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第二章 第二回人間軍大規模侵攻
第三十五話 若き君主とメイド
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――人間界 四大国 旧カルメナ・セチリア公国――
「お嬢様、騎士団の準備は整いました。指示があれば直ぐに出られる状態にあります」
城の一室にて、一人のメイドの声が響く。
「わかりました。……船も準備はできているんですの?」
そう答えるは、部屋の奥の書斎机にて資料に目を通す少女。
「はい。既にウォルロード国から手配してあります。こちらも指示でいつでも動けます、ストローネお嬢様」
ストローネと呼ばれた少女は、メイドを見て頷いた。
ストローネ・クロスエンド。先代君主であった親が早くに亡くなり、十八歳という若さにして一国をまとめる君主となった。
継承権第一位だったために君主となったが、最初は若かったからか不安の声が多かった。だが彼女は丁寧に国を整えていき、安定させたこともあってか、即位から一年経った今では、批判や不安の声は減少している。
「今回の第二回魔境侵攻は我が国の番。前回アストリア国は四天王の一人を斃したとの報告があったので、我が国も手柄を立てないといけませんの」
「はい。カルメナであった頃の雪辱も果たしたいものです」
旧カルメナ・セチリア公国は、元々は二千年前に初代魔王に滅ぼされたカルメナ国。滅ばされてから数百年後、クロスエンド家の先祖が復興してできたのがこの国だ。
カルメナ国を基礎として復興されたために、カルメナの文化が多く残り、カルメナ国民の子孫も多くいる。そのためセチリア公国の多くの民はかつての雪辱を果たさんと思っているのだ。
「今回はヘルミナも騎士団と共に出るんですの?」
「はい。普段はお嬢様の側付きとして雑務をしておりますが、これでも一応騎士団長です。大仕事の際は、私も出ます。
私がいない間は、下のメイド達がきちんとやってくれるはずです。メイド長として部下を育て上げるのも、私の仕事ですので」
「騎士団長とメイド長。兼職としては特殊な二つですけれど、大変ではないんですの? ヘルミナが望むのなら仕事を軽く――」
「いえ。お嬢様に仕える身として、仕事をこなせないような者ではなりません」
そう答えるメイドの姿は凛としており、今の立場に誇りを持っているようであった。
ヘルミナ・クロスエンド。彼女はセチリア城のメイド長にして、公国騎士団団長という、異色の肩書を持つストローネのメイドである。他にも多くの肩書や称号を持っており、最早その数は尊敬の意に値するほど。
メイド長と騎士団長を務めている彼女は高いカリスマ性と戦闘力を持っており、また殆どのことにおいて能力が高い。そのため騎士団や他のメイド、さらにはストローネからの信用は大きい。
「たまには甘えても良いんですのよ……」
とストローネがため息をつく。昔からの付き合いのため最早慣れっこだが、ストローネの前ではヘルミナは休もうとしない。
彼女は昔から真面目だった。
別に休んでも良いのに、と思う一方で、ヘルミナに色々と助けてもらっているのも事実だ。いつも彼女のことは彼女自身に任せてきた。ヘルミナの意見を尊重する。
ストローネはチラリと時計を見て、
「ヘルミナ、そろそろ時間になりそうですの。来たる明日に備えて、騎士団の方を整えてきて下さいな」
「はい。必ずや戦果を立ててきます。それでは失礼致します」
ヘルミナはお辞儀をし、扉へと向かう。
取手に手をかけ、扉を開きかけたその時、
「ヘルミナ、死んではなりませんのよ」
ストローネが、そう言った。
その声は不安や恐れを孕んでいるような、そんな声だった。
「貴女にまでいなくなられたら、私には、もう――」
ヘルミナが振り向くと、彼女の小柄な体が、その肩が、震えていた。
ストローネは一国の君主として人の前では気丈に振る舞っているが、彼女はまだ君主として若い。
早くして両親を失った彼女は、早く一人前にならねばと気を張ってきた。
だがヘルミナは今まで見てきた。
彼女が夜、独りで泣いていたことを。
両親はおらず、だが周りに人はいたが、己が君主となればそれは全員配下となり、気軽に話せるような態度は無い。
彼女は孤独感を感じていたのだ。
そんな彼らの上としての立ち振る舞いをしていれば、それもまた孤独感を生むのだろう。
そんなストローネを支え続けてきたのがヘルミナだ。
身の回りの世話から話し相手、そして相談にも勿論乗った。
ヘルミナはストローネが心を許せる唯一の存在であり、家族以上の存在であったのだ。
だからヘルミナは自身がいなくなったらストローネはどうなってしまうか、容易に想像できる。
ヘルミナは扉の取手から手を離し、主の元へと戻る。
「お嬢様、私が今までお嬢様の元からいなくなったことはありますか」
「ない……ですの」
「私が仕事を放棄してお嬢様の元から離れることは、絶対にありません」
ストローネが俯いていた顔をバッと上げる。
「絶対……絶対ですのよ……!?」
「はい。勿論ですとも。
……お嬢様。いつもの、やりますか」
ストローネが頷く。
二人は右手を出し、そして小指を絡ませた。
昔から二人がしてきた、約束のおまじないだ。
「どうですか。少しは安心しましたか」
ヘルミナがそう言うと、ストローネはにこりと笑った。
「ええ。ヘルミナのことは、信用していますもの」
そう言葉を交わし、手を離した。
ヘルミナは扉へと進み、
「それではお嬢様、行って参ります」
「ええ。いってらっしゃい、ヘルミナ」
そして扉を開け、ヘルミナは部屋を後にした。
「お嬢様、騎士団の準備は整いました。指示があれば直ぐに出られる状態にあります」
城の一室にて、一人のメイドの声が響く。
「わかりました。……船も準備はできているんですの?」
そう答えるは、部屋の奥の書斎机にて資料に目を通す少女。
「はい。既にウォルロード国から手配してあります。こちらも指示でいつでも動けます、ストローネお嬢様」
ストローネと呼ばれた少女は、メイドを見て頷いた。
ストローネ・クロスエンド。先代君主であった親が早くに亡くなり、十八歳という若さにして一国をまとめる君主となった。
継承権第一位だったために君主となったが、最初は若かったからか不安の声が多かった。だが彼女は丁寧に国を整えていき、安定させたこともあってか、即位から一年経った今では、批判や不安の声は減少している。
「今回の第二回魔境侵攻は我が国の番。前回アストリア国は四天王の一人を斃したとの報告があったので、我が国も手柄を立てないといけませんの」
「はい。カルメナであった頃の雪辱も果たしたいものです」
旧カルメナ・セチリア公国は、元々は二千年前に初代魔王に滅ぼされたカルメナ国。滅ばされてから数百年後、クロスエンド家の先祖が復興してできたのがこの国だ。
カルメナ国を基礎として復興されたために、カルメナの文化が多く残り、カルメナ国民の子孫も多くいる。そのためセチリア公国の多くの民はかつての雪辱を果たさんと思っているのだ。
「今回はヘルミナも騎士団と共に出るんですの?」
「はい。普段はお嬢様の側付きとして雑務をしておりますが、これでも一応騎士団長です。大仕事の際は、私も出ます。
私がいない間は、下のメイド達がきちんとやってくれるはずです。メイド長として部下を育て上げるのも、私の仕事ですので」
「騎士団長とメイド長。兼職としては特殊な二つですけれど、大変ではないんですの? ヘルミナが望むのなら仕事を軽く――」
「いえ。お嬢様に仕える身として、仕事をこなせないような者ではなりません」
そう答えるメイドの姿は凛としており、今の立場に誇りを持っているようであった。
ヘルミナ・クロスエンド。彼女はセチリア城のメイド長にして、公国騎士団団長という、異色の肩書を持つストローネのメイドである。他にも多くの肩書や称号を持っており、最早その数は尊敬の意に値するほど。
メイド長と騎士団長を務めている彼女は高いカリスマ性と戦闘力を持っており、また殆どのことにおいて能力が高い。そのため騎士団や他のメイド、さらにはストローネからの信用は大きい。
「たまには甘えても良いんですのよ……」
とストローネがため息をつく。昔からの付き合いのため最早慣れっこだが、ストローネの前ではヘルミナは休もうとしない。
彼女は昔から真面目だった。
別に休んでも良いのに、と思う一方で、ヘルミナに色々と助けてもらっているのも事実だ。いつも彼女のことは彼女自身に任せてきた。ヘルミナの意見を尊重する。
ストローネはチラリと時計を見て、
「ヘルミナ、そろそろ時間になりそうですの。来たる明日に備えて、騎士団の方を整えてきて下さいな」
「はい。必ずや戦果を立ててきます。それでは失礼致します」
ヘルミナはお辞儀をし、扉へと向かう。
取手に手をかけ、扉を開きかけたその時、
「ヘルミナ、死んではなりませんのよ」
ストローネが、そう言った。
その声は不安や恐れを孕んでいるような、そんな声だった。
「貴女にまでいなくなられたら、私には、もう――」
ヘルミナが振り向くと、彼女の小柄な体が、その肩が、震えていた。
ストローネは一国の君主として人の前では気丈に振る舞っているが、彼女はまだ君主として若い。
早くして両親を失った彼女は、早く一人前にならねばと気を張ってきた。
だがヘルミナは今まで見てきた。
彼女が夜、独りで泣いていたことを。
両親はおらず、だが周りに人はいたが、己が君主となればそれは全員配下となり、気軽に話せるような態度は無い。
彼女は孤独感を感じていたのだ。
そんな彼らの上としての立ち振る舞いをしていれば、それもまた孤独感を生むのだろう。
そんなストローネを支え続けてきたのがヘルミナだ。
身の回りの世話から話し相手、そして相談にも勿論乗った。
ヘルミナはストローネが心を許せる唯一の存在であり、家族以上の存在であったのだ。
だからヘルミナは自身がいなくなったらストローネはどうなってしまうか、容易に想像できる。
ヘルミナは扉の取手から手を離し、主の元へと戻る。
「お嬢様、私が今までお嬢様の元からいなくなったことはありますか」
「ない……ですの」
「私が仕事を放棄してお嬢様の元から離れることは、絶対にありません」
ストローネが俯いていた顔をバッと上げる。
「絶対……絶対ですのよ……!?」
「はい。勿論ですとも。
……お嬢様。いつもの、やりますか」
ストローネが頷く。
二人は右手を出し、そして小指を絡ませた。
昔から二人がしてきた、約束のおまじないだ。
「どうですか。少しは安心しましたか」
ヘルミナがそう言うと、ストローネはにこりと笑った。
「ええ。ヘルミナのことは、信用していますもの」
そう言葉を交わし、手を離した。
ヘルミナは扉へと進み、
「それではお嬢様、行って参ります」
「ええ。いってらっしゃい、ヘルミナ」
そして扉を開け、ヘルミナは部屋を後にした。
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