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第十話 【本心】もしも世界が滅ぶなら。
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しおりを挟むスッと一瞬だけ周りの視線が集まり、思わず『アハハハ』と愛想笑いを振りまく。
「ど、どういう意味ですか?」
動揺しまくりの私は、礼子さんの方に身を乗り出して、声をワントーン落とした。
「だって、亜弓って、本命の男他にいるでしょう?」
『本命の男が他にいる』
その言葉に、ドキン――と、鼓動が大きく跳ね上がる。
『ん?』と、伺うような瞳で顔を覗き込まれて、私はどういう表情をして良いのか分からず、引きつった笑顔のまま能面のように固まった。
な、なんで、礼子さんが伊藤君のことを知ってるの?
ってか、知ってるワケがない。
だって。私は、この気持ちを、誰にも話したことがない。
唯一例外は、浩二のバカだけだ。
「……どうして、そう思うんですか?」
まさか、浩二と礼子さんに接点があるとも思えなかった。
「う~ん。根拠は別にないんだけれど、まあ、女の勘ってやつね。強いて言うなら、亜弓は篠原さんに好意はあるけど、恋愛感情はないように見える。だけど、恋する者の目をしている。で、そこから導き出される答えは、本命は他にいる。ってところかな」
ズバリと。
あまりにズバリと、核心部分を的確に言い当てられて、私はただ驚きの眼差しを礼子さんに向けた。
『そんなことないです。本命は、直也だけです!』
そう言いたいのに、言葉が出てこない。
この状況で巧く嘘が付けるほど、私は器用な人間じゃなかった。
「あ、ごめん、ちょっと言い過ぎたわ。今のは失言。私の独り言だから、気にしないでね」
驚きすぎて、言葉もなく金縛り状態に陥った私に、礼子さんがフォローを入れてくれる。
「私って、……そんなに分かりやすいですか?」
自分でも、よく分からない直也に対するこの思い。
確かに。伊藤君を思うような胸の高鳴りや、苦しいくらいの切なさを感じることはないけど。
伊藤君は、伊藤君。直也は、直也。
関わり方も、関わってきた年月も違うし、比べられるようなことじゃないって、そう思ってきた。
それが、他人の礼子さんには私の直也に対する思いが『恋愛感情』じゃなく、ただの『好意』に見える――。
その事実に、わたしは少なからずショックをうけていた。
ううん。
ハッキリ言って、大ショックだ。
ただでさえ、浩二に、心の中に秘めていたものを強引に引き出されてかなり落ち込んでいたのに、礼子さんまで同じような事をいう。
よほど自分は分かりやすい人間なんだろうかと、そう思ってしまう。
「あのね、亜弓」
そこでいったん言葉を切って、礼子さんはちょっと自嘲気味な笑いを浮かべる。
いつも、艶やかに笑う礼子さんらしからぬその笑いに内包されるものを感じて、私は言葉もなく彼女をみつめた。
「犬や猫だって、三日世話をすれば、情がわくのよ」
えっ?
犬や猫って……。
なぜ、ペットの話し?
話の脈絡が掴めなくて、私は眉を寄せる。
トントントン、と礼子さんは、綺麗に整えられたローズブラウンの爪の先で、リズムを取るようにテーブルの天板を叩いた後、とんでもないことをサラリと言った。
「男もね、同じよ」
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