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昔の荷物はこれ

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持ち上げると重く、斜めに傾ければ小さなものが端から端に転がる音と感触が手に伝わる。

枯れ葉のような布を無理やり剥がせば焦げ茶の大きい箱が顔を出し、箱を持ち上げ横に振れば様々な音が中から聞こえた。

「……ガキの宝箱」
「お黙り」
少なく見積もって約10年。

貯金を使い上質な布を用意して、長持ちすると評判の箱をウキウキと買った記憶が頭の片隅でちらちらと見え隠れして目を瞑る。

久しぶりに見た感想は……ぐすたふの言った通り秘密基地の奥に隠してあったオーラを醸し出す……漬け物を入れたはこ、いやタイムボックス……みたいな。

この箱を今は亡き粉々の祠の中に収めた時の事がぼんやり頭に浮かび少し懐かしいと思う。


「どれどれぇ?…… やっぱガキの宝箱じゃねえか」
「お黙り」
「お? なんだこれ」
「顔邪魔どいて」
「おがふ……つれねえな」
箱の中身を見ようと頭を出したぐすたふを手で押し退け、改めて僕は箱の中に目を通す。

「ちっとは良いじゃねえかよぉ」
「ん? なんか言った?」
「……こええよ」
むくれるぐすたふを睨んで黙らせ手元の埃っぽい本の表面を手で払う。

布で包んだり密閉にしたりできることは全部やったつもりだけど中は細かい埃で真っ白。

でも酷く劣化した様子もなく拭けば読めそうでよかった。

少しカビ臭い気もするけど…雨でぐちゃぐちゃになってないだけマシだね。

「他のも…うん、大丈夫だね」
本を脇に挟み次に手に取ったのは四角い封筒が数枚、持ち上げてキラキラと埃が舞う様子に眉を寄せ、ゆっくりと息を吹き掛け埃を飛ばす。
一度全て出し、空の箱を逆さにして荒く埃を落とし、封筒を一つにまとめ本と共に箱に納める。

隅でごちゃごちゃになっていたアクセサリーをひとつひとつ丁寧に取り出し箱の蓋の上に並べて、と。

「……手入れすればまだ使えるかなー」
「さぁな~」
チェーンの錆びついたペンダントを指で擦りこびりついた赤い錆びに眉を寄せる。
宝石がはめ込まれた指輪とイヤリングは手のひらに転がせば少し埃が取れた。

宝石を日にあて目を凝らし眺めたら箱の隅に転がして目を閉じて息を吐く。

こんなものか…。


「ぐすたふ」
一通り確かめて満足した僕は箱を手に立ち上がり寛いでいた人の名を呼んだ。


「お帰るか?」
「うん、もどろ」
「あいよ」
心得たと笑うぐすたふににっこりと僕は笑い返した。





これにて、ちょっとして遠出はおしまい。


拠点の広場から森の最奥地まで僕の足で約二時間、余分なことや休憩を挟まかった場合の計算。

行きは特別何も起こらなかったからあっという間についたけど実際蓋を開けてみればただ無言で道なき道を進む地味の一言で全て片付けられる。

「……ぐすたふ」
「おうよ」
さて、説明口調で長々とやっていた僕ことギフニール、何を考えているかといいますと。


「……さむいね!」
午前中はごろごろ、午後からゆっくりと動いていれば当然日は傾く。

夏とはいえ日の射しにくい森の夜、比較的過ごしやすい奥地でも例外ではなく結構寒い、さむい、つまり適当に言葉並べて現実逃避。


「……そんな薄着してるからだバカ」
「……そんなことは無い」
箱をお腹に抱きながらすっかり日の落ち暗くなった森を歩く僕は口をへの字に文句を言う。


「半袖半ズボンの格好で言われてもなあ」
……夏は暑い、暑いなら裸……は真顔で怒られたから簡単な格好で済ませちゃったんだよねこれが。

ぐすたふも半袖の涼しそうなシャツなんだけどズボンは足首まである奴だし腰に暖かそうな上着を巻いている、なにこの格差。

「何かの間違いで暖かくなると思って」
「間違いが起こったらおおごとだっつーの、ほら、こい」
「へい?」
暗闇でよく見えない視界のなか頭を叩かれ特に何も考えずに立ち止まるぐすたふの気配を間近に感じ吐息が耳にかかる。


「ほれ、それなりにマシだろ」
そう思った時には既に僕は箱ごと抱き上げられていた。

「む?」
左手は僕の体を支え、もう片方の腕は僕のお腹にまわる。
頭を厚い胸板に抑えられぐすたふに耳元で言われどう反応すればいいのか迷う僕は固まり……かたまり。


「丁度いいから寝ていい?」
「寝るな」
荷物の手入れはまた明日……。

……本気で寝る訳じゃないからね?






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