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第二章 記 憶 《Memory-1》
24 命の恩人
しおりを挟む「丸わかりで悪かったわね。いいかげん、とっととベッドに戻してよっ」
「イヤだー」
「イヤだー、じゃないっ!」
語尾を伸ばすな、語尾を!
と、見た目は熱い抱擁を交わす恋人どうし、実際は只今絶賛決闘中な二人のあくなき戦いに終止符を打ってくれたのは、突然上がったノック音だった。
スライドドアの向こうからペタペタとサンダル履きで現れたのは、痩せぎすのメガネをかけた白衣姿の男性。
その人がニコニコ邪気のないエンジェル・スマイルで歩み寄ってくるのを呆然と見つめながら、まるでイタズラを見つかった子供みたいに、晃一郎と優花は同時にピキリと身を強張らせた。
年のころは、おそらく四十代そこそこ。
「ずいぶん楽しそうだね。お邪魔してすまないが、診察をさせてもらえるかな?」
穏やかなその声は、夢うつつの中で聞いた命の恩人、『鈴木博士』のものだった。
声だけを聞いていた時、きっと優しい人なんだろうと思っていた鈴木博士は、想像通りの人だった。
鈴木始。三十八歳。勤務医ではなく、研究をするのが仕事の、医学博士だそう。それで晃一郎が、『先生』ではなく『博士』と呼んでいたのだ。
ちなみに、優花が今いる場所も、病院ではなく研究施設なのだとか。
鈴木博士は、ひょろりと背が高くて、細身のキリンを思わせる穏やかな風貌の持ち主で、理知的で落ち着いた大人の雰囲気と、少年めいたメガネの奥の黒い瞳が印象的な、とても素敵な人だった。どこかの、本能丸出しの狼くんとは、雲泥の差だ。
その狼くんも、キリン博士には頭が上がらないらしい。
「じゃ御堂君、優花ちゃんを、ベッドに寝かせてあげてくれるかな」
ニッコリ笑顔で博士に指示されても文句を言うでもなく、素直に「はい」と真面目くさった顔で答えると、晃一郎は優花をベッドに横たえた。
「……やはり、四肢の運動能力の回復には、リハビリに時間がかかりそうかな?」
手足にうまく力が入らないのを見て取ったのか、博士が思案気にそう言うと、なぜか晃一郎が、「はい、特に右手足が弱いですね」と、又も真面目くさった表情で答える。
――右手足が弱い?
どうして晃ちゃんが、そんなことを知っているの?
浮かんできたのは、さっきのセクハラ行動。
もしかして、あれで気付いたのだろうかと考えたが、優花自身は、ただ手がうまく上がらないだけしか感じなかった。
チラリと、博士の傍らに立つ晃一郎へと首を動かして視線を走らせると、やはり至極真面目な表情を浮かべている。さっきまでのセクハラ大魔王と、今の晃一郎の、あまりのギャップの大きさに戸惑っていると、博士から声がかった。
「優花ちゃん、三十秒ほどですむから、体を楽にしてそのままでいて下さい」
「は、はい!」
視線を戻して、横たわったまま少し緊張気味で頷くと、博士はベッドヘッドに備え付けられた小型のキーボード状の端末を、軽やかに操作した。
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