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八章 ほころび

微睡み

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魔法、体術、技能は使えば使えば使うほど、敵に命中させればさせるほどそのスキルは強くなりそしてキャラ育成ゲームのように新たな技が身についていく。

それは僕でも例外ではなく、【フリーダムライフオンライン】を始めた直後から生産系統の技能に集中してきた僕の技能は僕本体のレベルの数倍上をいく。



その力を存分に活用し用意した服を手にリビングに戻ってくればお風呂場からオークちゃんと王様のはしゃぐ声が響いて耳に届く。



「……タオルか」

一気に服を仕上げ終えたためかお腹の底から溜息が出るけど……いいや。



ソファに体を投げた僕は手を組み持ち上げ思い切り伸ばし眉を寄せる。



「……体いたい」

頭に浮かんだイメージをそのままに服を仕上げるのはゲームの仕様的に慣れている。

王様達がお風呂から十五分前後で出てくることを考え少し頭が痛くなったけど早く終わらせるために頭の回転早くしたことも当然として。



服を完成させ回転していた思考も止め、何も考えずただ真顔で歩いていたからか、それとも単純に自分がどんくさいからなのか、リビングへ続く階段を上る途中足を踏み外し見事に転げ落ちた…体が痛い。





「もう何もしたくない……なにもやりたくない……やだやだやだ」

ぐだぐだとニート謳歌していたから忘れていたけど、自分は切られようが焼かれようが毒飲まされようが問題の無い死体、だけど痛覚は健在らしく痛いものは痛い。



自分から進んでやる行動にはこれといった疲れは生まれないけど階段から足滑らした瞬間のストレスと落ちた時の痛みで全てを壊し尽くしたくなる衝動に駆られ、それすらもすぐにどうでも良くなる。

傷にも痣にもなってないけどその分鈍い痛みは長く続く。



もうヤダ、やろうとした事も何もかも嫌になるもうほんと……。





「んん、……タオル…お茶…洗い物…めんどくせえ」

糸の切れた人形よろしく頭からソファに突っ込んだ体制のまま数分、無駄なことだとは百も承知だと頭では理解してはいるけど



このままではいけないと回らない頭で考え、一つ閃く。



「……そうだ」

寝そべった体制のまま指を鳴らせば、少しの間を置いてソファの裏の影から音もなく人の形をした影が這い出てきた。

影が現れた場所に手を入れ二枚の大きなバスタオルを取り出し影に持たせる、次にテーブルの上に投げ出していた二人分の服を畳みこれも影に押し付ける、最後にお風呂場に指を向けて指を鳴らせば衣類を手に持った影は足音も立てずにお風呂場へと歩いていく。



影を使役するスキル、【影使い】は翼出したり影を通じて移動できるのだからと試してみればうまくできた。

自分の影を作り、これをRPGのキャラクターを操作するように動かせば一丁上がり。

これをうまく扱えれば僕は一歩も動かずに雑事面倒な事をこなせる……素敵じゃないか。



うんうんと頷きソファに座れば衣類を置いてきた影が帰ってくる。



つい今しがたお風呂場から悲鳴が聞こえたような気がしたけど……多分はしゃぎすぎて滑ったのね。



ソファーの横にたたずむ影に向けてもう一度指を鳴らせば、その場に溶けるように影は消えた。





これで大まかな問題は解決と息を吐き、ソファーに背中を預けた所でお風呂場の扉が勢いよく開けられ乱暴な足音に後ろを向けばタオルを腰に巻いた姿の王様がしかめっ面で立っていた。



「おいラグーン!! なんだ今の黒い人影は!? 見ろテルが怯えているじゃないか!」

「え~? 」

腕を組んでご立腹な様子の王様の足に目を向ければは言葉通り顔色が悪いオークちゃんがくっついている。



「僕の分身だから気にしないでね」

「気にしてるからこうして言っているんだろうが!」

てへ、と首を傾げて言えば途端に王様の顔が赤く変貌する。





「ですよねー……次から出すとき一言言うよ」

「全く……着替えは礼を言う、ありがとう」

「別に好きでやった事だから構わないよ……怒ると顔赤くなるのね」

「ああん?」

おっと聞かれてた。



「なんでもございません」

「たく……それじゃあ着替えてくる、いくぞテル」

「ぶう……」

反射的に視線を逸らせば王様はため息をつき着替えの置いてあるお風呂場へと足にオークちゃんをくっつけながら歩いて行った。



「はーいごゆっくり~」

その様子をのんびりと見送り思い切りソファーに顔を埋める。







うん、あと二時間はこうしていたい。



のびのびだらだら、今日はもうこんな感じでいい。

何も起こらず、何もせず何もしろと言われず急ぐことも特にない。
特別悩むことがなく怒られる事も無ければ将来に悩む必要もない、……多分ね。


何も考えずただぼーっとしているだけでいい、たまにのんびりとお出かけできればそれで満足、進学も就職も人との関係もコミュニケーションも全部全部本当は面倒くさい……いや、知らない上に嫌みをいったりイライラしたり言語は同じなのに話が通じない人と話すのが嫌。



自分の好きなようにやりたい、嫌なことは全てなくしたい。

それを親は甘いと馬鹿にする自分自身もそれは夢物語だとわかるり

けど、ここなら、それも許されるかもね……んん。







「眠い、寝よ」
王様達来ちゃうけどこの際面倒だからいいや、適当に理由を付けようそうしよう。





うとうとと微睡む思考で結論づけ、重たい瞼を閉じようとしたその時。




今まで静かだったこの家に、玄関の扉から聞こえるノック音が耳に届いた。









★★★
読んで頂きありがとうございます

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