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第二章 記 憶 《Memory-1》
25 ESPER
しおりを挟む『診察』と言いっても、聴診器を胸に当てたりする訳ではなく、ベッド自体に診察機器が組み込まれているらしく、優花は、ただ横になっているだけで済んでしまった。
これで診察ができてしまうというのは、自分が居た世界よりもかなり医療技術が進んでいる証拠で、おそらく、そのおかげで命拾いをしたのだろうと、優花は思った。
あっと言う間の診察の後。
「うん。体じたいは、ほぼ完治しているね」
との、鈴木博士のお墨付きを貰うことができた。
ただ、三週間の間寝たきりだったため体力と筋力が落ちていて、しばらく休養とリハビリが必要だとも言われた。
――三週間も眠っていたなんて、全然、実感がわかないや。
「それで、手が思うように動かなかったんだ……」
思わず、へなへなと肩の力が抜けてしまう。もしもこのまま、体が元に戻らなかったらどうしようかと思った。
「まあ、せいぜい地道にリハビリを頑張るんだな、優花」
――って、偉そうにあんたが言うな、ヒヨコ頭!
と晃一郎を睨みつけていたら、博士がやっぱり邪気の欠片もない微笑みをたたえて、凶悪この上ないことを言い放った。
「そうだね。リハビリに関しては、御堂君がついているから大丈夫だろう。彼はこう見えても、腕の良いドクターだからね」
「は……い?」
――誰が、なんですって?
ニコニコと穏やかな笑顔で言葉を続ける博士は、けっして冗談を言っているふうではない。
「ああ、まだ君は知らなかったんだね。御堂君には私の研究の助手をして貰っているんだが、彼は、優秀な研究者でもあり、第一線で活躍する新進気鋭の医師でもあるんだよ」
「は……?」
「特にリハビリ関係には強いから、安心して任せると良いよ」
「はい!?」
――な、なんで中学生が、研究助手でお医者様っ!?
瀕死の錦鯉のように、口をあんぐりと開けたまま固まっている優花に、優しい博士が説明してくれた。
基本的に同じような世界のパラレルワールドでも、まったく同じわけではなく、少しずつ違いがあり、この世界は優花の居た世界よりも医療技術とESPの開発が進んだ世界のようだ。
ESPと言うのは、超能力のことで、ESPを使う人をESPERと呼ぶ。
『少しずつ違う』部分には、人の年齢も含まれていて、なんとこの世界の晃一郎は今十八歳だという。
――道理で、若干、視線の位置が上だと思った。
ここの世界では十歳で、優花の居た世界の大学程度までの義務教育が終わり、その後、本人の希望及び適性に合わせて職業に就くのだそうだ。
晃一郎は、十二歳で医師免許を取得後、免許取得の際に書いた論文が認められ、是非にと乞われてこの国営の研究所にやってきた有望株。
おまけに、この世界で五人しかいない貴重なESP特Aというランクの能力者なので、『SA特別国家公務員』と言うかなり凄い肩書を持っているのだとか。
つまり、国きってのエスパーで若手のホープ、期待の星!
それが、ここの御堂晃一郎。
――じ、冗談でしょ?
なんなの、このスーパーマンぶりはっ!?――
もう、呆然とするしかない。
「ああ、俺の事は、御堂先生って呼んでくれていいから、如月優花さん」
ニンマリと、悪魔がほくそ笑んでいる。
これを悪夢と言わず、何と言うのか。
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