超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
123 / 165
第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第十八話  王女二人の午後

しおりを挟む

 ダーンとステフが王立科学研究所エルモ支部に来て三日が過ぎた。

 ダーンは、研究所の臨時職員にしてアーク王家の客人剣士ケーニッヒと、ここのところ毎日剣の稽古をしている。
 そして剣の稽古のあとは、疲れた身体を休める間もなく、不機嫌に口をとがらせたステフの相手をして、研究所の動体標的相手に、一緒に戦闘訓練をしているようだが……。


 ステフの方は、新しい武器《白き装飾銃アルテッツァ》の扱いにも慣れてきたようで、さらに《リンケージ》状態での戦闘訓練もこなしはじめていた。

 訓練の際、動体標的の人像標的に、長い金髪のウイッグを被せては、気晴らしに蜂の巣にしているようだが、まあ、そのくらいはごあいきようというものだろう。



 そして、彼らは研究所内にある研究員用宿舎の空き部屋をそれぞれ用意されて、そこで寝泊まりをしている。

 宿舎は、男女別々のフロアーにあり、お互い異性は進入禁止エリアになっていた。

 それが好都合とばかりに、ステフとカレリアは彼女たちの専用の宿舎に寝泊まりしていることをダーンには黙っているのだが……。


 王家専用の特別室――――

 入り口は厳重な機械警備が設備され、暗証番号と生体認証をクリアしなければ、三つある扉のうち一つ目の扉すら開かない。

 その王家専用の宿舎のうち、カレリアの自室では、執務を早めに切り上げた部屋の主がソファーに座って、自ら淹れた紅茶を楽しんでいた。

 時刻は午後三時を回って、優雅なティータイムといったところだ。

 水を厳選し、その水にあった茶葉と温度を選定し、絶妙な抽出をした至高の一杯。

 そのに我ながら満足しているカレリアは、目の前の一枚の調査報告書を眺めていた。

 その報告書には、蒼髪の剣士ダーンの身体的データが活字印刷されており、さらに調査内容が手書きされている。

 報告者の名は、ケーニッヒ・ミューゼルとあった。

 その報告書には、予め書きやすいように横欄の点線がひかれているのだが、その横欄を完全に無視し、極太の黒インキペンで斜めに記載されたのは一言――――


    『マーベラス!』


「…………ふぅ……」

 記載者のかがやかんばかりの笑顔がその書面から浮き出ているかのようで、カレリアはだるい溜め息をいてしまった。

 恐らくは、古代アルゼティルス文明の言語の一つであろうが、イマイチ訳のわからない単語が一つ書かれていた。


 ただし、それだけでカレリアは満足だった。


 調査内容には、姉の護衛や相方として不適格であったのなら、その内容を記載するよう言ってあったのだが、そういったネガティブな事は書かれていない。

 つまり、彼は姉の相手として全くそんしよくないということなのだ。

 だが――――

「お姉様はどうするつもりなのかしら……」

 気がかりなことはその一言に集約する。

 姉の立場と蒼髪の剣士の立場――――

 相手は、同盟国とはいえ他国の傭兵だ。
 しかも、アテネ王家直系の貴族に養子という立場。

 単純に「恋しちゃいました」では、なかなか許されない恋路だろうに……。

 まして、あの父がそう簡単に認めるわけがなく、きっと独特の中低音で「まずは俺を倒してからにしてもらおうか、少年……」と軽く見下すような素振りで、派手に一戦交えるに決まっている。

 まあ、そんなことよりも当人同士のことの方が問題か……。

 姉はまだ、自分の本当の身分や実名を彼に告げていない。

 まさか、家族やスレームなどの親しい者達しか呼ばない『愛称』で自分を呼ばせていたことには驚きだったが、彼は気がついていないだろうし……。

 そう考えて、三日前ここに来たときに、ダーンとの会話を思い出し、考え直し可笑しくなって笑い出す。

――なかなか……ああ見えて鋭い朴念仁さんでしたね。そうですわね、私も彼の評価は『合格』です。お父様には、私からもお願いしてあげましょう。

 アーク王国第二王女、カレリア・ルーク・オン・アークはクスクスと笑って、調査報告書にサインをした。

 そして、再び真剣な面持ちで、今度は壁に掛かった一人の女性の肖像画に向き合う。

「さて、あとは王女としてではなくもう一方の立場として、あの二人を判定しなくてはなりませんね」

 一人言のように言い、さらに肖像画に軽く微笑んでみせると、カレリアは「大丈夫ですよ、お母様。もう、ほとんど結論が出てますから」と付け加えるのだった。




         ☆




 構えた《白き装飾銃アルテッツァ》の銃口の先、こちらの神経をさかでするような動体標的が、あからさまに挑発してくる。

 青筋をこめかみに浮かべつつ、蒼い髪の少女は引き金を引いた。

 高速螺旋収束する衝撃エネルギーは、独特の轟音を伴い蒼い閃光となって標的に向かうが、着弾寸前に標的にかわされて、その奥の特殊なエネルギー吸収バックヤードに吸い込まれていく。

 衝撃エネルギーが消失する乾いた音に混じって、胴体標的の方からけたたましい合成音声が少女を挑発し始めた。

『外れだね……また外しちゃったよ! ケケケッ』

 動体標的はデフォルメされた人像だった。

 それは、奇妙なことに音声が出る仕組みで、さらに表情まで変える仕組みだ。

 金髪のウイッグを被せたその動体標的は、今日のお昼過ぎに研究所の臨時職員、ケーニッヒ・ミューゼルが独自に開発し、ステフに試させているものだが……。

 これが妙にすばしっこく、こちらの射撃タイミングを読んで変則的な動きをするのだ。


――――「今までのものよりも、はるかに実戦的な動体標的だから、打ち落とせたら大したものだよ。そうだ、もし撃破したら、ご褒美に彼との甘い一時を提供しようじゃないか」

 金髪ロン毛の優男が言い残していった、その言葉に、ステフは「べ、別にそんなご褒美なんか気にならないけど、あたしが撃破できない動体標的って言うのが気になるのよね」と応じて、その挑戦を買ったのだが……。

 開始して既に三時間……エネルギーカートリッジ二個以上を消費して、ただの一度も撃破ならず。

 頭頂部から湯気が出そうなほどげきこうして、七連射してみたがかすりもしなかった。

『そろそろ、あきらめてはいかがです? あのふざけた動体標的よりも、奥のエネルギー吸収バックヤードの方がそろそろ限界で、もうじき壁に大穴が空きますよ』

 胸元の宝玉、ソルブライトが呆れた声で言ってくる。

 確かに、《衝撃銃》の光弾を多層理力フィールドで吸収する特殊なバックヤードだったが、こうも何発も連続で強化された《白き装飾銃アルテッツァ》の光弾を受けていれば、流石に限界があるだろう。

「わかっているわよッ! もう、なんで当たらないのよッ」

 もう一発撃ってみたが、やはりすんでの所で躱される。

 そして、人を小馬鹿にしたような表情をして、ヤジを飛ばしてくるけったいな動体標的。

「ぐぬぬぬぬ……」

『ムキにならないでください……いいですか、あなたが冷静さを欠いてくることを狙って、あの標的は……って、やっぱ聞いていませんね……」

 諦めたようなソルブライトの声、その宝玉を力一杯握りしめたステフは、やけっぱちに叫ぶ。

――――《リンケージ》!

 瞬間、美しい裸体を晒したあと、白い防護服に身を包んだステフは、再度《白き装飾銃アルテッツァ》を構えて、さらに覚えたてのサイキックを発動した。

 《予知フォーサイト

 狙った対象の一瞬未来を予見し、捉えるサイキックだ。しかしながら…………

「ちょっとぉ! どうしてえないのよ?」

 ステフの視界に、動体標的の未来の動きは視えなかった。

『はあ……当たり前です。相手はこちらの攻撃に各種センサーで反応し回避するようプログラムされた物体ですよ。そこに何か意志のようなものがあるわけないのですから、その動きを予見するなど不可能ですよ……』

 深い溜め息と共に、ソルブライトが解説してくると、羞恥心をミックスした憤りがふつふつと少女に湧いてくる。

「絶対に墜とす……あの金髪優男ッ……泥棒猫の男板!」

 低く怨念を込めて言ったステフは、手にした《白き装飾銃アルテッツァ》の後部にある撃鉄に親指をかけた。

『何をワケのわからないことを……って、コラコラ……その撃鉄を起こしたら……バカ、止めなさいステフ壁に穴が……ああッ』

 ソルブライトの悲鳴にも似た制止もむなしく、チャージ・ショット――――通称『ブラスター・ショット』の蒼い閃光が、轟音と共に動体標的ごと施設の一部を崩壊させるのだった。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...