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第四章 ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~
第二十一話 水際の戦場
しおりを挟む大瀑布のエリアから、扉をくぐり抜けた先は、やはり水に関係するエリアだった。
だが――――
ダーン達四人がその場に足を踏み入れたとき、彼らは異様な感覚に包まれていた。
まるで身体の重さが半分以下になったような感覚。
その違和感に、まずは自分の身の危険よりも、後方に肩を怒らせて付いてきていた蒼い髪の少女を案じ振り返るダーン。
そして――――
ダーンの視界に、笑った表情で明らかに琥珀の瞳が怒りに燃えている情景と、桜の花びらをモチーフにしたセパレートの水着姿が映り、彼の網膜を焼き付けていた。
『はい、遂に来ましたね、水着です』
たわわな柔肉を、形を崩すことなく均整に保持する限界の面積しかない布地、その中央で揺れるペンダントの宝玉が溜め息交じりに言葉を紡ぐ。
「な……何が、どうなって? ――――っていうか、ダーンッ、離れなさいよッ」
真っ赤に怒って、ステフがダーン近づき、彼の剥き出しになった腕にしがみついていたカレリアを引きはがしにかかる。
「ああんッ……お姉様、今強引に離れますと、水着が破けてしまいますの。ご無体ですわ」
芝居かかった猫なで声を出すカレリア。
その胸元も、なかなかに面積の少ない水着が豊満な乳房を包んでいたが、彼女の場合は、その水着のトップが胸の他に、抱きついていたダーンの腕まで巻き込んでしまっていた。
引きはがしにかかると、水着のカップ間のベルト部分が引き伸び、胸の谷間が空いて白い柔肌が露わになってしまう。
「うわああッ……」
もはや情けない悲鳴のような声を上げて、ダーンは慌てて柔肉と水着に挟まれた腕を、上に抜き出した。
その彼のやはり剥き出しになった左脛へ、サンダルを履いた少女のつま先がめり込む。
少し湿気の高い空気に、ダーンの悲鳴が木霊した。
☆
『たまたま、腕を抱いていた胸元の衣装が、水着に替わったために、その腕が水着の中にインしてしまったようですね……というか、挟んでましたね……』
「これも、《水神の姫君》の仕業ならば、なかなかお色気イベントの好きな女神のようですが……」
ソルブライトの半ば諦めかけた声と、それに応じるように会話するスレーム。
その視線からも、左脛にはしった痛みと同様、妙な痛みを感じるダーン。
「あたしですら、あんな風に直接触れさせたことないのに……」
低く呟くステフの失言に、耳聡いスレームがニヤリと笑って、ソルブライトが溜め息を盛大に吐いている気がした。
具象結界の影響と考えられるが、ダーン達四人は全員水着姿になっていた。
ステフはセパレートのビキニタイプで、薄桃色の布地を見事に重ねて縫製し、桜の花びらをモチーフにしたもの。
カレリアもビキニタイプだったが、彼女の方は姉よりも少しだけ護りに入っているような感じで、腰にパレオを巻いているし、素材の色も青色のシンプルなデザインだ。
一方、最年長者は黒のワンピースだったが、ハイレグでへその部分や脇の部分は大きく開口し、露出は高かった。
まさに、妖艶な雰囲気が出まくりのものだ。
「ダーン様のモノは地味ですね……もっとセクシーなものでもよかったのですが」
カレリアが残念そうに見つめてくるダーンの水着は、紺色の裾が膝まであるトランクスタイプだった。
「それにしても、これはどういう意図でしょうか?」
どことなく楽しげに聞こえるカレリアの声、その彼女に姉のステフは半目で睨めて応じる。
「水辺だから、気を利かせて水着を用意しました……ってトコじゃない。ああ、もちろん、こういった気の使い方は、神経を逆なでしてくれるんだけどね」
途中から声のトーンを落として、胸元の宝玉をつまみ上げて睨むステフ。
『断っておきますが……私の意志は全く介在しておりませんからね。今代の水の精霊王サラスは随分と悪戯好きのようです』
「悪戯……ね。で、この先の妙な水上アスレチックは何なの?」
そう言うステフの視線の先、水鏡のような水面をたたえる巨大なプールと、その水上に浮かぶ様々な足場や、丸太をもしたフロート様の物体、縄ばしごなどがある。
フィールドアスレチックを水上に合わせて設けた状況だ。
「私、こういうのを理力ビジョンの番組で拝見したことがあります。水着の若い女性達が、景品をかけて競技するイベントでした」
榛色の瞳を輝かせてカレリアが言う。
「ああ……たしか『ポロリもあるよ』みたいな言葉を番組のタイトルに入れていたために、なかなかの高視聴率になったヤツですね。録画収録の番組で、やばそうな映像は修正していたんですが――――国王陛下自らが検閲し、厳しく規制したと話題に……」
「あのエロオヤジ……」
スレームの呟きに、何故か青筋を立てるステフ。
「向こう側に、大きな扉があるが……随分とでかいな」
ダーンの呟きにあわせ、全員が水上アスレチックの向こう側を見ると――――
アスレチックを攻略し向こう側の高台まで至れば、巨大な扉のようなものがある。
ただし、その扉はこちらからでもはっきりとわかるほど、完全に凍り付いていた。
「なにかしらの条件をクリアーすれば、アレも融解して次に進めるというわけでしょう」
スレームは嘆息しながら、さらに付近の壁面に設けられたものに視線を走らせた。
スレームの視線につられて、ステフもそれを凝視すれば、それは水を固めたような透明な板であり、大きさは1メライ四方もないものだったが……。
「競技上の注意事項?」
半分何かを馬鹿にしたようなステフの声。
彼女の睨むその板には、箇条書きで何やら文が書かれている。
「ふむふむ……なるほど、随分と素敵な嗜好をお持ちのようですね、今代の《水神の姫君》は」
そこに書かれた文章を読み、妖艶な笑みを浮かべて随分と上機嫌になるスレーム。
対照的に、蒼い髪の少女はその美しい顔を困惑に曇らせていた。
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