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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
18 暗雲垂れこめる初面接⑤
しおりを挟む十二畳ほどの部屋は、豪華な応接室のような感じだった。
向かって左奥には、壁を背にして大きな家具調のデスクが置かれている。その隣には、やはり同じ家具調の天井まである大きな棚があり、書類らしきものや、カラフルな雑貨類が並べられていた。窓は、天井の近くに小さいのがあるだけなので、たぶん電気を付けないと、かなり暗くなるんじゃないだろうか?
部屋の中心には、いかにも高価そうな焦げ茶色をした革張りの応接セットが、この部屋の主だとばかりに、その存在をアピールしている。そう言えば、飾られている調度品も、どれもみな高そうだ。
ほへー。
よく分からないけど、ラブホテルって、もうかるのかな?
会社経営者と言っても、中身はバリバリ庶民な私の家とは、まるで別世界だ。
「どうぞ、お座り下さい。私が面接をします、不動です」
「篠原茉莉です! よろしくお願いします!」
ここぞとばかりに、元気にごあいさつ。
最初に会った人が、面接担当者だったなんて、ある意味ラッキーだったかも。なんだかこの面接、うまく行きそうな気がしてきた。私のこういう『予感』って、けっこう当たったりする。
イケメン氏・不動さんに座るように促されて、私は元気に一礼してからソファーにごく浅く腰掛けた。背筋をピンと伸ばして、履歴書を相手側に読めるように向きを直して、テーブルの上に静かに差し出す。
「履歴書です」
美由紀伝授の、『好感度ばっちり術』を生かしてニッコリ満面の笑みも忘れない。
――ふふふ、完璧。
遅刻は大失敗だけど、面接はこれから。
まだまだ、挽回はきくはず!
向かい側のソファーに座った不動さんが履歴書に目を通すのを、私は固唾を呑んで見守った。
書き損じて五枚目にしてやっと完成した、苦心作。誤字脱字は嫌になるくらいチェックしたし、抜けている項目も無い自信はある。でも、心配なことが一つだけ……。
「大学在学中とありますが、アルバイトではなくて社員を希望されているんですよね?」
不動さんが、履歴書からチラリと視線を上げる。その表情も声音もごく事務的で、特別な感情は読みとれない。
「あ、はい……」
――やっぱり、そこだよねぇ……。
最終学歴。高校卒で書こうかとも思ったんだけど、現実には私はまだ大学在学中の状態になっている。履歴書に嘘を書くのは、なんだか嫌だった。それに、もしも。もしも出来るのなら。働きながら大学に通い続けたい。
実際就職してしまえば、無理なのかもしれないとも思う。父も、会社の整理が終わったら『また初心に戻って、裸一貫、ダンプカーの運転手から始める』って言っていたけれど、まだどうなるかは分からない。学費については、奨学金や福祉制度を利用できないか色々調べてもいるけれど、それも思うような結果は得られていない。
生活費を稼ぎながら学費も工面して、更に大学に通い続ける。私に、『二足のわらじをはく』ことが可能なのか。そういう不安も確かに、なきにしもあらず。
自分でも、甘い考えだって分かっている。それでも。私はまだまだ、大学で学びたいことが、たくさんある――。
もちろん、質問されることは予想していたから、答えを用意していた。『経済的な理由で、急に働かなくてはいけなくなったこと』『急なことだったために、大学の退学手続きがまだ済んでいないこと』。そう、説明すればいい。
まあ、急なことだったのは確かだけど、退学手続きが済んでいないのは私に迷いがあるからだから、これは半分以上嘘の成分が含まれているけど。
私が用意していた言葉を言おうとしたとき、一足早く不動さんが口を開いた。
「まあ、夜勤専属なら、大学に通いながら働くこともできますが、あなたが考えているよりもだいぶきついでしょうね」
「……は?」
今、なんて言った、この人。
夜勤専属なら、何ですって?
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