黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第五章 記 憶 《Memory-3》

89 胸が痛む理由

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 その日の夜、八時ジャスト。
 電話での言葉通り、リュウは玲子を伴って海辺のコテージに訪れた。

 差し入れの大量の食料品や衣料品、その他の生活必需品をざっと片付けて、優花と晃一郎、リュウと玲子の四人とポチで賑やかな夕食タイムとなった。

 リビングスペースにある応接セットで、買い出して来たパーティー用の握り寿司をつまみながら、「やー、おめでとう優花。これであなたも、一人前のエスパー。お赤飯を炊いてお祝いしなくっちゃね!」と、優花の対面に腰を落ち着けた玲子は、優花の髪色の変化を、おどけながらも手放しで喜んだ。

「その髪、とても綺麗ですよ、優花ちゃん」

 玲子の隣で、成人の特権とばかりに一人、ワイングラスを傾けていたリュウも、ニコニコと笑みを深めている。

 だが優花本人は、かなり複雑だった。

 はっきり言って優花は生粋の日本人顔だ。つまり、金だの銀だのという明るい髪色は、絶望的に似合わない。コスプレかと自分で突っ込みたくなるほど、カツラを被っているみたいな違和感がどうしても付きまとってしまう。

「本当に、変じゃないかな?」

 おそるおそる隣に座る晃一郎に尋ねてみれば、なぜか優花の膝の上が特等席とばかりに鎮座している『ポチ』に、話を振った。

「別に、変じゃないだろう?」

『うん。へんじゃない。とっても、すてきー。ゆーかは、どんなかみのけでも、すてきなのー』

 ハイトーンの、可愛らしい声が、間髪入れずに返ってくる。

 その姿はケルベロスのときとは打って変わった、丸いフォルムの、白い綿毛のような愛らしい小型犬のものだ。

 声を掛けると、はちきれんばかりに振られる、小ぶりの尻尾。
 柔らかな体毛と、少し高めの体温。
 そして、この舌ったらずの、可愛らしいハイトーンの声。

『ケルベロス』のときは、普通に大人と話している感じだが、『ポチ』のときは、どうも精神年齢が、四、五歳くらいに退行するみたいだ。ただどちらの姿になっていても、優花に対する全幅の信頼、それは揺らぎない。

 こうも全身全霊で大好きオーラを出されると、もうダメだった。もともとの動物好きもあいまって、優花はもうすっかりこの風変わりのワンちゃんに、めろめろだ。

「でも、ポチが帰ってきたとなると、いよいよ、優花も元の世界に戻れるね」
「え?」

 少しさびしげに言う玲子に問われ、優花は、初めて今の状況を飲み込めた。

――そうか。

 もう一人の優花が言っていた、『ESP増幅能力を持った、とても可愛らしい、そしてかなり強力な助っ人』それが、ポチだったんだと納得がいく。

 優花の、空間移動テレポート能力。そして、時空を自在に飛べると言う『ケルベロス』ポチの、ESP増幅能力。

 後は、この二つを持って優花が現れた『場所』に行くだけでいい。

 それで、元の世界に帰れる。
 それは、心から待ち望んでいたこと。

 事故後の、両親の安否も気がかりで仕方がない。帰りたいと、何度、枕を涙でぬらしたことか。

 嬉しい。
 とっても、嬉しい。だけど――

 心の奥が、ギュッと締め付けられるように、痛むのはどうしてだろう?


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