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第七章 記 憶 《Memory-5》

110 約束

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 優花がたった一人で敵と静かなる戦いを繰り広げていたそのころ。研究所では、晃一郎とリュウが優花救出の対策を練っていた。

「誘拐犯は、あのグリードですか……」
「はっきりと名乗ったわけじゃないが、あの反応を見る限り間違いないだろうな」

 この世界の優花を死に追いやったテロを起こしたと見られる、大規模な犯罪組織。相手としては強力でやっかいだ。

「やはり、鈴木博士に打ち明けて、博士経由で政府に助力を申し出た方が賢明でしょう。相手の目的が、政府所属のエスパーの情報にあるのならなおさらです」

 リュウの意見はもっともだ。誘拐されたのが優花でなかったら、晃一郎も迷うことなく政府に報告して助力を乞うだろう。いくら晃一郎の力がナンバーワンと称されるほど強力でも、所詮個の力に過ぎない。できることには限度があるのだ。

それでも。

「だめだ。それでは、優花を元の世界に戻せなくなる」

 晃一郎は、リュウの提案をきっぱりと否定する。

 こうと決めたら絶対信念を曲げない友人の気性を熟知しているリュウは、しばしの沈黙の後、ため息をついて頷いた。

「分かりました。ただし、万が一に備えてバックアップは万全に行います。監視モニターをつけて行ってください。万が一危ないと判断したら、その時点で迷わず政府へ緊急で救援要請をだします。いいですね」

 真顔で言うリュウに、晃一郎はニヤリと笑みを向ける。

「そんなことにはならねぇよ。俺を誰だと思ってるんだ?」
「天下の、特AランクエスパーのSA特別国家公務員様ですね」

 そして、政府お抱えエスパーの実力ナンバーワン。コードネーム、グリフォン。晃一郎に救出ができないなら、他の誰が行っても不可能だろう。

「その通り。大船に乗ったつもりでまかせとけ」

 ――一年前のようなあんな後悔は二度としない。持てる力の全てを賭けて、必ず救い出して見せる。

 たとえ、この命に代えたとしても――。

 自信満々の笑顔の裏側で、晃一郎は悲壮ともいえる決意を固めていた。

 その様子を痛ましげに見つめていたリュウは、静かに口を開く。

「君が何を考えているのかは、分かるつもりです。ですが、これだけは約束してください」
「なんだよ、らしくもない怖い顔をして」
「絶対、死に急がないこと」
「……」

 内心を見透かされて、晃一郎は鼻白んだ。

「君が死んでしまっては、何にもなりませんよ? 残された者の気持ちは、君がいちばん良く分かっていますよね?」

 自分の命を賭ける覚悟はしているが、死んでやるつもりは毛頭ない。

 誰が欠けてもダメなことくらい分かっている。戻ってくるのなら、皆一緒だ。

「約束する。俺は死なねぇよ。優花と村瀬を救い出して、ぴんぴんして戻ってくるさ」

 暴走気味の困った弟を見守る兄のようなまなざしを向けて、リュウは静かに頷いた。


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