オ・ト・ナの、お仕事♪~俺様御曹司社長の甘い溺愛~【完結】

水樹ゆう

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幕 間 社長・不動祐一郎の独り言 (1)

37 面白すぎるにもほどがある③

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 ソファーに浅く腰を掛け、ピンと背筋を伸ばしてこちらにまっすぐな眼差しを向けてくる面接に臨む真剣な姿勢も好印象。質問には緊張気味ながらも、人好きのする笑顔で答えてくる。これならば、不特定多数の客と対応するフロント業務もこなせるだろう。

 残るは、履歴書の中身だ。
 手渡された履歴書の内容を上から順にチェックしていく。

 住所は、以前住んでいた住所のままだった。美由紀の話では家を出なければならないとのことだったが、まだ転居はしていないようだ。

 取得している資格の欄には、自動車の普通免許だけが書かれていた。商業系の高校を出ていれば、事務仕事に必要な簿記などの資格も取れたのだろうが、茉莉は美由紀と同じ私立のお嬢様学校の出だ。現在の茉莉が、二十歳の女子大生、それも美大生だということを考えれば、まだ自動車免許があるだけ良い方だろう。

 ここまでは特に問題はない。問題なのは、『在学中』になっている大学のことだ。

「大学在学中とありますが、アルバイトではなくて社員を希望されているんですよね?」

 努めて事務的な口調で問えば、茉莉は「あ、はい」と肯定してから、何かを逡巡するように口を開きかける。しかし、うまく言葉にできないのかそのまま黙りこんでしまった。

『働きながら大学を続けたい』

 おそらくそう言いたいのだろうが、それを言えば就職できないかもしれない。そんな恐怖感から口に出せないのだろうと思った。

――俺も、いいかげん、甘ちゃんだな。

 そんな自覚はあったが、俺は茉莉に助け船を出すことにした。

「まあ、夜勤専属なら大学に通いながら働くこともできますが、あなたが考えているよりもだいぶきついでしょうね」
「……は?」

 俺の言葉の意図がつかめないのだろう。茉莉は驚いたように目を見開いた。

「夜勤の勤務時間帯は17時から深夜2時までで19時から、これは交代になりますが、1時間、食事休憩が入ります」
「……はい?」

 尚も特大の疑問符を顔に張り付けたまま小首をかしげる茉莉をみやり、俺は淡々と説明を続ける。

「勤務は週5日で、休日は他の社員との兼ね合いになりますから――」

 いったんそこで言葉を切って手元の資料をパラパラとめくりルームメイクのローテーションを確認してから、俺は説明を続ける。

 現在、フロント業務の人員は足りているから、新人を入れるとなるとルームメイク、つまり室内清掃しか空きがない。

「そうですね……。夜勤なら、土日のどちらか一日と、月・水・木のいずれかから1日、合計2日選んでいただくことになります」

 ここにきてようやく、すでに勤務内容の説明に突入していることに気付いたのだろう。茉莉は、生唾を『ごっくん』と飲みこんだ。

「給料日は毎月25日で、銀行の口座振り込みになりますので、後ほど振り込み口座番号を事務の者に伝えてください。1ケ月の試用期間の後、問題が無ければ正式採用になります」

 この時点で、採用モードに入っていることを確信したのか、茉莉の顔に歓喜の表情が浮かぶ。

 いちいち反応がわかりやすいんだが。
 おそらく腹芸などは、死んでもできないなこれは。

「給料は時給換算で、昼勤は1000円。夜勤は1200円です。これに別途皆勤手当と交通費、その他の手当て等がつきます」
「はいっ」

 茉莉は、そんなに頭を振ってめまいがしないのか? と心配になるほど勢いよくぶんぶんと頷いた。

「今は、昼勤・夜勤とも求人していますが、どうされますか?」
「夜勤で、お願いしますっ!!」

 そりゃあもう、答えは決まっている、とばかりに茉莉は今日一番の笑顔で言い放つ。

『ありがとうございます!』と体全体から感謝感激雨あられオーラを発しているその様子に、思わず口元が緩んでしまう。
「では、来週の月曜から来て下さい。勤務開始は夕方五時から。初日は仕事内容の説明がありますので、三十分前に出勤して……」

 そこまで言って、俺は思わず目を丸めた。ニコニコ笑顔で面接成功を喜んでいる茉莉の鼻の穴から、たらりと赤い液体が流れ落ちるのを目撃したからだ。

 おい、マジか。
 興奮しすぎて鼻血吹くか、面接で。

 お、面白すぎるぞ、お前……。

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