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第四章 記 憶 《Memory-2》
66 苦しい言いわけ
しおりを挟むESPのイメージ伝達訓練中に、ちょっとした悪戯心で、以前テレビで見た催眠術師の真似事をしてみたのだと。
『あなたは、眠ーくなーる、眠くなーる』という、たぶん誰も一度は目にしたことがあるはずの、おなじみのヤツだ。
アレを心の中でイメージしてみたら、さあ大変。驚く程うまい具合にかかってしまい、哀れ善意のドクター・御堂は、前後不覚の爆睡モードに突入。ばったりと、優花の上に倒れ込んでしまった。
「――で、どうにか自力で脱出しようとしたんだけど、重くて苦しくて思わず涙がどばばーっと。いやぁ、まいったまいったよーー」
あははは。
と、照れたポーズを作って頭をかく優花の、笑顔は引きつる。
『自分のことは誰にも言わないで欲しい』
『彼女』の願いを守るためだとは言え、さすがに自分でも苦しい言い訳だと思う。
チラリと玲子と意味ありげに目配せしあった後、思案気な眼差を優花に向けてきた晃一郎は、独り言のような呟きを落とした。
「本格的な覚醒期に入ったのか? にしては、髪色の変化は見られないが――」
優花の苦しい言い訳に怒るでもなく呆れるでもなく、あくまで冷静に向けられるその眼差しは、リハビリ指導をするときと同じに医者の顔をしている。
「優花、お前、何か体調の変化はないか?」
「え……? 別に、ない……と、思うけど?」
どうして自分の体調についての話になるのか分からない優花は、一抹の不安を覚えた。
――もしかして私、なんか、まずいこと言っちゃったのかな?
普段、嘘をつきなれない優花は内心ドキドキものだ。深く突っ込まれたら、その嘘を突き通す自信なんかない。
そもそも晃一郎は特Aランクの超能力者で、玲子にしてもFランクとはいえ立派なテレパシスト。
今は、二人の方が自分の力を使って優花の思考を読まないようにしてくれているが、その気になれば、自分で思考のブロックができない優花の考えていることなど、簡単に読めてしまうのだ。
――うわー、うわー、どうしよう。
な、何か、別の話題ふらなくちゃ。
焦れば焦るほど、鼓動は早まり頬は上気する。
「え~~と、超能力の覚醒期って、どういう意味なの?」
忙しなく考えを巡らせた末、優花が選んだのは、先刻晃一郎がもらした呟きのフレーズだった。髪色がどうのとか言っていたが、少しばかり、興味を惹かれたのも事実だ。
「あ、それなら、アタシが説明してあげるよ」
ゴホンと一つ咳払いをした後、玲子が説明してくれた話を要約すると、こういうものだった。
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