のタガが弾けてしまったような激しい言葉に、博士は長い溜息を吐き出した。

「痛いところを突くね、君は」
「……」
「そうだね。私が君でもやはり、今の君と同じことをするだろうと思うよ。分かった、薬を投与しよう」

 ハッと息を飲むような気配の後、聞こえてきた「ありがとうございます!」という晃一郎の声がすうっと、遠のいていく。

 次に意識が浮上したのは、全身に走った激しい痛みのためだった。

「うっ……あぅっ!」

 我知らず、苦痛の呻きが口をついて出る。痛い、なんて生易しい言葉じゃ追いつかない。こんな、全身を突き抜けるような激痛を、優花は知らない。

 特に右半身。右側頭部、右肩、右腕、右足に、まるで鋭い刃物で切り付けられているような、激しい痛みが走った。瞼の向こうに光を感じても、開けることができない瞳から、とめどなく涙が溢れて頬を伝い落ちる。

 ドクン、ドクンと、心臓が脈打つごとに増していく激痛から逃れようと体をよじるけれど、拘束されているのか、ピクリとも動けず、全身を走り抜ける痛みにただ身もだえするしかできない。

「うぁっ、ううっ!」
「博士、何とかならないんですか!?」

 ほとんど叫び声に近い、晃一郎の切迫した声が響く。

「今、鎮痛作用のある薬は使えない。脳が痛みを認識することが、この薬が働き始めるスイッチになるんだ。薬自体に痛みの元を探知させて、傷ついた個々の細胞を再生するためには、どうしても必要なことなんだ」

「薬が使えないなら、せめて俺の力で痛みを散らして――」

「それでは意味がないんだよ」

 尚も食い下がる晃一郎を諭すように、穏やかな声が説明を続ける。

「皮肉なことだが、薬が効き始めて痛みが和らいだ段階でしか鎮痛剤は投与できない。この薬を使うならば、避けられないプロセスなんだ。辛いだろうがもう少し、もう少しだけこらえてくれ、御堂君」

「……くそっ。こんな時に使えない力なんて!」

 吐き捨てるように言い放った後、そっと、額に添えられた手の温もりと共に、晃一郎の心の声が、ダイレクトに頭に響いてきた。

『ごめん。今は何もしてやれない……頑張れ、優花。頑張ってくれっ』

 それと同時に、痛みがすうっと遠のいて、激痛は我慢できる範囲のものに落ち着いていく。

――ああ。私、助かるんだ――。

 心のどこかで漠然と、自分はたぶん死ぬのだろうと思っていた優花は、この時初めて安堵の涙を流した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾書籍発売中
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

処理中です...