黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第三章 異 変 《Accident》

45 鏡に映るもの

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『アメリカ経済を支える、タキモトグループの次期後継、日本で花嫁候補を選定――首相を交えての始終和やかな会見――素晴らしい才能と将来性に期待――』

「あ、この人、首相なんだ。どうりで見覚えが」
「優ーー花、現実逃避は解決にならないよ?」
「ひーーん」

――そんなこと言ったって。現実に思えって方が、無理だと思う。

「ってことで、御堂に勝ち目は無いね。優花、玉の輿、おめでとう!」

「玲子ちゃーーーーん」

 面白がってる。
 絶対、全身全霊で、面白がってるーーーっ!

「あ、もう、こんな時間だー、授業に遅れるよ、優花!」

 二ヒヒと、人の悪い笑みを残して、玲子が廊下に姿を消す。ガックリうなだれたまま、優花は、その後を追おうと鏡の前から一歩、二歩、足を進める。

 その時、甘い花の香りがほのかに漂い、優花の視界の端っこに、何かが引っかかった。網膜に刻まれたのは、鏡に映った、酷くその場にそぐわない白い色彩。

「――ん?」

――何だろう?

 ほんの軽い気持ちで、一歩、二歩。反射的に身体を元の場所に戻し、鏡に向けた視線がピキリと固まった。

――えっ……。ええっ!?

 何の変哲もない、トイレの鏡。
 もちろん、映っているのは、覗き込んでいる自分の顔だ。

 驚愕に見開かれた瞳の中に、自分の顔が映りこんでいる。

「ナニ……コレ?」

 髪が、はっきり目に見えて、変だった。

 まず、色が普通に考えてありえない、白。それも、目にも眩しい純白だ。

 さらに、長さもおかしい。
 肩甲骨の中ほどしかないはずのセミロングの髪が、どう見ても腰の辺りまで伸びている。

――私の目が、おかしい……の?

 もしかして。さっき、階段から落ちたときに頭でもぶつけたのだろうか?

 パチパチパチと、意識して強めに目を瞬かせながら、のろのろと震える両手を挙げて、耳の辺りから髪の毛を伸ばすように手のひらを下に滑らせる。

 いつもと変わらぬ少し硬めの自分の髪の感触は、やはりいつもと変わらぬ胸のあたりで、すうっと消えた。

 なのに、鏡の中の自分の手には、まだ白い髪の毛が絡んでいた。

 掴んだ感触の無いまま、フリフリと手を振ってみれば、確かに鏡の中で純白の髪がフサフサと揺れている。

 ごくり。

 我知らず、喉が上下する。

――こ、これって、もしかして、心霊現象……?

 最悪の結論に達しようとしたその時。

「おい、優花」
「ぎゃーーーーっ!」

 聞き覚えのある低音ボイスに名を呼ばれ、優花は絶叫を上げて飛び上がった。

「用は、すんだんだろう? 聞きたいことがあるから、鏡で遊んでないでちょっと来い」

「って、え、ええ? ここ女子トイレっ」

 文句を言う隙もあらばこそ。

 いきなり女子の聖域に乱入してきた晃一郎に、むんずと手首を掴まれた優花の頭からは、今しがた自分を見舞った怪異現象に対する恐怖心は、一気にすっ飛んでしまった。

「こ、晃ちゃん?」

 そのままズンズンと人気の無い廊下の突き当りへと連行された優花は、やっと足を止めた晃一郎の顔を驚きの眼で仰ぎ見た。

「な、なに、晃ちゃん、どうしたの?」

 晃一郎の表情は真剣そのもので、優花はわけもわからず鼓動が早まってしまう。『女子トイレに乱入してまで急いで聞きたいほど重要なこと』など、想像もつかない。

「お前、思い出したのか?」
「へ……?」

 いきなり浴びせかけられた端的な質問に、優花は間の抜けた声を上げる。端的過ぎて分からないのだ。

「何を?」

 本気で首を傾げる優花の表情をじっと見つめていた晃一郎は、はぁーっと一つ大きなため息をついた。

「いや、いい。……って良くはないか。変な波動が飛んできたからてっきり……」
「え?」

――ヘンナハドウ?

 聞き拾った、晃一郎の呟きの意味が分からず、優花はきょとんと目を瞬かせる。


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