48 / 52
第十四話 【約束】夏の終わりに。
48
しおりを挟むそう、私は大丈夫。
大丈夫じゃないのは、浩二の方だ。浩二が、涙を見せない――。
あの日、私が、リンゴジュースを買って病室に戻ったとき。
もう既に息を引き取った陽花を、まるで、壊れ物を扱うみたいに大切そうにその腕に抱き、全身で、慟哭しているのが分かるのに、それでも、浩二は、涙を見せなかった――。
医師の正式な死亡診断が下り、駆けつけたご両親が泣き崩れるその傍らで、涙を見せずただ静かに佇んでいた浩二。
こんなときは、泣いたっていいのに。
婚約者の浩二が泣いたって、誰もとがめたりしないのに。
「そうか、浩二が……」
ぽつりと落とされた伊藤君の呟きに、私は静かに頷いた。
「なんだか、心配でね。もともと涙もろいヤツなのに、涙一つ見せないなんて、そうとう無理しているんだろうなぁって。でも、私には、どうしてあげることも出来ないし……」
私は、何もしてあげられない。三ヶ月年上の従姉だといつも威張っているのに、肝心なときに、何もしてあげられない。
私に出来るのは、浩二の代わりに泣くことくらいだ。
陽花が火葬炉に入れられる直前の、『最後のお別れ』のとき。
棺桶の中で、みんなに手向けられた花々に守られるように、白無垢の花嫁衣装を身に纏い、死に化粧を施された陽花は、本当に綺麗で。
今にも、『あーちゃん』って、いつもの笑顔を見せてくれるようなそんな気がして、私は、込み上げてくる熱いものを押さえきれず、とうとう、泣き出してしまった。
浩二が泣かないのに、泣いたらいけない。
そう思えば思うほど、涙は止めどなく溢れ出した。
「大丈夫」
また涙の余韻が冷めやらず、再び熱いものが込み上げてきてしまった私は、優しく響く伊藤君の声に、ハッとして顔を上げた。
「え?」
「浩二は、大丈夫だ。アイツは、そんなに弱い人間じゃない。きっと、三池を最後まできちんと見送ってやりたいと、それが最後に自分ができることだと、そう思っているんだろう」
「最後に、自分ができること……」
「アイツなら、大丈夫。でも――」
「でも?」
「おそらく、全てが終わったら大泣きするだろうから、そのときは佐々木、君が側にいてやってくれ。俺には、それが出来ないから……」
伊藤君の、少し鋭い感じのする切れ長の目が、ちょっと寂しそうに細められる。
そうだった。
伊藤君は、浩二の一番の親友。私が知らない浩二を、伊藤君は知っている。
浩二のことを、たぶん私以上に、一番良く理解してくれている人だ。
そうだね。
今は、陽花をきちんと見送ってあげなくちゃ。
私にとってもそれが、最後に、陽花にしてあげられること。
「うん。まかせておいて。浩二が大泣きしたときの特大ハンカチの役割、しかと、この佐々木亜弓が承りました!」
おどけてガッツポーズを作る私に、伊藤君はあの少年のような笑顔を返してくれた。
0
あなたにおすすめの小説
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
Bravissima!
葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと
俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター
過去を乗り越え 互いに寄り添い
いつしか最高のパートナーとなる
『Bravissima!俺の女神』
゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜
過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。
互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。
✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧
木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生
如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター
高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる