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第十二話 【沈黙】愛は盲目。

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 何がどうして、こういう事態になったのか。

 一世一代の私の決断に捨てゼリフを吐くでもなく、「残念だよ」と、心に刺さる呟きと寂しげな笑顔を残して直也が病院から去った後。聞いた浩二の話を要約してみると、こういうことらしい。

 大前提を言えば、陽花と伊藤君は、一度も恋人関係になったことがない……そうだ。

 確かに、高校一年のあの夏祭りの夜、陽花は伊藤君に告白をした。

 その後。サッカー部の練習がオフの日に、一度だけデートらしきこともしたらしい。

 陽花から直接デートの話を聞いたことは無かったけれど、私もこの辺りのことは、友達からの情報でなんとなく知っていた

『伊藤君と三池さんの、デート目撃談』

 その話を小耳に挟むたび単純な私は、『ああ、順調にいっているんだなぁ』と、すっかり二人が恋人同士になったことを、信じて疑わなかった。

 でも実際は、二人は恋人同士になるには至らなかったし、高校を出てから会うこともなかったのだとか。

 私がたまたま耳にした『伊藤君と三池さんは高校卒業後も付き合ってるらしい』という高校時代の友人の話は、まったくの根も葉もない噂だった。

『現在も伊藤君と陽花が恋人同士』

 それは、ハッキリ言って。

 簡単に言って。

 どう言っても。

 ……私の、激しい思いこみだった。 

 腹がたつことに、浩二のやつは私のこの激しい思い込みに気付いていた。

 気付いていたくせに、浩二がそれを教えてくれなかった理由。

 それは、実に単純明快。根本を辿れば、『陽花の願いを叶えたいから』

 もちろん、『陽花と伊藤君が恋人同士だと、私に思わせる』、なんてことを、陽花が願うわけはない。

 願ったのは、『もしも、今でもあーちゃんが伊藤君を好きなら、あーちゃんの伊藤君への思いの橋渡をできないかな?』ということで、それを遂行するために、浩二が勝手に目論んだことだった。

 私に精神的な揺さぶりを掛けて本音を引き出し、『伊藤君を好きだ』と認めさせ、最終的には陽花の願い通り、私と伊藤君はめでたくハッピー・ゴールイン!

 と、いう筋書きだったらしい……。

 そう。

 陽花は、私の伊藤君に対する恋心を、知っていた。

 それどころか。

 浩二曰く、

 私の胸に秘めたる、否。胸に秘めていると思っていた、伊藤君に対する恋心――。『それを知らなかったのは、伊藤本人』くらいで、クラスメイトもサッカー部の連中も、はては顧問の先生まで知っていたという周知の事実だったそうだ。

 それを聞いたときの、私のショックといったら。

 言葉にできないし、したくもない……。


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