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第四章 記 憶 《Memory-2》
53 懐かしい味
しおりを挟む晃一郎が、同世代の『女の子』の部屋に入ったのは、これで二人目だ。
一人目は、今は亡き恋人、もう一人の優花。彼女の部屋は、どちらかというと、淡いトーンの女性らしい柔らかな空間だった。目の前に広がる、カラフル・ビビットな、可愛らしい空間に視線を巡らせながら、晃一郎はまぶしげに目を眇めた。
イレギュラー体と本体。
姿形も、DNAさえ同じ二人だが、三歳という年齢の差ばかりではなく、やはり別の人間なのだと実感させられる。
――あたりまえだ。
あいつは、あいつ。この子は、この子。
同じ人間のわけがないじゃないか――。
ふとした瞬間に垣間見せる、表情や仕草。それが、どんなに似ていようとも、二人はまったくの別人格。いうなれば、『生き別れの一卵性の姉妹』。それが一番、納得のいく説明かもしれない。
大人二人が並んで座るのがやっとの大きさの、キッチンカウンター・テーブルの上には、所狭しと朝食のメニューが並べられた。
ホカホカと湯気を上げる炊き立てのご飯はつやつやと粒が立っていて、豆腐とワカメの味噌汁も、香ばしいにおいを上げている。
焼き鮭も、程よい焼き加減で、だし巻き卵も、色よく形よく、ふんわりと柔らかそうに仕上がっていた。
主役の肉じゃがときたら、味がじっくりと染み渡り、醤油と砂糖が織り成す絶妙のコンビネーションの賜物な、実に食欲中枢を刺激する、あの独特の甘じょっぱい良いにおいが漂ってくる。
『日本人でよかった』
和食党の晃一郎はしみじみと感じ入りながら、「いただきます」と両手を合わせた。
まずは、味噌汁をゴクリと一口、口に含む。
濃すぎず、薄すぎず、熱すぎず、冷めすぎず。程よい出汁かげんの味噌汁は、薬味のネギが良い感じに味を引き締めていて、なかなかに美味い。
さて、次は――。
晃一郎は、そそくさと、肉じゃがの盛られた皿に箸を伸ばした。
目標はやはり、ごろっと大きなジャガイモだ。ぽくぽくと粉が吹き、見るからにとろけそうなその一品を、箸で突き刺しすかさず口に運ぶ。
トロリ、ポクポク。ポクポクポクッ。
――うわ、なんだこれ?
こ、これは、やばいかも……。
優花の手作りの肉じゃがは、予想外に美味すぎた。
十五歳。
晃一郎の感覚から言えば、十歳程度の精神年齢に感じる優花が作る煮物の味の程度など、たかが知れている。心のどこかで、そうあなどっていた。だがこれは――、この味は、かなりやばかった。
「……」
いつもなら考えずとも、優花の顔を見ていると、からかう言葉がポンポンと口から飛び出してくるのに、今ばかりは何もわいてこない。
久しく食べていない肉じゃがは、懐かしい、田舎の『お袋の味』がした。
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