黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第三章 異 変 《Accident》

41 優しさはある種の凶器

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――私、誰かに恨まれているの?

 自分でも気付かないうちに、誰かに、恨まれるような酷いこと、しちゃったの……かな?

「どうして……?」

 呟くように発した声が、喉の奥に絡んでうまく出てこない。

 分からない。
 十七年間生きてきて、こんな経験は初めてで、優花はどうして良いのか分からなかった。

 ただ、誰かをこんな凶行に走らせた原因が自分にあるのなら、その人に申し訳ないと思うのだ。

 ぐるぐると、ネガティブ思考全開でそんな事を考えていたら、晃一郎に「ばーか!」と軽い罵倒付きで、頭をこつんと小突かれた。

「晃ちゃん、イタイ……」

――確かにお馬鹿かもしれないけど、なにも今、こんな時に言うことないじゃないのよ。

 少し悲しくなってきたところに、意外なほど柔らかなトーンの声が降ってきた。

「変なふうに考えるなよ。理由がなんにしろ、悪いのは『犯人』であって、優花、お前じゃない」
「そうそう、たまにはイイこというじゃないの、御堂のわりに」

 玲子が、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。リュウも、気持ちは同じらしく、うんうん頷いている。

「たまには、は、よけいだ」

――ううっ。
 晃ちゃんが、優しい。

 玲子ちゃんもリュウ君も優しい。

 気持ちが弱っているときの優しさは、ある種の、凶器だ。何だか緩んでいた目頭が決壊しそうになった優花は、スン、と鼻をすすった。

 留学生のリュウを交えた案内役二人を含む生徒四人が、揃って仲良く授業に出てこないのでは、担当教師は内心ドキドキものだろう。

 授業がある手前自分では探しに来ないだろうが、週番あたりに様子を見に来させるくらいはするはずだ。

「ここで、こうしてても仕方ないし、犯人探しは保留ということで。とりあえず音楽室に行こうか? 捜索隊が出ないうちにさ」

 苦笑交じりの玲子の提案に、皆めいめいに階段を降り始める。

 先に優花とリュウ。その後に、晃一郎と玲子が並んで続く。もう既に遅刻してしまっているので今更急ぐ必要もないから、歩調は緩やかだ。

――ああ、やっちゃったなぁ……。

 優花は小柄な体をさらに縮こまらせせて、脳内反省モードに突入していた。晃一郎と玲子ばかりかリュウにまで迷惑をかけてしまうなんて、案内役失格もいいところだ。

「ごめんね、みんな。リュウくんも、初めての音楽の授業なのに、私のせいで遅れちゃってごめんね……」

「気にしないで下さい。ゆーかのせいではありませんよ。それに、ゆーかが居てくれるおかげで、ボクは授業を受けるのが、とても楽しいんですから」

 傷心の友人に対して、だいぶリップサービスがプラスされてはいるのだろうが、ニッコリと、優花に向けられるリュウの笑顔に嘘は見えない。


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