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二章 城

スプラッタアリムさん

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「何故体を清めてから来なかったのですかアリム! 見なさい、マスターの顔色が悪くなってしまったじゃないですか!」

憤怒の表情を示して言ったクロユリさんは目の前にいる反り血で赤くなった同僚を睨み付ける。

対して罵られたアリムさんは表情こそ見えないけど手を強く握っている。


「マスターの気分を害してしまったのは謝るが元はと言えばお前がどちらが早くマスターの居所へ参上できるか競いましょうなどと戯けたこと抜かすからだろうが!!」

いやなにやってるの貴方達………。



「その話に乗った貴方が悪いのではなくて?!」

「お前が先についたらマスターに頭撫でてもらうなど不謹慎極まりない事を言わなければ私は乗らなかったがなっ! 」


不謹慎って言うか頭撫でるってもろ犬…………。


「あらそれを言うなら「ストップ! 」っ! 」

いつまでも続きそうな喧嘩に見かねたミネルスさんが二人の間に入り止めに掛かる。


「貴方達仲が良いのは大変よろしいんですが、せめてするなら一通り報告を終えてから、そしてラグーン君の居ないところで仲良くやってもらっても良いですかね?」

輝く笑顔はブリザードの如し、満面すぎるミネルスさんの笑顔にアリムさんとクロユリさんはその場でピシィッと直立姿勢になり声を揃えた。


「「申し訳ありませんでした!!」」

息ぴったりだねこの二人…………。





「それで、神殿で色々とやっていたようでしたが、簡潔でも良いので、教えて頂いても?」

二人の様子に変わらぬ笑顔でミネルスさんは聞く、するとクロユリさんがニコリと笑う。


「ならここはわたくしが説明致しましょう。アリム、貴方は早くその身に付いた汚らわしい血を清めてきなさいな……ミネルスさん、馬用でも大丈夫ですので水場貸してくださる? 」

馬用の水場? 乗馬レースとかにあるやつ?

と謎な事を考えてい僕を他所にそれを聞いたミネルスさんは苦笑を浮かべた。


「いや、流石にそれは……この時間帯なら浴場が空いてるのでそちらを使用してはいかがですか?」

「いいえ、アリムなんかにお湯を用意するなんて贅沢なことは無いですわ! こびりついた血なんてタワシで磨けば済むのですわ!」

こそぎ落とすってアリムさん洗い物みたいな扱いされてるね…………。


「…………とりあえずアリムさん、部下に案内させるのでどうぞ洗い流して来てください…………」

ミネルスさんは苦笑しながらも部屋の扉に控えている兵士に目配せした。


「すまないミネルス殿、クロユリ……お前あとで覚えておけよ…………?」

最後恐ろしい声を出したアリムさんは兵士に促されて部屋から出ていった。





気分を変えようと紅茶をクロユリさんに勧めたミネルスさんはさてと話し始めた。

「それではクロユリさん、報告を聞かせて頂いてもよろしいですか?」



勧められるままお茶を優雅な所作で口に運んだクロユリさんはニコリと笑みを浮かべて言った。


「えぇ、わかりましたわ。まぁ簡潔に言いますけども、我らがマスターの神殿に勝手に巣くっておりました豚数匹駆除させて頂きました、あら、このお茶かなり美味ですね」

…………豚を駆除? だからアリムさんあんな血だらけだったの? いやでも神殿の中に家畜なんて居ないと思うしな………………。


「ありがとうございます。それで、一般神官はどうしましたか? 」

……神官ってあれでしょ? ゲームの職業の一つで攻撃できる技が少ない代わりに回復魔法とか魔物とかが苦手な聖魔法使える独特なものだっけ?

聖水作るために教会行ったときに見かけたことある。


するとクロユリさんは少し考える仕草をしすぐにポンと手を叩いた。


「あぁ、あの低級聖魔法使いですか、アリムはどうかはわかりませんが殺してはいないですよ? 」

ニコリと答えたクロユリさんにミネルスさんは安堵の息を漏らす。


「そうですか、それなら良かった、それでラグーンく… んて、貴方なにしてるんです? 」

そして話を変えようとミネルスさんが僕の方を見ると、そこにはアルさんに膝にのせられてお菓子を与えられたりなでこなでこされたりしている僕の姿があり固まる。


それに続いて僕を見たクロユリさんもピシリと固まった。


「……見ての通りだけど? 」

話聞いてるのもつまらないし、アルさんもそこは同じなのかニコニコしながら僕に飴なりクッキーなりを口にいれてきて、あ、これさっきやられてた奴だわ。


「見ての通りじゃなくて貴方は少しは危機感を覚えたらどうです?!」

我に帰ったミネルスさんは血相を変えて僕を問いただす。

対してクッキーをもしゃもしゃとしている僕は首を傾げた。


「? 危機感? お城のお嬢様がたの嫉妬と憎しみに当てられる危機感?」

「違くはないですが妙な方向に間違った鋭さを持たないでください!」

そんな声荒げること~?


「だってアルさんこんなイケメンなんだよ? 絶対貴族令嬢達に人気でしょう」

なんかぐいぐい来るけど何だかんだ言って優しいし大きな手で撫でられるとささくれてる心が安心するかな。


「お? 俺かっこいいか? 」

かっこいいという言葉に反応したのかアルさんは僕の顔を覗きこむような体勢になり聞いてくる。


「だからそう言ってるでしょ」

顔近いなおい………。


「そうかそうか! ほれ食え! 」

満足のいく答えにアルさんはニカッと笑い、皿の上にあるタルトを僕の口に突っ込んだ。



うむ、上手い。



「ふむ……」

甘酸っぱくて美味しい


「そこ、自分達の世界築き上げてないで人の話をだな…………」

今まで空気になっていた(失礼)王様がテーブルに肘をつき苦々しく顔を歪ませた。



そんな事はお構いなしにと一通り僕にお菓子を与えたアルさんはガタリと僕を抱き上げると立ち上がった。


「別にこれ以上話すことねぇだろー? 部屋行こうぜラグ」

そう言って扉に向かおうと歩き始めるアルさんの前に青筋たっぷりのミネルスさんが立ち塞がる。


「いま話そうとしてるのはとても重要な事、面倒臭がってないできちんと耳に入れてください、そしてラグーン君、貴方は今夜はダンジョンとこちらで用意した客室、どちらで休まれますか?」

ん? 休む? 寝る場所か。


「えー? うーんじゃあ久しぶりにダンジョン見たい「ラ~グ?」………なんでしょうかアルさん」

不穏な声に上を見ると極悪人みたいな顔のアルさんが………。


「どうしたじゃねえよ、ラグはこれからずっと俺と一緒に寝るって約束したろうが」

なにそれ初耳なんですけど……………。


「そんな約束したっけ…………? 」

「してませんよねそれ………」

ほらミネルスさんも言ってるじゃない


「はぁ………頭沸いた事言ってんじゃねえよアルギス………で、どうするんだラグーン、ここの客室で寝るかダンジョンの方で寝るか、もしくはアルギスと同じ部屋で寝るかだな」

みかねた王様がやれやれと選択を促す。


選択肢は豊富かな?


「俺の部屋で寝るよなラグ?悪いようにはしねえぜ?」

そうでも無かった………。

て、眼力が鋭いなおい………。



「全く………貴方言ってることが悪役のそれじゃないですか、それに決めるのはラグーン君なので無駄な主張なんてしないでくださいよ」

呆れたミネルスさんが眼鏡をスチャリと直しながら宥めるが、アルさんはニヤリと笑う。


「まぁ確かにそうだな、寝るとこは一つしかねえからなに言ったって変わんねえよな」

「解釈が違う気がしますがまぁ良いでしょう…………、話が長引きましたがどうします? こんな自分勝手なゴリラの所にいくんですか? 」

疲れたような顔になったミネルスさんはため息をつくと僕に尋ねてきた。


「どうするんだ? 」

王様もミネルスさんと似たような顔で聞く。


うーん、眠くて考えるのめんどくさくなってきたな~。


「ん~? まぁダンジョンを見たい気持ちもあるけどいま眠いし埃被ってると思う僕の部屋を一々掃除するのもめんどくさいし………アルさんとこで寝るかなぁ……じゃあクロユリさん、アリムさんにもダンジョン行かないこと伝えて貰える? 」

「畏まりましたマスター! では明日ダンジョンへお越しくださいませ! 」

にこやかに言ったクロユリさんが優雅にお辞儀すると、それと同時に体が透け始め、溶けて消えるように見えなくなってしまった。


「ラグーンの答えかなり消去法じみてないか…………?」

「ですね…………」

王様とミネルスさんが顔を見合わせると同時にため息をついた。


「じゃあ行こうか! 」 

そんな二人を置いてアルさんはズンズンと扉へ向けて歩き出した。


「…………ねえいい加減抱っこやめてくれない? 僕歩きたいんだけど」  

何だかんだ言ってここに来てからほとんど歩いてない気がするんだけど。


「断る」

「えぇ……」

「俺が抱きてえのを我慢してやってるんだから我慢しろ」

即答したし。


「いや今抱いてるでしょうが…………」 




そんな声を最後に、扉を乱暴に閉める音と共に二人は退室していく。


残された二人は再度顔を見合わせた。


「あいつ部屋で盛んねえよな…………?」

「まぁ恐らく大丈夫でしょう…………恐らくですが………」



この先の事を考え、二人は苦々しくため息をついたのだった。







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