僕と四人の天使

海風クー

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第一話 運命の歯車

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「皆さん、ご入学おめでとうございます。」
 決まり文句でしかない校長先生の挨拶を新一年生は緊張しながら聞いていた。二、三年生は緊張することなく座って聞いていた。いや、座らされていたという方が正しい。
 そんな中、一人顔を赤くして少しうつむいている生徒がいた。名前は石井翔太(いしいしょうた)。この理由を知るには2時間ほど遡る。
 

     ――――2時間前――――

 入学式は午後からだが、翔太は午前から図書室にいた。友達が少ない翔太にとって図書室はかけがえのない空間で、本は友達なのかもしれない。
 (ちょっとトイレ。)
 翔太はトイレに向かおうとする。しかし、この学校の不便その一。図書室の近くにトイレがない!わざわざ渡り廊下を渡っていかなければならないのだ。 
 本を片手に翔太が渡り廊下を歩いていると、外を眺める可愛い女子生徒が立っていた。
 目はパッチリしていて、髪は背中を流れるようにサラサラだ。横顔でも美少女だということは一目瞭然だった。
 見たことがない。新入生か? いや、入学式は午後からのはず……
 その美少女は翔太のことに気付き長い髪をなびかせてこちらに振り返る。
 べ、別に俺には関係ない――。翔太は止めた足を再び前に動かした。
 その美少女はこれでもかというくらい翔太の顔を見ていた。
 瞳が窓から入ってくる光のせいか分からないが、ダイヤモンドのように輝いている。
 そんなに見ないでくれ。頬を赤らめる翔太は美少女と反対方向に顔を逸らし、早歩きで横を通り過ぎようとした。
「――待ってください!」
 美少女が翔太の本を持っている腕をガシッと掴んだ。
「な、なんでしょうか……?」
 まさか声をかけられるだけでなく、腕を掴まれると思ってなかった翔太は動揺していた。
「名前聞いてもいいですか?」
 上目遣いが可愛すぎる、犯罪級だ。
「石井翔太……です」
「じゃあ、何年生ですか?」 
「今年で二年」
 翔太はもうなにも考えられなくなっていた。状況を考えるよりも先に質問されて頭が真っ白になっている。
「じゃあじゃあ、彼女いますか!?」
「か、彼女……えーーーーーーーーーー!」
 まさか初対面の女の子に彼女がいるのかなんて聞かれると思っていなかった。翔太の驚いた声で美少女も少しびっくりしていた様子だったが、真剣な眼差しで顔をのぞき込んでくる。
「い、いないけど……」
「そーなんですね!よ、よかったらなんですが……!」
(なにか嫌な予感がする、そ、それ以上言うのは……!)

「私とお付き合いをしてください!!」

 翔太が止める前に、美少女の口からとんでもない言葉が解き放たれた。
(……つ、つき――あ、……あう?!)
 翔太の思考回路は完全にショートしていた。
「入学式が終わったら広場で待ってます!」
「おっ、おい!」
 美少女は言いたいことだけ言って、翔太が呼び止める間もなく走り去っていた。

    ――そして入学式に時は戻る――

 思い出すだけで恥ずかしい。いや、別に俺がなにかしたわけでもないのに。
(嬉しくない! ってことはない! 逆に嬉しい、あんな美少女に告白してもらえるなんて――で、でもだ! 俺は何も知らなすぎる……)
 翔太は入学式の間ずっと葛藤していた。
 そして時は過ぎ、入学式後――
 おそるおそる広場に翔太は向かっていた。
(頼む、いないでくれ!からかっただけだよな……)
 複雑な感情を抱きキョロキョロと辺りを見渡す。
「い、いた!」
(この声は!?)
 振り返るとそこには渡り廊下で出会った美少女が立っていた。
「ほんとに来てくれたんですね!」
「い、いや たまたま――」
 たまたま居合わせただけだと言うつもりが、彼女の笑顔を見ていたら喉の奥から言葉が出てこなかった。
「あそこのベンチに座りませんか!」
 完全に彼女のペースに乱されている。少しは対抗しようか自分のペースに持ち込もうとしていた自分がばかだった。
 ベンチに腰を下ろしたはいいものの、話す内容がない! 
 お互い少しムズムズしている。なんともいえない居心地の悪さだ。
「急にすみません。私、水咲(みさき)って言います。」
 ようやく沈黙が晴れと同時に彼女の名前はみさきということが判明した。
「みさきっていうんだ、よかった、名前知れて」
「で、本題なのですが――」
(んぐ!?)
 前も思ったが、切り込みすぎじゃない? 翔太はみさきの大胆さに戸惑うが憎めなかった。
「返事は翔太さんの好きなときでいいです!」
 みさきは恥ずかしそうに目をぎゅっとつむっている。
 翔太は少し安心した。彼女にも恥じらいがあるということと、返事は今じゃなくていいということに。
「分かったよ、これから仲良くしようねっ」
 翔太は安心感からみさきに笑顔向けた。
「はいっ!」
 翔太の言葉と笑顔を受け取ったみさきは照れながらもニコッと微笑んだ。 



 周りから見ればベンチに座ってただただイチャイチャしているような姿を遠くから見ている影あがった。その影は現実的にいえば女の子の影。非現実的に悪くいえば怨念が隠っているようだった。


   ――次回 第二話 幼馴染み――








 
 
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